カルテ番号 の・7(6)
彼女の口調がいつもと違っていた。
「私も香織さんも、あまり心の中は話さないタイプでしょ。
でもね、何となく解るの。
私もね、いろいろあったから、明るく振る舞うようにしているわ。
私は一人で出歩いたり、いたずらを考えたりしているけど、似たタイプだと思っていたわ」
彼女から直接聞いたことはないが、夫婦関係の悩みがあったらしい。
かなり深刻な時期もあったと、それとなくウワサを聞いた。
「誰だって、いろいろあるわよ。それが普通。
でもね、最近の香織さんは壁に当たっている感じがするの。
そして、そういうことは、誰にも話さないでしょ。
自分で気づいているかどうか知らないけれど、ちょっと深刻な気がしていたわ。
他の人には気づかれていないと思うわ。多分、私だけ。
生きる力というのか、そういうのがくすんでいると感じていたの。
でもね、私は勝手に余計なお節介はしない、というポリシーもあるのよ。
だから、常に気にしていたわけじゃないわ」
野上香織も彼女といると楽なのは、そういうところだ。
人の生活や生き方に決して口出ししない。
女性は、つい、他人の生き方や行動に口を出しやすい。
でも、彼女は人の内部に踏み込まない。
どういう行動をしても、批判などしない。
その彼女が、今回、こういう話をしているのは、とても珍しい。
(登場する人物・組織・その他はフィックションです)
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