伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
 伊勢の山々から志摩の海までの、自然史スポット&とっておき情報など…。
  感性の趣くままに-。

伊勢の朝熊山あれこれ

2010年05月08日 | 伊勢

朝熊山の展望台より伊勢方面を望む

山上からは東海18州を一望

 朝熊山(朝熊ヶ岳)は、伊勢志摩国立公園の最高峰(主峰経ヶ峰、海抜555m)として知られ、その山上からは、鳥羽湾はもとより、東海18州を一望におさめ、晴れ渡った日には、遠く富士山までも見渡せる程雄大な眺めを持っています。

その名の由来は「あさくま」の短縮形

 朝熊山という名前の起こりは、昔時、弘法大師(空海)がこの山で修業をした時、
朝に熊、夕に虚空蔵菩薩が現れた との謂れから来ており、「あさま」の発音は、各地の「浅間山(せんげんさん)」の信仰とはかかわりが無く、明らかに「あさくま」の短縮形である。

その昔、ツキノワグマが出没

 さて、その昔、朝方この山に熊が出ても不思議では無く、山地続きの紀伊半島の山々には,かつてはツキノワグマが多数生息をしていた。空海が山駈けをしていた頃は、狩猟で必要以上に狩られる事もなく、大台ケ原山方面から当地に熊が移動して来ていたと思われる。

大気中のチンダル現象かも

 しかし、「夕方、虚空蔵菩薩が現れた」というのは信じがたいが、山上にて西に太陽が沈む光景は今も目にする。雲がかかっておれば、コロイドを成す上空の雲粒の分散状況によっては、日射しの光跡がチンダル現象として観察され、正に後光が差すように感じられたのかも知れない。そしてその菩薩の正体は、「幻日」の一種だったかも知れないし、あるいはほうき星(彗星)だったかも知れない。

朝熊かけねば…

 元来、朝熊山は、朝熊登山鉄道があった頃の客寄せのキャッチ・フレーズに、

「お伊勢参らば朝熊をかけよ、朝熊かけねば片参宮(かたまいり)」

と、謡われていたのを見ても分かるように、古くからの名山であり、山上には弘法大師中興の名刹金剛証寺(今は臨済宗の禅寺となっている)がある。ここは、伊勢神宮の鬼門を護る特別な寺院でもあるが、全国に鉄道網が整備されて以降は、いち早く観光化されていた。特に戦前は、伊勢参宮を終えた後の観光気分も加わって、伊勢の「岳参り(たけまいり)」として全国にその名が浸透していた。
 これとは別に、当地伊勢では、死者が出ると、葬式の後に朝熊山上の奥の院に行って供養の卒塔婆をあげる風習があり、今に受け継がれている。

戦前は、東洋一のケーブルカーで

 第二次世界大戦までは、北斜面に東洋一の急勾配を持ったケーブル・カーがあったが、終戦間際の鉄材の供出で線路がはずされ、現在は軌道跡のみが残っている。
 その後、尾根伝いの石くれの登山道をボンネット・バスが走っていた時代もあったが、これに代わり昭和半ば以降は、伊勢志摩スカイライン(全長16.3kmの有料道路)が鳥羽へと通じており、各所に展望台が設置されていて、ドライブで眼下に伊勢湾周辺のビュアーを楽しむことができる。

学術上、価値のある貴重な山

 朝熊山は、信仰や観光の対象として庶民に親しまれているが、動植物や岩石、鉱物なども希産種が見られ、学術上の価値も見逃せない、大変貴重な山でもあります。


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