本書は、人が直面する23の主題・・・・死、幸福、懐疑、習慣、虚栄、名誉心、怒、人間の条件、孤独、嫉妬、成功、瞑想、噂、利己主義、健康、秩序、感傷、仮説、偽善、娯楽、希望、旅、個性をめぐるエッセイである。
たとえば「孤独について」はいう。孤独が恐ろしいのは孤独そのもののためではなくて、むしろ孤独の条件によってである。あたかも死が恐ろしいのは死そのもののためではなくて、むしろ死の条件によってであると同じように、うんぬん。
そういわれると、受験勉強の孤独は、山の中の孤独とは違う、と思う。また、癌が恐ろしいのは死が必至だからではなくて、長期にわたる苦痛を防ぐすべがないからだ、とも思う。
あるいは、「孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのではなく、大勢の人間の『間』にあるのである」という断章がある。
逆説めいているが、要はディスコミュニケーションが孤独を生むということだ。
精神科医の荻野恒一の調査によれば、能登半島から東京へ流れ出た人の統合失調症発生率は、能登で暮らしつづける人のそれよりもはるかに高いそうだ。人間関係は、人口が過疎の田舎において濃密で、人口が過密の都会において希薄である。統合失調症は対人関係の障害とも呼ばれる。濃密な人間関係にとっぷり浸かっていた田舎の人が、都会の希薄な人間関係のなかで発病しやすいらしい。・・・・そんな話まで思いが及ぶ。
感情は主観的で知性は客観的、という社会通念に挑戦するような考察もあって、考えこまされる。
つまり、感情は客観的、社会化されたものであり、むしろ知性こそ主観的、人格的なものだ、と三木清はいうのである。感情こそ多数が共有するということだ。この先に社会心理学の仕事が展開するはずだ。
薄い文庫本だが、なかみはとても濃い。
思索のエッセンスだけを述べ、『パンセ』のような短い断章を連ねる体裁だから、余白を読者が埋めなくてはならない。前述の「孤独について」で示したように、余白を埋める作業は難しくない。
1947年という昔に刊行されたとは、ちょっと信じられないくらい新鮮な人生論で、広く読みつがれてきただけの理由はある。
三木清は、哲学者。治安維持法違反で捕まり、獄死した。時流に敏感な人で、実存主義、現象学、マルクス主義といった当時最新の思潮に取り組み、わが国に紹介した。『パスカルに於ける人間の研究』、『構想力の論理』などは、時代を切り開く思想だった。レトリックの価値を論じた『解釈学と修辞学』のように、今日でも一読の価値がある仕事もある。
□三木清『人生論ノート』(新潮文庫、1954、1985改版)
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たとえば「孤独について」はいう。孤独が恐ろしいのは孤独そのもののためではなくて、むしろ孤独の条件によってである。あたかも死が恐ろしいのは死そのもののためではなくて、むしろ死の条件によってであると同じように、うんぬん。
そういわれると、受験勉強の孤独は、山の中の孤独とは違う、と思う。また、癌が恐ろしいのは死が必至だからではなくて、長期にわたる苦痛を防ぐすべがないからだ、とも思う。
あるいは、「孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのではなく、大勢の人間の『間』にあるのである」という断章がある。
逆説めいているが、要はディスコミュニケーションが孤独を生むということだ。
精神科医の荻野恒一の調査によれば、能登半島から東京へ流れ出た人の統合失調症発生率は、能登で暮らしつづける人のそれよりもはるかに高いそうだ。人間関係は、人口が過疎の田舎において濃密で、人口が過密の都会において希薄である。統合失調症は対人関係の障害とも呼ばれる。濃密な人間関係にとっぷり浸かっていた田舎の人が、都会の希薄な人間関係のなかで発病しやすいらしい。・・・・そんな話まで思いが及ぶ。
感情は主観的で知性は客観的、という社会通念に挑戦するような考察もあって、考えこまされる。
つまり、感情は客観的、社会化されたものであり、むしろ知性こそ主観的、人格的なものだ、と三木清はいうのである。感情こそ多数が共有するということだ。この先に社会心理学の仕事が展開するはずだ。
薄い文庫本だが、なかみはとても濃い。
思索のエッセンスだけを述べ、『パンセ』のような短い断章を連ねる体裁だから、余白を読者が埋めなくてはならない。前述の「孤独について」で示したように、余白を埋める作業は難しくない。
1947年という昔に刊行されたとは、ちょっと信じられないくらい新鮮な人生論で、広く読みつがれてきただけの理由はある。
三木清は、哲学者。治安維持法違反で捕まり、獄死した。時流に敏感な人で、実存主義、現象学、マルクス主義といった当時最新の思潮に取り組み、わが国に紹介した。『パスカルに於ける人間の研究』、『構想力の論理』などは、時代を切り開く思想だった。レトリックの価値を論じた『解釈学と修辞学』のように、今日でも一読の価値がある仕事もある。
□三木清『人生論ノート』(新潮文庫、1954、1985改版)
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