経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

成長企業の知的財産戦略 ← 一部修正

2010-03-03 | 知財発想法
 2年少し前に「成長企業の知的財産戦略」という論文を書いたのですが、これって修正が必要かな、と考える今日この頃です。
 そもそも「成長企業」とは何ぞやですが、きっちりした定義があるわけではありません。が、敢えて「成長企業」(=成長志向の企業)をそうでない企業(=安定志向の企業)と分けるとするならば、お金の使い方にあるのではないかと思います。これは、VCの投資業務と銀行の融資業務を経験してわかったことなのですが、事業が順調に立ち上がって現金が溜まり始めたときに、その現金をどうするか。VCは成長のための投資を促し、銀行は返済原資を確保するために預金を積むよう促す。つまり、成長志向の企業はそれを新たな投資(設備投資や研究開発投資etc.)に向けようとし、安定志向の企業は預金や国債などの安全資産を積み上げる。もちろん、同じ企業でも場面によって判断は異なってくると思いますが、志向としてこの違いは結構大きいように思います。
 そこで知財戦略との関連ですが、この論文では、
「成長」には、売上増加に利益が伴わなければならない。売上を成長させるネタとして「知的財産」の創出が必要、その売上を確実に利益に結び付けるためには、価格競争を抑止する参入障壁としてはたらくような「知的財産権」が必要。
といったトーンでまとめたのですが、果たしてそれでよいのだろうか。世の中、本当にそうなっているのか。
 そこで問題になってくるのが、この前から何度か書いている
企業の競争力とは、顧客との結びつきを強める力である
というところなのですが、参入障壁の形成による価格競争の抑止を、「顧客との結びつきを強める」という視点で見てみるとどうなのだろうか。「成長」するためには、競争力の強化、すなわち「顧客との結びつきを強める」ことが必要になるわけですが、そういう視点から考えると、自社の差異化要素となる知的財産を、できるだけ利便性の高いもの、顧客に喜ばれるものとして提供することが求められる。その場合に、自社で知的財産を囲い込むことが、結果的に知的財産の広がり、知的財産を使った製品やサービスの利便性の向上を抑え込むことになってはしまわないのか。もちろん、自社が優位に立つためには差異化要素である知的財産のオリジナリティを維持すべく、知的財産権を確保しておくことは有益なわけですが、囲い込むのではなく、それをより積極的に開放して知的財産を使った製品やサービスの利便性を高めていったほうが、より「成長」に結びつくこともある。というか、むしろ成長志向の企業であるほどそういう傾向が強く、囲い込みはむしろ安定志向の表れとも言えるかもしれません。
 なんてことを最近は中小・ベンチャー企業の社長と話したりするのですが、殆どの場合「そらそうよ。」という反応です(業種の関係もあるとは思いますが)。今日もそんなことを言っていたら、ある社長さんは、
「特許っていうのは、『こちらからは特許を提供するから、そちらもそこにいろいろ知恵を乗っけてもらって、一緒に新しい製品を作っていきましょうよ』っていうふうに使ってこそ意味があるものですよ。」
なんてお話をされていました。その現象をもって「オープンイノベーション」という捉え方もあるのでしょうが。
 もちろんそればかりが全てではないですが、「成長」をテーマにするならばこういう志向をちゃんと論じておくべきでした。


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4 コメント

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ガラパゴス島での進化 (Katayama)
2010-03-03 17:36:02
いくら独特であることが大事だと言っても、ガラパゴス島の希少品種になってしまっては意味がない。確かにとても差別化されているけど、珍しいモノ好きの観光客にしか喜ばれない。

特許制度とはそもそもオープン化が前提であって、オープン化して様々な人がそれを利用しても結局は最初にその肝のところを考え出した人が「考え損」にならないための制度だったような気がする。「考えた人が得する」とは、何も特許料収入に限らず、ビジネス上の美味しいポジションであったり他から奪われない安定収入であったりする。

だから特許を使って「囲い込む」なんて最初から邪道?な様に気もするし、ましてや自らガラパゴス化を推進しては元も子もない。皆様のお役に立ってこその特許ですね。
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Unknown (土生)
2010-03-03 22:15:46
katayamaさん

特許制度の原点はそういうことです(だから存続期間は有限だし、発明も公開しなければならない)。
イケてる経営者は「特許をとって儲ける」とか、まず言いませんしね。
これって、実は知財に限った話ではないのでは。例えば人材にしたって、突出した人を囲い込めば直ちに競争力がアップするというものではなく、顧客との結びつきを強めるべく社内の人材が活躍できるフィールドを用意していくほうがより重要、ということになるのでは。
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Unknown (大石)
2010-03-04 19:19:50
デンソーの二次元バーコードの戦略がまさにそうですね。ライセンス料も求めることなく無償にしたことで現在の爆発的な普及につながっている。
日本の企業の場合、自社の独自性を囲み込むという視点でだけ知財戦略を組む会社が多いため、イビツな状態になっているように思います。
「顧客との結びつきを強める力」を重視するのであれば、インクカートリッジ特許のようなものでビジネスモデルを構築するのは、違うと考えるのは、私だけでしょうか?
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Unknown (土生)
2010-03-05 01:07:02
大石様
コメントありがとうございます。
個別の事例については外からはうかがい知れない事情がいろいろあるものなので(特に事業のスケールが大きい場合)、一面的な見方で戦略の適否を論じるのは難しいですね。
「顧客との結びつきを強める」ためには、安定したサービスが提供できるように自社が健康体であることも大切なので、開放が全てよし、というものでもないでしょうから、開放による市場規模の拡大が結果的に自社にとってもメリットになる、という部分が見えていないと(本文の社長さんの言も、共同開発した製品が売れることが自社の利益になる、ということが前提になっているはずです)、囲い込みにならざるを得ないケースもあると思います(医薬品なんかは典型例でしょうが)。
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