『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  342

2010-11-17 07:35:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アバスとダナンが砦の浜を出たこのときから、日をさかのぼること50日前ぐらいのトロイ地内の昼下がりのことである。
 木馬の計の焼討ちで滅ぼしたトロイの戦後処理を終えたギリシア連合軍の諸将が、トロイをあとにして故国への帰路についていた。
 トロイを落として1ヶ月、総大将のアガメムノン、クレタのイドメネス、その他の諸将は、もうここにはいなかった。彼らの消息の詳報は、この時点では、トロイには届いてはいなかった。
 『おい、メネラオス。どうだ、俺たちも、もうそろそろ故国に帰ろうか』
 『俺は、この二、三日中の風の具合で出航しようと考えている。お前はどうする』
 『俺か、俺には、ちょっと、野暮用がある。お前は耳にしていないか。トロイから逃げ出した者どもが陸路トラキアに逃げ込んでいるらしい、帰りがけに落人狩りをやってから、南に向かおうと考えている。ここ二、三日、南からの風に日が多い、故に故にだ。俺も三、四日中に出航する。俺たちがいなくなれば、もうトロイは空っぽになるな。互いにトロイで過ごした10年は長かったな。ところでヘレンはどうしている?』
 『ヘレンか、ヘレンのことを聞きたいか。お前にとって身体に悪いぞ。俺たちの毎日は、蜜の日々だ。俺たちがこんなに睦みあったのは、新婚のとき以来だ』
 『そうか、それはよかったな。俺は、息子のことも気になるが、ペネロペの肌が狂おしいくらいに恋しい日がある。まあ~、いいか。風の具合を見て出航する。お前も達者で暮らせ。俺とお前との別れだ』
 二人は、積もる感慨を胸に抱いて別れた。