Vol.40「殺人の序曲」はこちら。
女性の声が流れている。
「わたしは同じテーマ(殺人)で、32冊の本を書いた作家です。ということは世界で最も視野の狭い人間ということになります」
女流ミステリ作家アビゲイル・ミッチェルの講演用のテープ。演じるのはルース・ゴードン。「少年は虹を渡る」(監督ハル・アシュビー!)で、60も年下の少年と恋に落ちるおばあちゃんをキュートに演じただけあって、復讐のために殺人さえいとわない“殺人の専門家”なのにどこかかわいい。モデルは明らかにアガサ・クリスティ。彼女の部屋には
Abigail Mitchell for The Best in Murder
というコピーが飾ってあるくらい。
彼女はただ一人の身寄りだった姪を事故のために失っている。しかしそれは姪の夫の殺人であることを見抜き、遺産贈与をエサに金庫に閉じこめる。窒息死したその男が遺したメッセージとは何だったか。
おやまあ、と思うぐらい古畑任三郎の「死者からの伝言」そのまんま。
あ、逆か。三谷幸喜がこの作品にオマージュをささげたのが「死者からの伝言」だったのだ。あちらの死者が遺したのはただの白い紙で、こちらは……
金庫のなかにはミッチェルの原稿があり、その表紙には
The Night I Was Murdered by Abigail Mitchell
とある。ヒントはこのくらいにしておきましょう。ダイイング・メッセージはミステリの王道だけれど、成立させるのがやけにむずかしいジャンルでもある。あからさまに指摘したのでは犯人に隠滅されてしまうしね。今回はきわどいところ。
むしろミステリ作家としての彼女のポリシーが興味深い。
「作品の着想はね、(犯人の側からではなく)警察官のように考えることなの」
コロンボはいたく感激する。
Vol.42「美食の報酬」につづく。
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