ケイの読書日記

個人が書く書評

木村紅美 「雪子さんの足音」 講談社

2019-11-12 16:21:08 | その他
 新聞の書評欄で取り上げられていたこの小説を、図書館の書架で見つけ、さほと期待せず借りたが…一気に読んでしまう。あまり後味の良い作品ではないが、ぐいぐい引き込まれる。

 雪子さんは、男子大学生・薫の下宿先の大家さん。若者に人気の町・高円寺にある。古い木造2階建てのアパートで、あまりにもボロいので、入居者は薫ともう一人、同い年の小野田さんと言う女性だけ。(もう一人、荷物置き場に使っている人がいるが、住んではいない)

 雪子さんは70歳くらいで、40歳くらいの無職の息子さんと住んでいたが、息子さんは突然倒れ、帰らぬ人となった。彼は引きこもり気味だったが、それでも頼りにしていた一人息子に先立たれ、心細くなったのだろう。雪子さんは、下宿人の薫と小野田さんに異常に親切になる。
 たくさん作りすぎた料理や貰い物のおすそ分けなら分かるが、部屋に招き入れ、料理を振舞い、ポチ袋に入れお小遣いを渡す。それも何千円じゃなく何万円も。

 特に、薫が小説を書いているとか、作家志望なんてデタラメをいうから、芸術家のパトロン気分で、雪子さんはどんどん薫に尽くす。薫も雪子さんを家政婦あつかい。「出前」といって、料理を自分の部屋まで持ってこさせる。アンタ、何様?
 旅行も外食も、すべて雪子さんのお金。

 もちろん雪子さんは、息子さんの保険金が入っているので裕福なんだろうが、そういったことが、薫や小野田さんをスポイルすることに気が付かないんだろうか?
 薫も薫だ。料理をご馳走になるならともかく、何万円もお金を貰って、おばあちゃんと孫の疑似体験をさせてやってるアルバイト、なんてうそぶくなよ。どんどんダメになっていくぞ。

 その上、全く興味のない小野田さんにも言い寄られ、雪子さんの事もあり、最終的に薫は下宿を出る。お互いにとって、良い決断。
 最初にキチンと距離をキープできていたら、良い大家さん、良い店子、良いお隣さんでいることができたのに残念。

 孔子だったっけ? 「君子の交わりは、淡き事、水の如し」? だったっけ? あまりにも人の領域に踏み込まないのが、人間関係を長続きさせるコツだと思う。

 下宿人と大家さんというと、火村とばあちゃんを思い出して、ほほえましく思うが、そんな事めったにないんだね。
コメント
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