経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

4番,サード,特許クン?

2008-03-08 | 企業経営と知的財産
 先ほどまで「知財戦略コンサルティングシンポジウム 2008」に参加してきました。知財系のイベントとしてはこれまでとはかなり毛色の違ったものになり、まだまだ未完成な部分が多いですが面白い企画だったと思います。
 さて、パネルディスカッションの中で十分にお話しきれなかった部分を一点。昨日も書きましたが、従来の知財実務と異なる知財コンサルのポイント、コンサルタントとしての力量を問われる最も重要なポイントは、「その企業にとっての知財の意味を考える」ということにあると思います。本日のパネルディスカッションで事前アンケートで出されたテーマとして、「経営トップの考え方を知財重視に変革させるにはどうしたらよいか」という話がありましたが、私はこの点についてはそもそも命題の設定が‘上から目線’になっていて適切ではないのではないかと思います。私はベンチャーキャピタリスト時代に数多くの経営者と接してきましたが、経営者ほど会社のことを真剣に考えている人はいません。少なくとも我々よりたくさんのパラメータに目を配り、真剣勝負で日々戦っているわけで、そこんとこは誤解しちゃいけない、「知財の重要性がわかってない」とか杓子定規に判断してはいけないと思います。知財に関してはボーッとして何も考えていないとかいうわけではなく、知財業務に力を入れることの効果が具体的に見出せず、そこにプライオリティを置く意味がわからないから結果的に‘軽視’になっているわけです。それに対して、その会社の置かれた固有の環境や持っているリソースを考慮しながら、「こういう考え方で知財業務に取り組んでいけば事業を進める上でプラスになる」という方針を示さないことには、「知財は重要ですよ」と一般論を語るだけでピンとくるわけがありません。逆に、「こうやって成果に結び付けられる、事業の推進に役に立つ」というシナリオを示せれば、会社のことを一番真剣に考えている経営者に響かないわけがないのです。必要なことは‘啓蒙’ではなく、その会社にとって特許(その他の知的財産権)が役に立つものかどうかを、経営者の目線にあわせていろんな可能性から考えていくことです。そこまでやってはじめて、経営者の知財意識云々を語れるのではないでしょうか。
 経営者は、野球でいえば監督で、チームのことを一番真剣に考えている存在です。そこに‘特許クン’というメンバーを加えるときに、杓子定規に「特許クンは優秀ですから4番サードで使ってください(=知財は重要だから知財重視の経営をしてください)」とだけ言って受け入れられるわけがありません。監督の話をよく聞いて、チーム構成の中で必要な要素を検討していくと、ひょっとすると「優秀な1番バッターはいるのだから、バントもできる特許クンを2番に入れると1番バッターのよさが活きますよ」とか、「このチームはいつも終盤で左バッターに打たれて逆転されているから、左投げの特許クンをワンポイントリリーフで使えばもっと勝ちを拾えるはずですよ」とかいったシナリオが見えてくるかもしれない(このチームの場合は特許クンの出番は全くない、という結論になる可能性も含めて)。特許クンが機能するイメージができれば、監督は「是非入団してください」となるわけで、働き場所を見極めることがポイントになるんだと思います。
 パネルの最後で唐突に持ち出させていただいた‘たかが特許、されど特許’も、こうした感覚で知財の役割を客観的に考えよう、という趣旨です。何となくおわかりいただけると嬉しいところですが。


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11 コメント

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Unknown (中小企業の特許?担当者)
2008-03-09 14:36:46
はじめまして。いつも拝見しています。
昨日のシンポジウム聴講しました。
先生のお話、コメントは、他の方に比べ最も納得できました(*1)。
さて、昨日のシンポジウム全体を通して1つ疑問に思ったのは、知財コンサルはいわゆる「経営コンサル」と何が違うのかな、ということです。私の素朴な感覚では、結局同じでは?(*2)です。
そうしますと、経営コンサルとの違いをアピールしていかないと、知財コンサルという市場は広がらない(「知財」コンサルというニーズがあるのか疑問ですが。。)のかなと思います(*3)。
実務を行われている先生のお考えはいかがでしょうか?
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*1 「たかが特許、されど特許」の視点が貫かれていたからかなと思います。なんとか議論の中に入れこもうとされているのをひしひしと感じました。でもパネルって慣れている人で行わないと難しいようですね。
*2 鮫島先生が「知財を切り口とした新しいコンサル」というような言い方をされていたように思いますが(ちょっと違うかもしれません)、少し違和感を感じました。このエントリーの内容と同じことかと思いますが、知財は経営コンサルで切ることのできる複数のカードのうちの1つにすぎないからかなと思います。当然切らないこともあるはずですし。(もしこれまで知財カードを持っているコンサルがいなかったとしたら、その意味で、新しい、といえるのかもしれませんが。)
*3 そもそも、知財コンサルというネーミングも含め「知財」を全面に出してしまうと、「知財」の優先度を下げているお客様(経営者)の購買基準にひっかからなくなってしまうのではないかなとも思いました(誰もが「知財」に良いイメージを抱いているとは限りませんし。ソフトウェア業界など。)。もし知財コンサルという市場を育てていくのであれば、旧来の経営コンサルの視点に加え、知財の視点「も」考慮できますよ、というアピールが必要なのかな、と思います。あとは、知財といっておきながらいつのまにか特許のことだけ、とならないことでしょうか。中小なら特に、商標、秘密管理、契約法務が知財の問題に含まれると思います。

長文、要領を得ないコメントで失礼いたしました。
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Unknown (土生)
2008-03-09 17:14:46
中小企業の特許?担当者さま
コメント&昨日のご参加、有難うございます。
ご指摘の点について、
経営に関わるあらゆる機能はコンサルの対象となり得るので、どんなコンサルでも広い意味では「経営コンサル」に含まれるのだと思いますが、対象となる機能が明確な場合は「人事コンサル」「ITコンサル」「財務コンサル」のように言われているのと同じ位置付けで「知財コンサル」も考えられると思います。問題解決が知財の手法によって行われる点も、「知財コンサル」とする理由の一つです。
ただ、ご指摘の点はご尤もで、考えていかなければならない問題です。典型的な技術系の企業に限らず、知的財産権という道具はもっと有効に利用していく余地があり、そういう意味で「知財コンサル」的な機能が必要である、という点は確かであろうと思います。ところが、それが「知財コンサル」という看板によってミスマッチになってしまう側面があるのは否めないかもしれません。私のイメージでは、強い商品やサービスを持っている企業が事業を推進するのに、その側面を固めて事業環境を少しでもよくできるように貢献していくというものなのですが、確かに「知財コンサル」といった途端に、特許好きの企業や人材のサロンみたいになってしまう可能性が生じてしまいます。
実は私個人のサービスでも、機能的にはこういったことをやってきていますが「コンサルティング」という言い方は殆どしていません。「知財コンサル」という業界ができあがるというより、こうした機能が様々なところ(経営コンサルの一機能、ベンチャー企業の知財関連の責任者、ベンチャーキャピタリスト、特許事務所の付加的なサービスetc.)に取り込まれていくのが現実的なのかもしれません。
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ありがとうございます (中小企業の特許?担当者)
2008-03-09 23:03:08
ご丁寧にありがとうございます。知財コンサルを、必要に応じて呼び出すことのできる、経営コンサルサービスの一機能といったイメージで理解できました(呼び出さないこともある)。ただ、そうしますと、標準手順といいますか、翻訳の仕組みといいますか、経営コンサルサービスの他の従来機能とやり取りするためのインターフェース(浅学で思いつきませんが、MBA的な基礎知識ということになるのでしょうか)が必要になるのかな、と思いました。(そのままでは組み込めないように思います。。)

>典型的な技術系の企業に限らず、知的財産権という道具はもっと有効に利用していく余地があり

皆が利用できない/意味がないと思っている分野でもし有効に利用できればインパクトが強いかも、とは日々思っています(ソフトウェア分野が念頭にあります)。ただ、ソフトウェアについては現在の制度では本当に利用できないだけなのかもしれませんから、その辺りの見極めが難しいですが。。

私の携わっているソフトウェア分野ではあまり(かなり?)知財の印象がよくないため、会社では、知財/特許といった用語を出さずに、少し一般化してその考え方(私の浅い理解では知財の考え方=「差別化」と思っています)だけ広めるようにしています。
具体的には、きわめて普通のことではありますが、(1)従来との差(技術に限らない、ネーミングやサービスなども)と、(2)その差による有利なこと、の2つを見つけてもらう/見つけ出すようにしています。これは差別化の思考が一般的な企業には不要と思いますが、周り/他社を見ることに慣れていない企業にとっては、有益なアプローチの1つと思っています。このような活動を通じて、徐々に差別化の風土を作っていき、「その会社らしさ」を磨いていく一助とできないかなあなどと考えています。
その上で、あくまでオプションとして、費用対効果を考えながら、担当者/弁理士がバックグラウンドで権利化(特許、商標)していけばよいかと思っています(*)。

先生はこのような考え方をどのように思われますか?(もしよろしければ、今もっとも共感できるお考えをお持ちの、先生のご意見をお聞きしたいと思っています。特に、駄目出しをして頂ければ大変幸いです。)

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(*)ですので、よくいう技術者向けの特許教育などは考えていません(その分、各人の専門(開発、営業、企画)を磨いてもらった方がよいように思います。)。いろいろな機会を捉えて、「他との差はあるか?その差は何か?その差によってどう有利か?」の考え方を身につけてもらえればよいのかな、と思っています。

#また長文になってしまい申し訳ありません。
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Unknown (土生)
2008-03-10 08:38:38
中小企業の特許?担当者さま
ご指摘のとおり、ソフトウエアは知的財産権が効きにくい分野です。この分野では私なりの方法論は持っているので、ここにちょっと書ききれるような話ではありませんが、知的財産権を‘道具’と捉えて、この道具でどうやって最前線の現場を支えられるか、というアプローチで考えることがポイントになると思っています。「知的財産権(特許)で独占権を確保した領域で事業を始める」といった教科書的な発想だと、現実的な効果を生み出すのはちょっと難しいと思います。
ご指摘の方法論については、「会社らしさ」を作っていくという目的の据え方は私も同じですが、風土作りだけでは現場(特に最も忙しい=重要な現場)の協力を得るのは難しいので、ビジネス上の効果をどう訴えるかも考えていく必要があるのではないでしょうか。
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野球チームの話、非常に納得できました (岡本)
2008-03-10 09:14:45
 ネットワーキングパーティで上記のような話をさせていただいた岡本です。
 経営者はチームのことを一番真剣に考えている存在であり、そのチームにとって有用な新戦力ならば、当然入団させると思います。しかし、先生が言われるように、杓子定規に「特許クンは優秀ですから4番サードで使ってください(=知財は重要だから知財重視の経営をしてください)」とだけ言うのは確かに説得力に欠けますね。どうも、特許業界にいると、どうしても特許の重要性を真正面からアピールしすぎて、特許中心で「説得」するような感じになってしまいます。
 しかし、監督が、チーム戦略の中で重要な戦力だと「納得」しなければ使ってもらえません。「4番で打点を挙げるためには、2番で確実にスコアリングポジションへ送ることが大事である」といった説明ができるかどうかでしょうね。結局は、監督の話をよく聞いて、そのチームにとっての「特許」の意味を、どれだけ説得力を持って説明できるかが、問われていくように思います。それができないと、「納得」してもらえませんよね。
 これまでも、上述のようなことは考えており、それらしいことを説明してはいたのですが、うまい表現が見つけられませんでした。しかし、先日、土生先生と意見交換させて頂き、自分自身が非常に納得できました。野球チームのたとえ、これからは使わせていただきます。
 また、機会がありましたら、意見交換させてください。シンポジウムとネットワーキングパーティ、ありがとうございました。
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大変参考になります (中小企業の特許?担当者)
2008-03-10 10:20:08
ありがとうございます。

>風土作りだけでは現場(特に最も忙しい=重要な現場)の協力を得るのは難しいので、ビジネス上の効果をどう訴えるかも考えていく必要がある

ご指摘のとおり、協力を得るのは難しい、というのは痛感します。
(他社がどうこうよりも、ソフトウェアの場合はサクっと作って売ってしまって、使ってもらえれば勝ち、という現状もあるかと思います。知財の中の人とは時間の感覚が全く違うと思います。)

浅学ながらビジネス上の効果として思いつくのは、どうしても「保護」の観点による効果であり、しかも、一般人から見ると嫌らしい方策による効果といいますか、邪魔をすること(コア出願をわからなくするための目くらましの出願、多数の出願による調査負荷、相手の開発動向を見据えた分割/補正等による権利化、競合の特許網から漏れている改良発明の特許化、などなど)によって優位に立つことくらいしか思いつきません(*)。
これは経営層であればビジネスで使える手の一つとして理解される場合もあるかもしれませんが(そうは言っても中小であれば費用対効果の問題がついて回りますが)、現場の、特にソフトウェアのエンジニア層の共感は得られにくいと感じています(個人的には、そんなことをするのなら、正直に?さっさと開発したい、という人が多いように感じます。)。

青臭い理想主義かもしれませんが、なんとか「利用」(権利の活用ではなく、アイデアの利用)の方面で前向きに使っていけないのかなと日々夢想しております。とはいえ、たぶん「利用」だけであれば各種のWebの情報(FOSS活動のサイトなど)で足りてしまうので、公的機関が管理している情報であるという利点を生かして(しかも世界中で同じようなフォーマットによって管理されている)、利益に結びつく仕掛けを埋め込めないのかな、と漠然と考えています。

私はソフトウェアが専門ではなかったのですが、携わってみると、おおげさですが無限の可能性を感じます。この可能性をつぶさず/邪魔せず、ビジネス上の支援ができるような仕事がしてみたいと思っています。いちおう特許?担当者ということですので、特許的な考え方から切り込んでみますが、最終的には全く別のアプローチかもしれないとも思っています。

先生の鋭い指摘、問題提起などを参考にいろいろ考えていき、日々の仕事に役立てていきたいと思っています。今後もよろしくお願いいたします。

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(*)ただこの邪魔策の問題点は、ソフトウェア業界では全員が特許に注目しているとは限らず(あえて見ないようにしている?)、ひとり相撲をとっているおそれがあるという点かなと思っています。
『約35%の企業がソフトウエアの開発に当たり他社の特許侵害を調査していない。』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071225/290158/
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Unknown (土生)
2008-03-10 16:08:12
岡本様
コメント有難うございます。
「経営者に知財の重要性を啓蒙する」という問題意識が、経営者の「あんたに言われたくない」という顔が思い浮かぶようで、どうも私にはしっくりこないもんですから。
野球チームの喩えは、どんどん使ってください。そういえば、野球の世界でもアメリカの代理人はやり手で球団に選手を売り込むのが上手いすね。負けないようにしないと。
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Unknown (土生)
2008-03-10 16:16:36
中小企業の特許?担当者さん
「特許?担当」というより、かなりのプロフェッショナルとお見受けいたします。
仰るとおり、牽制効果を追求することは、むしろ業界発展の阻害要因になるのではないかという疑問も生じますが、それについては、
http://blog.goo.ne.jp/habupat/e/ec30899f4204292f4dac8aed7e237872
↑こんな考え方もあるのかなぁ、と思っています。
開発者の意識は別としても、全く保護のない世界で経済活動が成り立つとも考えにくいですし(模倣だけやっているのが一番得になる)、理想像としては妥当な対価を支払うことを前提に「利用」を原則とする、お互いがその成果をリスペクトしあうような世界だと思いますが、人間のやることですからそういった理想郷をいきなり作り上げることは難しく、そこは競争の中から整理が進んでいくのではないか、という気がします。
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別の観点から (大阪の一弁理士)
2008-03-10 16:50:20
熱いコメント欄で書き込むのに気が引けますが、「野球」を例え話として挙げられていたので、最近気になっていたことを、書き込みさせて頂きます。

この「野球」の「特許クン」の例えですが、電気の某大企業では、「特許クン」に大きなお金を投資し過ぎて試合に勝てない「巨人」みたいな企業がありますね。本人たちは一生懸命なんでしょうが…。これはこれで経営戦略のミスでしょう。
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Unknown (土生)
2008-03-11 00:05:20
大阪の一弁理士さん
コメントありがとうございます。
そういう意味では、阪神タイガースはここ5年くらいでかなり知財戦略がしっかりしてきた、というところでしょうか。
今年はシアトルマリナーズが一番機能して欲しいところにいい‘知財’を持ってきたので、大いに期待しております。
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