金縛りのことを知ったのは、小学生のころ、横溝正史の『八つ墓村』を読んだときだ。
『八つ墓村』は特に最初のあたりが恐くて、読んでいると後ろから何かが来そうで、壁にぺたりと背中をつけて、床に座り込んで読んでいたような気がする。そのなかに、主人公の語り手が夜、寝ていて、金縛りに襲われるという場面があったのだ。
部屋の中に人の気配がする。
だが主人公は目覚めているのに、目を開けようにも開けることができない。物音を聞くことはできるのに、体を動かそうにも、指先一つ動かすことはできない。のしかかられたように体が重く感じる。別に不気味な場面ではないのだが、やはり恐くて、恐いものが何より好きだった当時のわたしは、恐いながらも胸がワクワクした。以来、「金縛り」というと、「八つ墓村」と、すっかり刷り込まれてしまったのである。
高校のころ、基本的に勉強というものはほとんどしなかったわたしであるが、それでも試験前になると、なんとかしなくちゃなあ、という気分になって、ちょこちょことやっていたのである。そうして、草木も眠る丑三つ時を過ぎたころ、そろそろ寝なくちゃなあ、と思って、蒲団に入ってから一時間もしたころだろうか。体がしびれたような感覚にはっとした。これが金縛りだ! 寺田辰弥の経験したあれだ! 恐怖感というより、本に出ていたことが体験できたうれしさに、ワクワクしたのだった。
わたしはふだんからかなり血圧が低いのだが、深夜を過ぎると、いっそう血圧が低くなる感じがすることがある。脳貧血とまではいかないが、頭がぼうっとして、体の感覚が鈍くなるのだ。こういう状態で眠りにつくと、一時間ほどすると金縛りが来ることがわかった。
以来、その金縛りを体験したさに、夜遅くまで本を読んだり勉強したりして、実際、何度となく金縛りを経験した。じきに体調を本当に崩したのでやめてしまったが、「こうすればかなりの高確率で金縛りを体験できる」とわかったので、それで十分だった。
やがて大学に行って、寮生活をするようになる。わたしの部屋は北向きの部屋だったのだが、そこに入ってしばらくして、上級生たちが「何ともない?」と聞くのである。いったい何ごとか、と思ったら、とにかくそこの部屋に入った寮生は、金縛りにあいやすい、という評判なのだそうだ。感じやすい人は気持ち悪がっているのだが、あなたはどう? ということだった。
全然平気ですよ、とわたしは元気に答えたのだが、そのなかには「たとえ金縛りにあったとしても平気」という気持ちももちろんこもっていた。
ところがそうは受けとられなかったことに後になって気がついた。
わたしは霊的な感受性の極めて低い、言葉を換えれば大変に鈍い新入生である、とレッテルが貼られていたのだった。
※サイト更新しました。
http://f59.aaa.livedoor.jp/~walkinon/index.html
先日までここで連載していた芥川龍之介関連の記事を「文豪に聞いてみよう~芥川龍之介と不安」としてアップしました。
「ジョコンダ」は明後日ぐらいにはアップできると思います。
そうそう、カウンタがもうすぐ29700になりそうです。
トップページのわかりにくい位置にひっそりとあるんですが、30000番のキリ番踏まれた方はご連絡ください。一週間くらいのうちにはいきそうです。
『八つ墓村』は特に最初のあたりが恐くて、読んでいると後ろから何かが来そうで、壁にぺたりと背中をつけて、床に座り込んで読んでいたような気がする。そのなかに、主人公の語り手が夜、寝ていて、金縛りに襲われるという場面があったのだ。
部屋の中に人の気配がする。
だが主人公は目覚めているのに、目を開けようにも開けることができない。物音を聞くことはできるのに、体を動かそうにも、指先一つ動かすことはできない。のしかかられたように体が重く感じる。別に不気味な場面ではないのだが、やはり恐くて、恐いものが何より好きだった当時のわたしは、恐いながらも胸がワクワクした。以来、「金縛り」というと、「八つ墓村」と、すっかり刷り込まれてしまったのである。
高校のころ、基本的に勉強というものはほとんどしなかったわたしであるが、それでも試験前になると、なんとかしなくちゃなあ、という気分になって、ちょこちょことやっていたのである。そうして、草木も眠る丑三つ時を過ぎたころ、そろそろ寝なくちゃなあ、と思って、蒲団に入ってから一時間もしたころだろうか。体がしびれたような感覚にはっとした。これが金縛りだ! 寺田辰弥の経験したあれだ! 恐怖感というより、本に出ていたことが体験できたうれしさに、ワクワクしたのだった。
わたしはふだんからかなり血圧が低いのだが、深夜を過ぎると、いっそう血圧が低くなる感じがすることがある。脳貧血とまではいかないが、頭がぼうっとして、体の感覚が鈍くなるのだ。こういう状態で眠りにつくと、一時間ほどすると金縛りが来ることがわかった。
以来、その金縛りを体験したさに、夜遅くまで本を読んだり勉強したりして、実際、何度となく金縛りを経験した。じきに体調を本当に崩したのでやめてしまったが、「こうすればかなりの高確率で金縛りを体験できる」とわかったので、それで十分だった。
やがて大学に行って、寮生活をするようになる。わたしの部屋は北向きの部屋だったのだが、そこに入ってしばらくして、上級生たちが「何ともない?」と聞くのである。いったい何ごとか、と思ったら、とにかくそこの部屋に入った寮生は、金縛りにあいやすい、という評判なのだそうだ。感じやすい人は気持ち悪がっているのだが、あなたはどう? ということだった。
全然平気ですよ、とわたしは元気に答えたのだが、そのなかには「たとえ金縛りにあったとしても平気」という気持ちももちろんこもっていた。
ところがそうは受けとられなかったことに後になって気がついた。
わたしは霊的な感受性の極めて低い、言葉を換えれば大変に鈍い新入生である、とレッテルが貼られていたのだった。
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先日までここで連載していた芥川龍之介関連の記事を「文豪に聞いてみよう~芥川龍之介と不安」としてアップしました。
「ジョコンダ」は明後日ぐらいにはアップできると思います。
そうそう、カウンタがもうすぐ29700になりそうです。
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