語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【安倍“暴走”内閣】文書改ざん問題の本質と改善策 ~強い独立機関、「公共」の倫理~

2018年05月11日 | ●佐藤優
(1)問題
 <学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書を財務省が改ざんしていたことが発覚した。民主主義の根本を掘り崩す前代未聞の不祥事に、「官」の在り方が議論されている。>

(2)強圧的な「一強」政権の無茶と無謀
 <安倍晋三首相ら政治家の関与の有無など、まだ不明な点は多い。だが、ジャーナリスト青木理が「なぜ日本は『情報隠蔽国家』になってしまったのか」(「文春オンライン」4月10日)で述べるように、加計学園問題や自衛隊の日報問題にも共通する「強圧的な『一強』政権の無茶で無謀なありようと振る舞い」が問題の核心にあり、「最大かつ根源的な」責任が政権にあるという視点は、押さえておくべきだろう。>

(3)官界における歪みの構図
 <成蹊大学教授の高安健将は「『議会制デモクラシー』の危機」(ニュースサイト「ザ・ページ」4月12、13日)で、自身の発言や意向が、政策判断に必要な事実や手続きよりも優先される構図を政治家が政府内につくってしまったことこそが問題なのだ、と強調する。
 例えば、保管されているはずの資料を野党に求められて、ろくに探しもせずに国会で「存在しない」と言い放つ官僚を、首相が「適材適所」と公言して栄転させたことは、具体的な指示よりも、はるかに強力なメッセージになり得る。一連の問題を巡る国会での振る舞いにも、組織のトップに求められる「高潔さと自己抑制」は乏しいようにみえる。>

(4)政治主導の前提が喪失
 <内閣人事局の設置による省庁の幹部人事の把握など「政治主導」の行き過ぎが、官邸への過度な忖度を生み出し、行政をゆがめたとの批判は強い。
 ただ、神戸学院大教授の中野雅至は「財務官僚はなぜ、文書を改ざんしたのか?」(「ウェブロンザ」3月27、28日)で、1990年代以降追求されてきた政治主導を促す制度設計の前提として、政策体系の異なる政党による定期的な政権交代が想定されていたことを指摘。「安倍一強」の長期化で、政官の役割分担や行政の中立性の在り方が変容していったとみる。>

(5)必要とされる「強力な多数の独立機関」
 <とはいえ、かつての官僚主導に戻すことは現実的ではないし、望まれてもいない。当面、政権交代が見通せない現状で政治主導を適切に機能させるには何が必要なのか。
 東京大教授の牧原出は「強い官邸には強い独立機関が必要だ」(「中央公論」5月号)で、文書改ざん問題で、会計検査院が一定の役割を果たしたことに注目する。そして、現在は内閣府の諮問機関にとどまっている公文書管理委員会の権限強化をはじめ、「強力な官邸に対して強力な多数の独立機関が並び立ち、これらを両輪とする」体制を築くことを提案する。>

(6)共有されるべき「公共」のイメージ
 <電子決裁の推進や改ざんや廃棄に対する罰則強化などを含む、そうしたシステムの改革だけでは足りず、いかに「国民の官僚」としての倫理観を自覚させるかが鍵になると、座談会「安倍政権と旧日本軍の相似形」(「文芸春秋」5月号)で強調するのは、近現代史研究者の辻田真佐憲だ。
 そのために、便宜的な「国民の物語」の必要性を説く。時代に即した「公共」のイメージが共有されることが、官僚たちの動機づけになり、「暴走を予防する安全装置」にもなるとみる。
 ただ辻田も懸念するように、国民の歴史感覚が希薄になり、価値観の多様化と分断が進む中で、ネトウヨ的「愛国」と一線を画しつつ「大きな物語」を紡ぐのは至難の業だ。「国民の官僚」を育てる私たちの覚悟も求められる。>

□記事「文書改ざんと官僚 政治との関係どう在るべき ~焦点/争点~」(日本海新聞 2018年5月4日)を引用し、見出しを付記


 【参考】
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~