事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「月の満ち欠け」 佐藤正午著 岩波書店刊

2017-07-22 | 本と雑誌

 

祝直木賞受賞!

今回は柚木麻子、「敵の名は、宮本武蔵」の木下昌輝、人気作家宮内悠介、決戦シリーズでおなじみの佐藤巌太郎(しかも候補作は文春刊行)という強敵を押しのけて、初候補の佐藤正午がとった。岩波書店の本が直木賞をとったのは初めてとか。めでたい。

にしても本当に不思議だったのだ。なぜ正午がこれまで候補にもならなかったのか。運とか巡り合わせとかいう理屈ではとうてい説明できない。だって彼はデビュー以来三十数年、「永遠の1/2」「リボルバー」(藤田敏八監督、沢田研二主演の映画は傑作!)「Y」「ジャンプ」と傑作を連発していたのであり、特に近年の「身の上話」(戸田恵梨香主演のドラマは傑作!)「鳩の撃退法」の小説的たくらみは見事だったのに。

彼の小説の特徴は、主人公の行動が、読者の予想を少しずつ裏切っていくことだ。しかも語り口が絶妙なので途中でやめることができない。このふたつが相まってどんどん登場人物に感情移入していくことになる。

あまりに小説として完成度を求めるために、フックとなる部分が少なく、だから彼の作品は“騒ぎ”にならないのかもしれない。でも、わたしのように何年経っても彼の新作を待ち望むファンは絶えず、岩波書店の編集者もその期待を共有していたのだと思う。にしても完成したのが依頼されてから十数年経ってからとは(笑)。正午も正午なら岩波も岩波。

受賞作「月の満ち欠け」は、生まれ変わりの物語。かなり変わった恋愛物語なのだけれど、同じ趣向の東野圭吾「秘密」ほどにストレートではなく、そっちと絡んでくるのか!とあ然とさせる手口は相変わらず達者です。

物語の序盤で、この小説のベースにはある映画がありますよと宣言されています。それは「天国から来たチャンピオン」。ウォーレン・ベイティとジュリー・クリスティのロマンス。何度生まれ変わっても、愛は変わらないという気恥ずかしい設定を生かすために、ベイティは笑いをふりまき、正午は行間に悲しみと含み笑いを仕込む。どちらもラストで心が洗われるような気分になれます。

さあ佐藤正午もいよいよ直木賞作家か。あれ?「鳩の撃退法」で二回も直木賞をとったんじゃなかったっけ?(笑)という冗談はともかく、また佐世保で競輪を楽しみながらマイペースで書き続けるんでしょう。新作、期待してます。

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