2013年3月05日(火) 廃炉処理の現況は問題無い?
先日、当ブログに
放射性廃棄物の処分を巡って (2013/3/2)
と題して記事を載せたところだ。 その記事作成途中で、記事中のA1に当たる、事故原発での廃炉処理に伴う廃棄物(特に汚染水)が、大変な状態にある事が報道され、かなり驚いた。 凡そが分かったので、取り急ぎ、取り上げることとした。
本稿を纏めるに当たり、当初はかなり深刻な事態と受け止めていたのだが、調べて行くにつれて、だんだん、トーンダウンし、タイトルも変わって来ている。
つい先日の3月1日に、東京電力が、事故原発の廃炉処理作業等の状況を、報道陣に対して、現地で公開したようで、その時に取材した様子を、TV朝日が同夜のニュースステーションで報道したのである。 それは、以下の様な状況だったのだが、ネット等の他の情報でも、再確認しながら、内容を補強してある。
○ 汚染水の貯蔵タンク群
テレビ朝日のTV番組では、福島第一原発での、汚染水を保管している、大量のタンクが写し出された。約400トンの水が入る小学校のプールの、2.5杯分に相当する量の汚染水を入れることができる、かなり大きな1000トンタンクなど、敷地内には、既に、大小900本以上ものタンクがあるという。
遠目には、一瞬、低層アパートが立ち並んでいるように見えた位で、広大な敷地内が、汚染水のタンク群で占められている。
貯蔵タンク(公開当日のYahooニュース
番組では、原発敷地全体の遠景として、事故前と事故後とで対比した画像が示されたが、緑豊かだった後背地の山林が、事故後切り倒され、そこが、無味乾燥で金属的なタンク群に変わっている様子は、極めて印象的で、異様な雰囲気が漂うものであった。
景観が大きく変化したことも、やや、驚きだが、後述するように、多い時は、小学校のプール一杯分の、400トンもの汚染水が、日毎に増えている、と言うのは信じられないことであった。
敷地内に設備済のタンクの総容量は、32万トン分と言うことで、既に現在、汚染水の貯蔵量は、約26万トンになっており、今後の余裕は6万トン程という。この分では、遠からず行き詰ってしまうようで、単純計算では、あと
60000/400=150日
で、満杯となってしまうのだ。
東電としては、今後に備えて
2014年 前半までに +8万トン
増設し、更に、敷地の造成を行って、現有容量の倍以上となる
2015年度までに 合計70万トン
の容量を確保する計画と言う。でも、後者の実現には、地震での安全性等から、地盤調査が必要となるようだ。(河北新報 東北のニュース/福島第1原発 汚染水「背水」の処理 タンク増設もう限界)
仮に、70万トンの設備が出来たとして、現在のように、汚染水が増える状態が続くとすると、同じ様に単純計算だが
(70-26)×10000/400=1100日
となり、後、約3年は持つ計算となるが、まあ、安心できる数字といえるだろうか。 これらが完成すれば、全体では、大変な数の巨大タンクが、敷地内に林立することとなる。
下図は、東電の発表資料中にある滞留水の貯蔵状況(H25/1/31)で、上記にある、タンクの現状と今後の計画なども示されているようだ。(東京電力ホームページ)
事故原発で、漏れ出た冷却水を循環して再利用するという、「循環注水冷却システム」により、変則的ながら、冷温停止状態を実現した、とされたのは、2011年秋で、あれから、1年半近くになる。当ブログでも、
冷温停止状態実現 (2011/10/20)
事故原発はもう安心! (2011/11/22)
の記事にあるように、ひと区切りとしてホットした所であった。
これらの記事中で、冷温停止状態が実現した、と関係者が判断した条件の一つとして、タービン建屋周辺に滞留する汚染水の監視水位が、或る期間、一定レベル以下に保たれている事が確認されていること、があり、資料にも
“残留滞留水の全体量は、豪雨や処理施設の長期停止にも耐えられるレベル”
とされていたものである。 当時の汚染水の水位は下図のようになっていた。
この時点での、循環注水している水の量や、必要により新たに加えている水の量は、把握はしていない。さらに、水位を保つために、必要により汲み上げ、汚染水として、タンクに貯蔵していたか否か、やその量は、不明である。
2、3号機の汚染水の水位(2011/6~11)
一方、東電の先日の資料によれば、2013/1/31現在で、汚染水の水位は、下図の右目盛りのようになっていて、上記とは、ほぼ、同レベルの3000mm前後である。
2,3号機建屋の汚染水の水位(2013/1中下~2上)
現在の、循環注水している水の量や、新たに加えている水の量は把握していないが、先述の様に、汚染水が溢れる事がないよう、監視水位を越える汚染水を回収し、タンクに貯蔵する量が、多い日で、400トンにもなると言うのが、自分には、想定外なのである。
元々、東電としては、時間的な経過とともに、貯蔵する汚染水の量は、どの様に想定していたのだろうか。又、必要となるタンクの建設いついては、当初はどのように読んでいたのだろうか。
循環注水冷却システム全体でみると、
システム内を循環する水の量 :通常の循環冷却
システムに新たに加わって来る水の量 :外部からの注水冷却
:地下水経由での浸入
システムから出て行く水の量 :蒸発 除染処理に伴うロス
強制的にシステムから出す水の量 :建屋地下からの汲出し
:循環途中での貯蔵
などの関係が、極めて複雑である。
○ 冷却で出る汚染水/増える汚染水
重大事故になった1~3号機の、原子炉の冷却は、事故後現在まで続いている訳だが、今も、原子炉や配管等の破損個所の修理迄には、全く、手が届いていない実態のようだ。
汚染水の漏れが止まらず、増えているような状況では、当然、建屋の地下には入れないという悪循環になり、破損個所の修理などは、頭低、出来る状況ではないだろう。
システム自身で、絶え間なく、汚染水を作り出しては、それをせっせと自分で処理しているという、苦行にも似た構図は、全く変わっていない。破損個所の修理が出来れば、汚染水も出なくなり、作業の安全性も大幅に向上するという、良循環に向かうだろうにーー。
それどころか、汚染水を安全な水位に押さえるため、汚染水として回収する量が、かなり増えている、というのが問題だ。その原因は、降った雨水等が原子炉建屋の外部から地下水として建屋に入って来て、そこから、建物の基礎部分などを経て、建屋内部に浸み込んで来て、建屋地下などの汚染水が増える結果となる、と考えられているようだ。
あの時点でも、台風の豪雨など、周囲からの地下水を経由して入ってくる水も、それなりに考慮には入れていた訳なのだが。その後、余震等で、建屋周辺の地質構成や、地下水の流れ等が変化し、侵入量が増えたのだろうか。
循環注水冷却システムは、部分的に破損している個所がある、原子炉や配管や建屋等の「人工物」を、仮に組み合わせて、危うい一つのシステムにしている訳だが、期待していない、地下水や地盤などの「自然物」が途中に組み込まれてしまう結果になっていて、一段と厄介なシステムになっている訳だ。人知を越える自然の奥深さを見せつけられる思いだ。
汚染水の増加を抑える対策として、外部からの雨水が、地下水として建屋に入りこまないように、地下水の上流で、12本もの井戸を掘って汲み上げる案も検討されているようだが、この方法では、汚染水の減少量は100~200トン/日程度にしかならないと言う。
事故後間もなく、地盤を固めて地下水を押さえるために、建屋周辺の地下に、凝固材等を注入したことがあったが、あのようなことは出来ないのだろうか。いずれにしても、未だに終わりが見えない、水との闘いが続いている。
○汚染水の浄化とトリチウム
使用済みの冷却水を循環させ再利用する過程で、危険な放射性物質であるセシウム137と、水中の塩分は、当初から除去して来たが、ストロンチウム、プルトニウム などは、除去されずそのままで、タンクに保存して来たようだ。
これらの、ストロンチウム、プルトニウムなど、62種もの放射性物質を、汚染水から除去するという、汚染水浄化の切り札と期待されている、多核種除去設備ALPSの設置が進められてきているようだ。12年秋には稼働を始める予定だったが、廃棄物容器の強度不足の問題が判明するなどしたため、現在も稼働には至っていないようだ。1日約500トンの処理能力があるという。
この新兵器ALPSが稼働しても、水素の放射性同位体と言われる、トリチウム(三重水素)だけは、除去することが不可能のようで、浄化処理した水の中に残ると言う。
このトリチウムなるもの、これまで殆ど聞いたことは無いが、どんな物質なのだろうか。
半減期が、約13年で、原発の通常運転で生成される放射性物質の様だが、自然界にも一定の濃度で存在するという。
トリチウムは、水素爆弾の基になるとか、将来の核融合発電で重要になるなどとも言われていて、大して危険なものではないという意見と、いや極めて危険だという意見もあるようだ。
先日のTV朝日のキャスターは、最後にトリチウムが残ることについて、深刻な問題と言った。一方、3/1の公開自体について、NHKでは報道されなかったようだし、上述の東電の資料ではトリチウムに触れられていない所を見ると、意外に大した問題ではないのかもしれない。
トリチウムの安全性について、以前、NHKでも取り上げて、話題を提供したことがあったようだが(【NHK】「原発は、放射性トリチウムを通常運転中にも放出」と報道 - 100%完全燃焼宣言)、NHKは、安全だから、問題は無いと言う立場なのだろうか。安全性に問題は無いなら無いと、改めて、はっきりとそう言ってほしいものだ。
原理的に除去できないものであれば、自然界に存在するレベルまで希釈する等して放出し、トリチウムとは、仲良くしていけばいいのだろうか。
でも、これを含んだタンクの水を海中に放出するとしたら、周辺の漁業関係者等は黙ってはいないのだろうか。
廃炉処理に関しては、4号炉の燃料棒の取り出しなど、部分的には進展している面もあるようだ。でも、自分の理解では、変則的なシステムながら、一旦確立したと思った、冷温停止状態と言う最も基本となる状態が、いまだに、安定していない、ということではないのか。環境への放射性物質の放出を抑える、という最も基本的な事項が、揺らいでいるようにも思える。
ここまで触れた汚染水処理の現状
・林立する汚染水の貯蔵タンク
・増え続ける汚染水と容量不足
・汚染水浄化装置(ALPS)の不稼働
・トリチウムの残留
などを、当事者である東電は、どう見ているのだろうか。そう深刻な状況とは見ていない様にも思えるがーー。
現在の、このような状況に対して、人心の無用な不安を払拭するために、東電は勿論だが、関係する専門家や、国や原子力規制委員会として、その安全性について、どのように判断するのか明確にして欲しい。
そして問題があれば、どのような見通しのもと、どの様な対策を行うのか、明らかにする必要があるし、その責務もあろう。
そして、全てのタンクがトリチウム汚染水で一杯になれば、良し悪しは兎も角、それを周囲環境に、放出せざるを得なくなる、という事態も想定される。