語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>福島第二原発の汚染 ~ヤクザと原発~

2012年02月09日 | 震災・原発事故
 鈴木智彦『ヤクザと原発』は、紙数の大部分が福島第一原発で作業員として働いた経験、そこでの見聞に割かれている。その意味では、副題の「福島第一潜入記」がタイトルとなるべきであった。
 著者はヤクザ専門のルポライターだ。なぜ「潜入」する気になったのか、よくわからない。何がきっかけか。どうやら、血が滾った・・・・のであるらしい。
 とにかく、著者はジャーナリストであることを伏せて、昨年7月13日から8月22日まで勤務した。東京の自宅から通い、2日に1度400km強、日によっては500km近くを往復した。
 それなりに興味深いルポだが、縷々と綴られた体験の部分は端折って、ここでは総括的な「終章」のうち3点に注目したい。

(1)暴力団の稼ぎ方
 暴力団は原発の近隣対策費、要するにみかじめ料で稼ぐ。原発に限らない。火力でも水力でもやり方は同じだ。窓口は建設業者だ。<俺たちにとっては幼なじみの同族だからな。>
 全国の暴排条例は、公共工事から暴力団に流れる資金を遮断する目的で作られているが、本格的な取り締まりが行われているとは言いがたい。<とくに原子力発電のように、あちこちにタブーを抱え、潜在的な隠蔽体質を持った産業は、暴力団の生育条件としては申し分ない。>福島第一原発(1F)の関連企業には、現役暴力団員が役員となっている企業が存在した。
 また、原発は地元にも「土産」を落とす。例えば、福島のJヴィレッジ。暴力団は、そのおこぼれにありつくのだ。
 原発の外にも、いくらでもシノギはある。例えば、20km圏内の瓦礫撤去、近隣の建設工事、除染ビジネス。
 地縁・血縁をベースにした地方都市では、都市部と違って、一方的な恐喝者として存在する暴力団はあまりない。付き合う側にも何らかのメリットがあるのだ。例えば、非合法のサービスの提供、表に出せないトラブルの解決、裏社会の有名人とのパイプ。

(2)線量より汚染度が問題
 汚染度を理解するには、原発内の区域区分を見よ。原発は、どこでも線量と汚染度を組み合わせ、その場所の危険度が分かるように区分されている。
 線量を表すのは、1~3までの数字だ。1区域・・・・線量当量率が0.05mSv未満。2区域・・・・0.05~1.005mSv。3区域・・・・1mSv以上。
 汚染度を表すのは、A~Dの区分だ。作業員の装備は、汚染度区分で決まる。特別保護倶や全面マスクが必要なのは、線量にかかわらずD区域だ。
 3・11の事故後、汚染度チェックはいい加減になってしまった。
 (a)事故対応の作業員たちが寝起きする1Fのシェルターは、床の随所に線量を表示する黄色のプレートはあっても、汚染度はどこにも示されていない。1F協力会社幹部によれば、シェルター内部はD区域相当だ。そんな重汚染区域内で平気で飯を食うのは、事故前の原子炉の中で飯を食うようなものだ。
 (b)現場に行くとき履いた靴は、もう汚染されている。本来ならば毎日新品に履き替えなければならないのだが、実際には行われていない。
 (c)現場やJヴィレッジはもとより、20km圏内に入った車も汚染されるのだが、ろくに除染されないまま福島県内を走り回っている。
 (d)事故前、1Fでは最大130~180カウントが汚染のリミットだった。しかるに今、Jヴィレッジでは13,000カウントを超えないかぎりモノも人も、そのまま外へ出している。

(3)福島第二原発(2F)の汚染
 マスコミは、1Fばかりに目がいって2Fには注目しないが、何かあったとしか思えないほど、汚染がひどい。
 2Fの原子炉4基は、すべて停止している。冷却に問題はなく、原子炉の温度も安定しているが、復旧作業が行われたのは4号機だけだ。
 東電関係者によれば、まだ定期検査を開始していないのに、なぜこんなに汚染しているのか不明だ。最上階のオペレーションフロアやコンクリート遮蔽プラグ(原子炉の釜の上の部分)など信じられないほど放射能まみれだ。ペデスタル(原子炉の釜の下にあり原子炉を支える台座)にも水が溜まっている。
 某電力会社OBによれば、ペデスタルに水が溜まっているのが事実なら、すごい圧力がかかったということだ。制御棒か配管か、壊れた場所は特定できないが、とにかく原子炉の底は抜けている。1Fと同じく水素爆発があったのではないか。原子炉格納容器が破損したから、釜の上下に異常がある。
 東京電力が2日置きに発表する2Fのプレスリリースに汚染の記述はまったくない【注】。

 【注】隠蔽されていた事実が、少しずつ明かされている。【記事「冷却機能停止、大惨事と紙一重だった…福島第二」(YOMIURI ONLINE 2012年2月8日20時43分)】

□鈴木智彦『ヤクザと原発 ~福島第一潜入記~』(文藝春秋、2011)
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