「トイ・ストーリー」のジョン・ラセターが「クルマたち」という映画をつくる上で気をつけたことは“自動車マニアにしか通じない要素をできるだけ排除する”ことだったそうだ。そしていつもどおり徹底的にストーリーをねりあげて観客にしあわせな時間を提供するのだと。ディズニーと泥沼の争いをくり広げた商売人としては(結局、彼はディズニーのアニメ部門のトップに立った)、そうして良質な作品を作り続けることこそが結局はビジネスで生き残るために必要な作業だと彼は信じているのだ。
そしてその作業は成功した。すばらしい映画だ。
予定調和なストーリーじゃないかと批判するのは簡単だ。でも
“勝者であることよりも重要なことがある”
“時代をまちがえた(60年代じゃないんだぞ!)『長距離走者の孤独』”
“主人公は友情によって成長していく”
こんな説教臭いテーマを、21世紀に感動までもっていくのがどれほど大変か。ためにキャラクターは嫌みなく造型され、そのくせバックには60年代の香りが健在なジェームス・テイラーの哀切なメロディーが流れる。うまい。
でも配給のディズニーには文句がある。日本で上映されるこの映画の94%は吹替版とのことだが、これはないだろう。だって字幕版では“伝説のレーサーだったが今は田舎町で医者をやっている頑固じじい”というまるでポール・ニューマンみたいな役をポール・ニューマンが吹き替えているんだよ(笑)。わたしはその演技を“聞きたくて”観に行ったようなものなのに。
まあ怨みごとはともかく、速く走るだけの生活を送る不遜な主人公(名前がマックィーンだぜ)をレーシングカーに設定し「バックミラーもなく」「ヘッドライトもない」ために田舎町に迷い込んでしまう展開にはうなった。人格の欠損をこんな形で描けるなんて。脇をかためるクルマもいい。都会のハイソな生活からドロップアウトしたヒロインはポルシェ、フェラーリしか認めないイタリア系タイヤ店主、やっぱり自動車マニアの方が楽しめるかな。
こんなすばらしい映画が「ファインディングニモ」の半分しか稼いでいないようなのはくやしい。絶対観て!
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