たとえあの宮部みゆきであろうとも、総ページ数2000超、全三巻すべて弁当箱級、十年間におよぶ連載、おまけに取り扱う材料が中学生の自殺とくれば、市町村立学校事務職員としては二の足を踏む。その量、その内容に、読者の側が耐え切れるのかと。
懸念はもっとあった。近年の宮部みゆきは(特に現代小説においては)面白くなるまでが時間がかかり、となれば2000ページのどのあたりまで我慢しなければならないのか。それに、彼女が描く絶対悪は、ほのぼのとした筆致であるだけに絶望的に怖い。そんな悪意が、職場でもある中学校で展開されるとなると……
読み終えて満足。とても満足。2012年のベストミステリの称号は伊達じゃない。というより、これだけ面白い小説にはなかなかお目にかかれないし、学校で働く人間として考えこまされもした。ストーリーを追いながら、この偽証事件を検証してみよう。
事件は1990年のクリスマスイブに起こる。下町の公立中学校の屋上から、ひとりの生徒が転落死したのだ。はたして自殺か他殺か。他殺だとすれば犯人は。
まず、この時点で設定の妙が冴える。
・時代背景がバブルが破裂する直前であること。そのために登場人物たち、特に大人たちは右往左往していて、子どもはそのことに失望している。田舎に引っ越してペンションを経営したいと言い出す父親の存在など、痛い。
・舞台が公立なので、生徒たちの家庭や成績が千差万別。優等生であっても、私学入試に失敗しているという屈託が描かれる。このあたりは、ほとんど私立中学校が存在しない山形県の学校事務職員としてはお勉強になりました。
・警察は最初から自殺であると判断している(それにはいくつかの根拠がある)。学校としては、その形で収束を図ろうとする。
死んだ生徒が不登校であったこと、問題のある生徒といさかいを起こしていたことから、決して無能ではなかった校長は、自殺のセンで幕を引く。おそらく、ほとんどの学校がそうするだろう。しかし、怖ろしい偶然が事件を……以下次号。
ソロモンの偽証 第I部 事件 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:2012-08-23 |
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