経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

特許の質

2007-06-01 | 知財発想法
 知財戦略でよく挙げられるテーマの一つに、「特許の質の向上」があります。では、「特許の質」とは何を基準に測るべきものなのでしょうか。

 この点について、特許を出願する企業側の方は「事業に有効かどうか」、特に「事業との関連性」を意識しているのに対して、実務を担う特許事務所側ではストレートに「クレーム・明細書の質」と捉えていることが多いような印象を受けます(国家戦略レベルでの「量から質へ」というテーマは、休眠特許との絡みで言われることが多いので、どちらかというと前者を意識しているように思います)。「事業に有効」なためには「クレーム・明細書の質」が前提になるもので、両者は対立するものではありませんし、担っている役割が違うから「質」の切り口が異なるのは当然といえば当然なのですが、頭の整理のために表のように分類して考えてみました。

 「質の向上」として目指すべきエリアがAであるのは疑いのないところですが、BとCを比べてみるとどうでしょうか。事業分野や競争環境によって異なってくるものではありますが、事業との関連がない世界でどれだけクレームや明細書の質を高めても、基本的には収益への貢献は期待し難いのに対して(C)、クレームの質に問題があって特許を回避されてしまったという場合でも、回避されるまでの間の優位性や相手方にかかる設計変更の負担など、収益への貢献が多少なりとも期待できる可能性があります(B)。Cの特許であれば売却できるかもしれない、ということが理論的には考えられますが、ビジネスの実態としてその期待値を織り込んで考えるのには少々無理があるように思います。
 では、CとDならばどちらか。当然C、ということになりそうですが、こうも考えられないでしょうか。CをDと比べると、質の向上のために相応の時間や費用をかけることになる。結果、収益への貢献がないのであれば、投下したコストが嵩む分だけCのほうがトータルでは収益への効果はマイナスに働く。
 以上のロジックによると、収益面の効果から整理すると、
  A>B>D>C
という考え方が成り立ち得ます(あくまでCとDの収益貢献がゼロという前提での話ですが)。

 ここでいうところの「事業との関連性」と「クレーム・明細書の質」の関係は、例えていうならば、土地と建物みたいな関係にあるのではないでしょうか。一等地に立派な家を建てられればベストですが、住み心地に難がある家でも便利な場所にあればそれなりに使える。場所の選択を誤ると、上物がどうのこうのは意味を持たなくなり、どうせ使えないのなら支出は少ないほうがまだマシか。まずは土地選び(事業との関連性)が大切で、そこが選べたらできるだけよい上物(クレーム・明細書の質)を、といった関係で「質」の意味を整理しておけばよさそうです。


最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (大阪の弁理士受験生)
2007-06-01 22:39:26
土地と建物の例えは良く理解できます。
まさに土生先生の仰るとおりだと思います。

ただ一点、気になるところがあります。
それは、特許事務所と企業の役割です。
特許事務所は、『与えられた土地』の上に出来るだけ立派な建物(明細書等)を作るのが仕事です(企業側がここを評価基準にしている以上、仕方ありません)。
これに対して、『土地を選択する』のは企業(知財部)側の仕事です。
現在7割近くある休眠特許は、『経営を理解していない』大手企業の知財部が作り出したものと思います(自己反省も含めてですが…)。
ライセンス狙いと言いつつ、自社が実施しない技術(自分が住まない土地)を堂々と『質の高い』特許と考えて出願するのは、明らかに『特許』の意味を履き違えていると思います。
返信する
Unknown (土生)
2007-06-02 01:27:55
大阪の弁理士受験生さん、
コメントありがとうございます。
ご指摘のとおり、現在の役割分担を前提にした特許事務所が追求すべきは「クレーム・明細書の質」であり(Aに近いBを安価に作る、というニーズもあると思いますが)、「事業との関連性」の追求は知財部の仕事となります。
その上で2点ほど。
① 「事業と関連性のある特許を出す」ことは大手企業の知財部の方は当然に強く意識しており、それが容易に実現できないのは、意識の問題というより、大きな組織ならではのもっと様々な別の問題が原因になっていることが多いように思います。その部分を内部の力だけで変えていくのはいろいろ難しいこともあり、外部からも協力できることがあると考えます。
② ベンチャーや大企業でも知財部のない企業に対しては、「土地を選ぶ」部分でも特許事務所が役割を果たすべきでしょう。
返信する
Unknown (大阪の弁理士受験生)
2007-06-02 21:16:31
コメントありがとうございます。
①について
確かに、先生の仰られていることは理解できます。
ただ、「特許の活用=ライセンス」と考えている多くの大企業の知財部が意図している「事業」は、土生先生の考えられている「事業」の意味と齟齬しているように思います。
②について
ここも、先生の仰られている点は、理解できます。
ただ、事務所側にも、各クライアントの事業動向を把握するのは限界がありますし、出願したいと言っているクライアントに、「出願しても意味がないから止めときましょう」と言えるのでしょうか?
事務所経営の上で、究極の選択になると思います。

追伸…失礼なコメントですいません。論文試験に集中します。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。