hiyamizu's blog

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小川洋子「カラーひよことコーヒー豆」を読む

2010年02月11日 | 読書2
小川洋子著「カラーひよことコーヒー豆」2009年12月、小学館発行を読んだ。

ファッション誌『Domani』の2006年10月号-2008年9月号に連載されたエッセイ24本に、書き下ろし5本を加えた29編のエッセイ集。

表紙には、題名の上に小さな英語で、”My Memorabilia” とあり、目次の裏に「記憶に残る事件、思い出の品」との説明がある。
幼児向けかと思うような可愛い表紙。やはり、装丁・装画は『ミーナの行進』も手がけた寺田順三氏だった。



全体に、注目され、賞賛されることのない、目立たない人々について書いた話が多いのだが、そうでない話を2つほどご紹介。

「本物のご褒美」
私も小説を発表するようになって二十年ちかくになるが、手こずった長編がどうにか本の形になった折など、大好きなアンティークの品を一つ、こっそり買ったりする。・・・
 しかし本物のご褒美は、自分でお金など払わなくても、思いもかけない場面でもたらされるということを、一生懸命働く人々なら誰でも知っている。・・・

そして、電車で『博士の愛した数式』を読む女性を見かける。
 小説を書いていて、これほどのご褒美があるだろうか。自分の小説が、間違いなくそれを必要としている読者の手元に届いている。自分の書き付けた一字一句が、私のしらない誰かの心に染み込んでゆく。・・・
 小説を書いていられるだけで幸せなのに、自分が払った努力の何倍ものご褒美をいただけるなんて、もったいないことです。


「思い出のリサイクル」
例えば、お味噌汁に入れるお豆腐を掌(てのひら)の上で切っている時、必ず思い出す風景がある。息子がまだ言葉を覚えて間がなかった頃、私が同じようにそうやってお豆腐を切っているのを見つけた彼は、不意に叫び声を上げた。
「ママ、おててがきれちゃうよ」
そう言って、私の足に抱きつき、涙をボロボロ流したのである。
・・・自分には心の底から純粋に泣いてくれる人がいる。そんな思いに浸って、幸せをかみ締める。泣いてくれた本人は大人になり、そんなことなど少しも覚えてはいないのだけど。




私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

どうしても読んで欲しい本とは言えないが、我が我がとでしゃばり、いつもハイテンションな人や、自分を売り込むのが上手な人ばかり目立つような世の中に、地味な人を取り上げるこんな本を読むのもお勧めだ。平凡で、冴えなくて、おしゃべりで、ダメな人と言いながら、あふれる才能としっかりした努力で幾多の賞をとる小川さんには、正直、「本気で謙遜しているの?」と疑問を持ってしまうが、本当に自分では自信がなく、落ち込むことも多い方のようだ。
小川洋子ファンなら、彼女の目の付けどころ、目立たない人へのやさしい心が良くわかり興味深いだろう。さらなるファンには、子供の時の話や、彼氏に振られたときの話などが出てくるので、もっと面白いかも。

あとがきに小川さんはこう書いている。
本書もまた、これを必要とする誰かのところへたどり着いてほしい、と願っています。何も大勢でなくていいのです。互いの目配せが届くくらいの、小さな世界を書いた本なのですから。
あくまで謙虚で、根っこにはご自身も気づいていない深い自信がある小川さんなのだ。

表紙にも、題名にもあるさまざまな色を付けられたカラーひよこ。私には記憶がないが、お祭りで、やけに黄色いひよこを売っていて、皆に「あれはすぐ死んじゃうからやめな」と言われていたのは覚えている。



小川洋子は、1962年岡山県生れ。早稲田大学第一文学部卒。1984年倉敷市の川崎医大秘書室勤務、1986年結婚、退社。1988年『揚羽蝶が壊れる時』で海燕新人文学賞、1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞を受賞。『博士の愛した数式』は2006年に映画化。海外で翻訳された作品も多く、『薬指の標本』はフランスで映画化。
2009年現在、芥川賞、太宰治賞、三島由紀夫賞選考委員。






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