ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子 「八番筋カウンシル」

2016-02-16 16:46:37 | 津村記久子
 小説の新人賞を受賞したのを機に、会社を辞めたタケヤス。東京で勤めていたが、そこを辞め、家業の文房具屋を継ごうと考え始めるヨシズミ。地元の会社に就職するも、家族との折り合いが悪く、マンションを買って家を出たいと思っているホカリ。
 幼馴染の3人が、30歳を目前に、自分たちが育った町・八番筋商店街で再開する。カウンシルとは、青年団のこと。
 そこに、15年前、無実の罪をきせられ町を追われたカジオや、地域一番の美少女だったカヤノが現れ…。


 作者の津村さんも、10歳の時ご両親が離婚し、こういった大阪のさびれた商店街で商売をやっている祖父母の元で大きくなった。だから、この小説は、彼女の自伝的な色合いが濃く出ている。

 30歳目前のタケヤス、ヨシズミ、ホカリの日常と、中学校・高校時代の思い出とが、交互に書かれている。
 いつも思うことだが、津村記久子は、一見まったく目立たない普通の中学生・高校生を書くのが、本当にうまい。
 目立たないといっても、タケヤス、ヨシズミ、ホカリは、それぞれ父親と死別したり離別したりして、母子家庭で母方の祖父母と同居しているという共通項がある。学校内で問題をおこさず、良い意味でも悪い意味でも注目されない。
 でも、彼ら彼女らの心の中は、進学の事、家庭の事、友人の事、異性の事、いろんな思いが渦巻いている。


1)男子は、自分たちと仲良くしたがっている女子を、すぐに嗅ぎつけるものだ。それは女子も同じで、それぞれの仲良し希望者をそれぞれが選別して、そのエリミネーションに残った者が晴れて異性と仲良くする権利を得る。

2)「夜遊びとか、わからんなぁ。おれやったら、休みの前の日の夜から朝は、絶対家におりたいわ(中略)だいたい人とおりすぎんのも疲れへんか?」タケヤスの言葉。

3)ほとんど顔見知りもいないつまらないクラスに配属され(中略)クラスに友達がいないのは一緒なので、力なく笑うだけだった。4月は、そういうところがいやだ。自分が安寧に所属できるグループを探して、不安を抱えたまま、好きでもないやつに、上手くもない愛想笑いをしなければいけないなんて。

4)塾へは異常に真面目に通っていたのは(高校受験のため)14才のこの時の努力で人生が決まってしまうような恐怖を、講師たちに叩き込まれていたからだった。

5)校則違反までして化粧をしている、そこそこ小奇麗な女たちが、煙草を買いに来る男たちの隣で笑っていたが、あらゆることを早く済ませてしまうが為に早く疲れてしまう彼女たちの未来が、タケヤスには見えるようだった。


 この小説を読んで、久々に自分の中学時代を思い出した。楽しかったことも、つまらなかったことも。今まで、記憶の下に埋もれていたのに。私を含め、大多数の人にとって、中学生時代というのは、なかなか過酷な時代なんだろうね。
 もし神様が「若い時に戻りたいって? 中学生に戻してあげよう」と言っても、私はキッパリ断るね。
コメント
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