ケイの読書日記

個人が書く書評

石持浅海 「扉は閉ざされたまま」

2016-02-06 10:27:17 | 石持浅海
 2005年の『このミステリがすごい!』で、第2位になった作品らしいから、とても楽しみに読んだ。

 
 大学の同窓会で、7人の旧友が館に集まった。軽く昼食をとり、ささっと掃除して各々が部屋に戻り、くつろいだりシャワーを浴びたり着替えたりして、夕方6時に食堂に集まることになる。
 だが、1人、時間が過ぎても食堂に来ない男がいる。呼びに行っても、ぐっすり眠りこんでいるのか応答がない。扉を開けようとしても、鍵がかかっていて、おまけにドアストッパーが差し込まれているらしく、ドアは全く動かない。
 しかたない、疲れて寝てるんだろう、ということで、他の6人で鍋をつついたり、お酒を飲んで騒いでいた。しかし、さすがに、この時間まで起きてこないのはおかしいという事になり、6人で男の部屋の前に移動して、閉ざされた扉の前で「脳梗塞か心筋梗塞みたいな病気かも」「自殺した?」「風呂場でおぼれてる?」と、さまざまな意見が出るが…。

 実は、この小説は倒叙ミステリで、一番最初に、犯人が被害者を部屋の中で殺害する場面が出てくる。
 だから、犯人も殺害方法も、読者は分かっている。その犯人を追い詰めていくのが、探偵役の碓氷優佳(うすいゆか)。この25歳の美しいリケジョ(火山の研究をしているらしい)が、私はあまり好きになれないんだよね。だから、読み進めていくうちに、犯人に肩入れしてしまう。なんとか逃げ切れ!!って。

 本来なら、開かない扉を前にした、犯人と優佳の息詰まる頭脳戦が読みどころのはずだが、私は、そこには関心を持てず、この魅力的な犯人が、どうして被害者を殺害したのか、その動機の方に興味をそそれれた。
 そこで、私は勝手に想像する。
 被害者は、本人に自覚は無いが不治の病に罹っており、苦しみぬいて死ぬという悲惨な最期が分かっていたので、犯人は友情のため、苦痛の無い方法で被害者を安楽に殺してあげた。そうだ、それに違いない!犯人は良い人なんだ!!って。

 ところがこれは大外れ!偏った独りよがりの正義感からだと分かる。
 それに、犯人が殺害から何時何分たったと、たえず気にしていることも、動機に関係ある。
 ああ、こういった動機で人を殺すことってあるんだろうか? 警察に通報するって警告すればいいじゃん!
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津村記久子 「二度寝とは 遠くにありて想うもの」

2016-02-01 10:47:59 | 津村記久子
 『やりたいことは二度寝だけ』の続編エッセイ。
 朝日新聞や読売新聞、京都新聞などの連載エッセイや、日経ビジネスオンラインに載ったエッセイを集めたもの。特に、日経ビジネスオンラインに載ったWEBエッセイは印象深いものが多い。

 「親は親をやりなおせるけどな」の章では、自分の生い立ちについて触れている。
 津村さんが9歳の時に、お母さんは彼女と弟さんを連れて別居、10歳の時に正式に離婚している。原因は、父親が働かなかったこと(ここらへんの子どもの気持ちについては『まともな家の子どもはいない』に書かれている) 離婚が別に珍しくない今、転校先にも母子家庭の子どもはいたはずだが、そういった事情は、子供の世界でも、表に出しづらいものらしい。
 お父さんは、離婚後、再婚し、新しい家族とは今度は仲良くやっていたようだが、病死した。
 お父さんとは全く音信不通だったので、死んだのを知らなかったが、再婚家庭の誰かが、娘が芥川賞作家だというので、出版社経由で津村さんに連絡した。

 ここらの津村さんの気持ちは…どんなだったろう。
 さすがに、出版社が連絡してくれたので無視するわけにもいかず、香典は出したが、悲嘆にくれる気分には全くなれず、葬式には参加していない。

 そうだろうなぁ、働かず、家でぶらぶらしていて、娘の友達が来ると顔を出し、寂しがり屋なのか、物欲しげに彼女たちの周りをウロウロする。「どうしてお父さんが家にいるの?」と友達に尋ねられ、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。そりゃ、私でも本当に嫌だよ。
 それなら、スパッと離婚して父親とはサヨナラして、友達には「お父さんは外国でお仕事している」ってしゃべるよ。

 親には親の事情があるだろうが、働く父親の背中を見せてほしかった。


 話は変わるが、木下晋也の挿画が、ほんとうにかわいい!
 木下晋也って、イラストレーターじゃなくてマンガ家なんだね。WEB無料マンガで少し読んだけど、そっちよりもこの挿画の方がうんとかわいい!津村さんの、ほんわかぼんやりした雰囲気をよく表している。おススメ!
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