語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【メディア】オバマの広島訪問に大賛辞の朝日紙、立ち直りは疑問

2016年05月26日 | 社会
 (1)「国境なき記者団」による「世界報道自由度ランキング」で日本は2010年の11位から2016年には72位に下落した。
 その最大の要因が第二次安倍政権のメディア支配にある、という点で衆目は一致している。特定秘密保護法による萎縮が広がり、黒塗りのTPP関連資料を打破できていない状況だ。
 海外メディアが幻滅して当然だろう。

 (2)マーティン・ファクラー・「ニューヨーク・タイムズ」前東京支局長は、近著『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』(双葉社)で、日本の状況を厳しく批判している。
 「従軍慰安婦」の「吉田証言」と原発事故の「吉田調書」の報道に係る「朝日新聞」の訂正と謝罪は過剰だった、という。しかも、それに勢いづいた安倍政権の「朝日」叩きに他紙も便乗した。結果として新聞全体が信頼を失い、読者離れが加速した。
 信頼と読者を取り戻す活路は、権力者が嫌う「調査報道」だ。「朝日」には「調査報道」の実績が数々ある。最近では同紙に復活の気配がある、とファクラー氏はいう。

 (3)「朝日」は過去29年間、4月末頃に
   「『みる・きく・はなす』はいま」
と題した連載を繰り返している。阪神支局が「赤報隊」に襲撃され、2人の死傷者を出した事件を契機としたものだ。去年まではほとんど毎年、人びとを不安にさせる内容に終始していた。それが今年は、脅しに屈しない動きの紹介に変わった。
 この変化は評価できる。
 けれども、あまりに遅い。「朝日」はほんとうに立ち直ったのか。

 (4)5月11日朝刊をみると、心許ない。
 全国紙の1面トップはどこも、オバマ大統領の広島訪問の話題だ。だが、「朝日」はさらに2、3面、第1、2社会面に社説までつけたはしゃぎぶり。内容は「訪問大歓迎」一色で、広島の地元紙のようだ。
 これでは自民党筋の期待どおりに、安倍晋三・首相の外交的成果づくりに手を貸すことになる。
 「産経新聞」は、第1面で「日米『歴史問題』解消を図る」と、早くも外交的成果に位置づけている。
 「日本経済新聞」も、安倍首相がお返しに真珠湾訪問をする案が浮上した、と伝えた。「日米首脳が過去の戦争の象徴的な場所を訪れ合い、敵対関係から強固な同盟を築いた」とアピールするのが狙いだ。
 こうした“掘り下げ”が「朝日」には見られない。

 (5)一方で「産経」が、「日本国内では、左翼勢力が訪問を政治的に利用しようとするかもしれない」と危惧している。
 いいヒントだ。
 大統領の広島訪問のネックになっていたのは、「原爆が終戦を早めた」という、米国内の俗説だった。
 「本当にそうなのか?」という議論の機会が生まれたことになる。すでに歴史学では、「原爆がなくても日本の敗北は明白だった」が定説だ。
 それに、8月まで降伏を遅らせたのは、天皇制存続の了解を連合国から得るのに固執したためだった。中学の歴史教科書にも明記されている。
 「遅すぎた聖断」の話題こそ、安倍政権や「産経」の嫌うところだろう。

□高嶋伸欣(琉球大学名誉教授)「オバマの広島訪問に大賛辞の『朝日新聞』 立ち直りは疑わしい」(「週刊金曜日」2016年5月20日号)
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 【参考】
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【メディア】放送の「自由」と「公平・公正」とは ~停波問題~
【メディア】安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~停波問題~
【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~
【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~
【メディア】高市総務相は「脅し」の政治家、報道は「健忘症」
【メディア】総務大臣には、停波命じる資格はない ~放送電波停止発言~ 
【メディア】や高市発言にみる安倍政権の「表現の自由」軽視
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