hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

桐野夏生「東京島」を読む

2010年02月15日 | 読書2
桐野夏生著「東京島」2008年5月、新潮社発行を読んだ。

新潮社の本作品の宣伝HPにはこうある。

あたしは必ず脱出してみせる/無人島に漂流した31人の男と1人の女
本能をむき出しにする女。/生にすがりつく男たち。/極限状態での人間の本質を/現代の日本人に突きつける/著者渾身の問題作!


32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。・・・

まず、この小説は、こう始まる。
 夫を決める籤引きは、コウキョで行われることになっていた。


無人島に複数の男と一人の女を置くという小説はいくつかあったと思うが、荒唐無稽な話になりがちだ。著者はもちろんそんなことは承知していて、実験的にこの島を擬似国家としている。島の名を「トウキョウ」とし、「コウキョ」を設け、新参中国人達の住む場所を「ホンコン」と呼ぶ。

著者は語っている。「波」6月号
リーダーがいて漂流者たちが協力しあい、何かを、おそらくこの場合は脱出、を成し遂げるのではなく、みんなが我を主張し、立ちゆかなくなってばらける集団。そういうイメージが最初から核としてあったんです。・・・
サバイバルな状況下で自分のことしか考えない女という存在はテーマとしてずっと残っていました。


初出は、「新潮」に2004年1月から2007年11月にかけて掲載された。



私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)

本作品は、谷崎潤一郎賞を受賞し、映画化もされるのだが、どうにも現実感がなく、しかも出てくる人間が皆、さもしく、読んでいて楽しくない。悪人は悪人としてシャンとして欲しい。

米軍人のサバイバル本などを読むと、その徹底ぶりや、思いも掛けないような工夫に驚く。この本のテーマとは異なるだろうが、サバイバルに関する知識ももう少し披露して欲しかった。



桐野夏生は、1951年金沢市生れ。成蹊大学卒。1993年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞、1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、1999年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花賞、2004年英訳版『OUT』がエドガー賞(MWA / Mystery Writers of America)候補、2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞、2005年『魂萌え』で婦人公論文芸賞、2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞、2009年『女神記』で紫式部賞を受賞。

桐野さんが、参考にしたかどうかは不明だが、太平洋戦争直後に太平洋の孤島アナタハン島で、1人の女性をめぐり32人の男性が殺し合いを始めた事件があり、米軍に救出後、スキャンダラスに取り上げられ映画化もされた。ウィキペディアの「アナタハンの女王事件」が詳しい。



コメント (3)
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