休日の午後、わたしはひとりでラーメン屋に入り、ワンタンメンの大盛りに食らいついていた。“何かを読みながらでないと食べられない”悪癖をもつわたしは、相席なので朝日新聞を小さく折りたたんで読む。『耕論』という特集ページで、派遣切りについて、労組代表者、会社経営者、経済学者の三者がそれぞれ主張を。
そのなかで、島田という千葉商科大学学長の主張を読みながらわたしは目を疑った。こんな論旨だったのだ。
・企業は経済環境の変化に対応し、必死に生き延びるために雇用調整を急いでいるのであって、その経営判断は全く適切だ。
・世界規模でコスト競争を迫られている企業にとって、非正社員の存在は、経営の柔軟性を確保するために欠かせない。
・企業が蓄えている内部留保を雇用維持にあてることにも反対だ。雇用維持に使われるようなことがあれば、成長性を疑われ、株価が下がってしまうだろう。
・生産があるから雇用が生まれるのであり、雇用というのは生産の「派生需要」に過ぎない。つまり企業にとって最大の社会的責任と使命は、生産性を上げて競争に勝つ以外にない。それができなければ生き残れず、新たな雇用創出もできない。
・企業が今やるべきなのは、雇用調整と同時に、競争に勝つ戦略を立てることだ。
・雇用問題の矛先を企業に向けるのは筋違いで、政府の施策が生ぬるいことが最大の問題だ。 企業の生産基盤を強化するのも国の責務なのに、法人税率引き下げや、海外からの投資が入りやすい環境整備は一向に進んでいない。政府の怠慢は目を覆うばかりだ。
わかりやすっ!つまり経営者たるもの、企業の社会的責任などという戯言に耳をかたむけるな、どんなタクティクスを使ってもいいからとにかく競争に勝て!今がひどい状況なのは“規制緩和がまだ中途半端だから”だ、つくれ!売れ!成長しろ!……派遣切りに対する世間の怒りや、派遣村への同情的な報道にいらついていた層は、この主張に溜飲の下がる思いだったろう。
実際、ネットでは「当然のこと」「やっとまともな論議になる」と歓迎する向きが多い。しかしちょっと待て。
以下次号。
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