「風間陽水の依頼簿（カルテ）・1034」

カルテ番号　よ・６（44）

「何だか怖い話ですね・・・」
院長は頷いた。
「怖いのは・・・人の心にある種ですね。
注目されたい、立派になりたい、偉くなりたい。
種は、一見向上心に見えます。
だから、真面目に努力し精進する人に怖さが育ちます。
戦争時は皆さん、真面目で努力する人ばかりです。

それだけ真剣に取り組みますから、正しいと信じている。
正しさを追い求めると、他を否定します。
違う生き方、違う思想、違う考えの人を攻撃します。
しかも努力家だから、攻撃も強く、容赦もない。
戦争の悲惨さは、真面目で正しい人たちが生むものです。
冗談といい加減な世界では、戦争になりませんから」

百合は自分を振り返った。
自分は真面目なのだろうか？
不真面目ではなかったが、真面目とも違う。
正しさなんてわからなかった。
目立たぬように、こっそりと生きる為に努力した。
常に争いから避けるように生きてきた。
生きにくい世の中だと思っていた。
院長の言葉で、わかったことがある。
自分は大勢の人達と、違うから生きにくかったのだ。

（登場する人物・組織・その他はフィックションです）

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