2014年8月25日(月) 電気ポットーーお湯を巡る進化
先日、当ブログに
電気ポットが使えない! (2014/8/14)
の記事を載せたが、本稿は、その続編である。
○電気ケトルと電気ポット
ここで、湯沸かし器具の呼称について、整理しておきたい。
飲料用の湯を沸かす器具には、火(ガス)を使う、伝統的な薬缶(やかん)がある。そして、電気で湯を沸かす器具だが、本シリーズでは、これを、便宜的に、
・電気ケトル系列(kettle)
・電気ポット系列(pot)
の、2系列に分類している。
英語の語源的な違い等については、ここでは、詮索しない。 以下の図は、Z社のHPから引用している。(電動ポット│電気ポット|商品情報|象印 )
電気ケトルは、薬缶型で、容量は、通常、0.5ℓ 程度と小さく、必要な時に電源を入れると湯が湧く器具で、横向きに出ている給湯口(注ぎ口)が特徴で、把手を持って、手動で給湯する。
保温機能等の高級な機能は付いていないが、やや軽量で不安定なことから、子供や高齢者には要注意な面があり、転倒防止等の安全性も工夫されているようだ。
メーカーの商品によっては、把手と注ぎ口が洒落た感じの各種デザインもある。部屋のインテリアとしても魅力的だろうか、一人暮らしの女性等に、かなり人気があることを、改めて知ったことだ。
一方の電気ポットは、円筒型で、安定性が良く、存在感がある。 実用的な機能に重点があり、湯を多量に利用できる、中~大容量(1~4ℓ)で、常時、通電して湯が沸いていて、保温機能があるのが一般的だ。
下向きの給湯口から、ボタン操作で電動給湯するが、給湯時は、注意しないと火傷する不安もある。
デザイン的には、電気ケトル系列と比べると、ずんどう型で余り冴えない、と言えるだろうか。
○湯沸かし器具の自家の歴史
ここで、筆者の身辺での変化を中心に、湯沸かし器具の歴史について、簡単に振り返って見たい。
●遠い昔の独身時代は、小さな電気湯沸かし器(電気ポットと呼んでいたと思う)で湯を沸かして利用した。単純な機能しかないのだが、何と、近くの電器店に修理に出して、直して貰った事もある。
この小容量の湯沸かし器具は、上記分類では、ケトル系列になる。 この系列は、旅行先のホテルの部屋等に備えられているので、現在も、自分でお茶を飲むなどに利用する事がある。
●結婚して家庭を持ってからは、台所のガスで、薬缶で湯を沸かし、その湯をマホービンに入れて、一定時間、保温して使うのが一般的となった。
マホービンの上蓋には、押し込む大きなボタンが付いていて、物理的な空気圧で給湯する仕掛けだった。近隣の集会所等での集まりでも、よく利用した。
このタイプから一歩進んで、電気で湯を沸かし、給湯は、マホービン式に手動になっているものが、出てきた。このタイプは、今でも新品で売られているようで、電気エアーポットというネーミングが面白い。
これらは、次の電気ポットタイプへ移行する過渡的な形だろうか。
●そして、電気で湯を沸かすのは勿論だが、給湯も電気式になった電気ポットの時代になった。更には、温度が下がると、自動的に再沸騰して、一定温度を保つ保温機能が付いたり、長時間通電する事から、節電のエコ機能が付加されたり、カルキ対策も重要となるなどして、現在に至っているだろうか。
●前稿で述べたように、常用してきた電気ポットが故障して、修理が難しそうなので取りあえず諦め、原点に戻って、必要の都度、台所のガスで、薬缶を使って湯を沸かして利用するパターンが、ここしばらく続いている訳である。(薬缶の写真は、前稿に)
○湯沸かしの進化
生活を巡る文明の進展の中で、水道、ガス、電気の、所謂、都市型の生活ライフラインが身近にあることは、極めて重要だ。
何時でも使える水 ――水道 栓を捻るとすぐ水が出る
何時でも使えるガス ――グリル ボタンを押すとすぐ点火
何時でも使える電気 ――電熱 ボタンを押すとすぐ加熱
身近に災害が起こると、普段当たり前になっているライフラインが、止まってしまった時の、生活の不自由さを実感させられることだ。
これらを実現するまでには、長い長い歴史があるのは、言うまでも無いが、便利な生活を追求する人間の欲求は高まるばかりで、次々と、コンビニさが増してきている、と言えるだろうか。
この一つとして、必要な時に、手軽にお湯が飲める暮らしが、最近は、一つの目標になっているようで、この流れの中で、湯沸かし用の器具を考えることができる。
“何時でも使える、水道やガスが身近にあるというのに、何でお湯もなのか”、という自戒的な疑問も湧くところだ。
そんなに忙しくしている訳でもないのだが、要は、“その都度、水から湯を沸かすのが面倒くさい”のであり、“沸くまで時間がかかるのが待ちきれずかったるい”のだ。
いつでも、手軽に、温かいお茶やコーヒーが飲めるようにしたいのだ。
世の中全体が、待ち時間を極力短縮する、インスタント化、ファスト化、即時化、リアルタイム化に向かっており、このことから、時間に制約されない、店舗やサービスの24時間化の流れにもなっている。
これらの傾向が、ごく小さな、湯沸かし器具にも表れていると言えるだろうか。
ここで思い浮かぶ事だが、インスタント麺の先駆となった、N製粉の「カップヌードル」は、いまも愛用している食品だが、このキャッチフレーズは、
「お湯さえあれば、いつでも、どこでも」
である。
湯を注ぐだけで、美味しい麺が手軽に食べられるようになったインスタント食品群は、今や、国内外で、日常食として利用されるのに加えて、携帯食として作業場や旅先で利用され、災害時の非常食としても、大変に貴重なものになっている。
お湯に着目した先人(安藤百福氏)の先見性が、今にして理解でき、驚くばかりなのである。(愛されて200億食 | 日清食品グループ)
○湯沸かしのコストとパフォーマンス
ここで、飲用の湯沸かし方法について、ガスを使った薬缶と、電気ケトル、電気ポットを使った場合の、それぞれのコストとパフォーマンスについて、以下に大雑把に比較して見る。
●コスト
・イニシアルコスト(器具代)
湯沸かし器具のラインアップの価格は多様だが、
電気ケトル 8000~ 10000円
電気エアーポット ~ 10000円
電気ポット 13000~ 23000円
位だろうか。(価格.com - 電気ポット・電気ケトル | 通販・価格比較・製品情報)
一方、今般故障した電気ポットと類似の機種でも、大雑把だが、
メーカーのサイト 20000円位
ネットショップ 10000~15000円位
近くの安売り屋 7000~10000円位
と、かなりの幅があるようだ。
器具代についは、詳細は省略するが、傾向としては
薬缶<電気ケトル<電気ポット
だろう。
・ランニングコスト
エネルギー消費の面からみると、比較するまでも無く、保温機能がある電気ポットよりも、必要な時にだけ湯をわかす、ガスの薬缶や電気ケトルに軍配が上がるだろう。
湯を沸かす事では、電気ポットと電気ケトルのエネルギー的な差は無いだろうが、保温機能の有無は大きい。 消費電力で見ると、沸騰時は、905Wで、保温時(90度)は、16Wなどとなっていて、当然ながら、大幅に異なっている。
電動ポットの場合、器具のメーカーとしては、省エネモード・節約タイマー機能など、節電・省エネの工夫が、商品の売りの一つとなっていて、この面での競争が熾烈である。
ネットには、利用モデルを想定した、電気式湯沸かし器のランニングコストの計算例や、これにガス式を加えた、より面倒なコスト比較例も出ているので、これらの詳細については、ここでは省略したい。
(電気ケトル・電気ポットの知識 | 消費電力・電気代と省エネ・保温機能・安全対策)
ランニングコストでは、湯の単位カロリー当たりのコストの傾向としては、定性的には、
薬缶<電気ケトル<電気ポット
だろうか。
●パフォーマンス
使う湯沸かし器具によって、得られる便利さ、使いやすさ、安全性、生活のクオリティといったものが異なってくる訳で、これらをひっくるめて、ここでは、パフォーマンスと呼ぶこととする。
パフォーマンスの幾つかの項目について、器具別に、自己流に整理したものが下表である。
|
薬缶 |
電気ケトル |
電気ポット(保温付き) |
|||
パ フ ォ | マ ン ス |
便利 |
沸かす手間 |
水を入れて沸かす手間 |
沸かす手間要らず |
||
沸かす時間 |
沸くまでの待ち時間 |
待ち時間 ゼロ |
||||
沸かす量 |
都度の必要量 |
何時も一杯に 湯に無駄が出る |
||||
給湯 |
給湯口を近づける |
給湯口に近づける(火傷の不安) |
||||
火気安全性 |
ガスの火気不安 |
電気の安全性(特に高齢者 IHはより安全) |
||||
周辺暑さ |
ガスの火で暑い |
電気ヒーターの熱は小 |
||||
湯の衛生面 |
必要量を都度沸かすので衛生的 |
残り湯の不衛生(消毒薬消失) |
||||
カルキ蓄積 |
蓄積量は少ない |
常時通電で蓄積量多い |
||||
デザイン |
|
室内インテリア |
実用性 |
|||
安定性 |
形状がやや不安定(転倒防止機能) |
安定 |
||||
●経済比較を超えて
得られる便利さの程度を尺度化するなどして、全体としてのコストパフォーマンスを経済比較し評価することは、至難の技だろう。
このことから、経済比較の結果に基づいてと言うのではなく、新たなパフォーマンスの向上を求めて、より多く金を掛けるのが、文明の方向なのかも知れない。
○VE余談
今回故障した電気ポットを改めて調べたら、商品の表示の中に
VE構造 VE電気まほうびん
などとあり、この「VE」とはなんだろうと思った。てっきり
Value Engineering
のVEで、経済的な保温機能をどの様に実現するか、といった高度な工夫があるのだろうか、と思ったのだ。
が、これは、早とちりで、よくよく調べて見たら、
Vacuum Erectric
の略のようだ。電気ポットで、前身であるマホービンの真空技術を生かしながら、消費電力を押さえながら保温したりするということで、これも大変な工夫だろう。
この商標、Z社だけのものと思ったら、何と、同じ大阪の同業ライバルであるT社との、共有商標と言うのだから、驚きである。