語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】まえがき ~『ファシズムの正体』~

2018年04月06日 | ●佐藤優
 <2017年は国際情勢が緊迫した年だった。東西冷戦終結後、蓄積されていた負のエネルギーが一挙に爆発したという感じだ。そのことを端的に可視化したのがアメリカにおけるドナルド・トランプ大統領の誕生だった。トランプ大統領が誕生しなければ、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発問題にしても、ここまで朝鮮半島情勢が緊張することはなかったであろう。
 それに加え、中東での緊張も高まっている。アメリカ議会は1995年10月に、エルサレムを「イスラエルの不可分の首都」と認め、テルアビブからのアメリカ大使館移転を承認する法案を可決した。もっともアメリカの歴代大統領は、この法律を直ちに実施すると、中東で大混乱が起きるので、6ヵ月ずつ、法律の施行を遅らせる大統領決定を行っていた。この政策を2017年12月6日にトランプ大統領が抜本的に変更した。トランプ大統領がホワイトハウスで演説し、エルサレムをイスラエルの首都として「公式に承認する時だと決断した」と述べ、宣言文書に署名し、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに「可能なかぎり速やかに」移転させる手続きを始めよと、国務省に指示したからだ。トランプ大統領の決定に対しては、世界的規模で反発が強まっている。トランプ大統領がこの決定を行ったのは内政的要因からだ。アメリカでは、2016年の大統領選挙にロシアが干渉したのではないかという「ロシア疑惑」が大きな問題になっているが、捜査を痰とするロバート・マラー特別検察官が12月1日、マイケル・フリン前大統領補佐官を連邦捜査局(FBI)への虚偽の供述をした偽証罪で起訴した。同日、フリン氏はワシントンの地方裁判所に出廷して起訴内容を認めるとともに、司法取引で捜査に協力する意向も示した。この結果、トランプ政権に打撃を与える証言が出てくる可能性が高まった。ここでトランプ大統領としては、自らの中核的な支援者である親イスラエル的な宗教右派の支持を固めるために、在イスラエル・アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転し、中東に大混乱を引き起こすことで、ロシア問題を政局の争点から外そうと試みたと私は見ている。
 内政的な基盤を強化するために、外交的危機を煽るのは、ファシズムの常套手段だ。トランプ大統領の「文法」を理解するためにも本書は役立つと思う。>

□佐藤優『ファシズムの正体』(集英社インターナショナル新書、2018)の「まえがき」を引用

 【参考】
【佐藤優】『ファシズムの正体』の目次

 




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