ケイの読書日記

個人が書く書評

クリスティ作「スリーピングマーダー」を読んで

2005-05-19 17:45:40 | Weblog
 この作品には、大変思い入れがある。
 もう10年以上前だと思うが、BBC放送が製作したこの「スリーピングマーダー」をNHKで見たのだ。その頃は子どもが小さいので、バタバタ忙しく、ゆっくりテレビを見る暇もなかった。あれやこれや、やりながらテレビを『ながら見』するのが常だったが、これは導入部が格段におもしろく、どんどんひきつけられ、最後まで一気に見てしまった。
 プロローグ部分ーーーー新妻が初めて来たはずのイギリス南部で、素敵なヴィクトリア時代の古い売り家を見つけ、心ひかれ懐かしく思い、そこに住むことになる。しかし食堂につながっていたドア、テラスから芝生におりる段々、小さなヒナゲシと矢車草が並んでいる壁紙、新妻は奇妙なことに初めて見るはずの家の中に既視感を抱く。そしてーーーーーこんな見事な導入部はめったにないと思う。彼女の作品の中でも一番ではないだろうか。

 ミス・マープル物はポアロ物と比べ、事件までの話の持って行き方がすごく素敵。
 ポアロは名探偵として有名、という設定だから、依頼人が次々難問を持ってきたり、警察が未解決事件の相談をしたり、という始まりが多くワンパターンになりがち。
 しかしミス・マープルはセント・メアリ・ミード村の、お節介ばあさん、善良な一市民という設定なので、事件がどのようにミス・マープルにつながっていくか、そこまでの道筋がとてもおもしろいのだ。
 例えば『パディントン発4時50分』。老婦人がパディントン発4時50分の列車に乗りぼんやりしていたら、すれ違った列車の窓から1人の男が女性の首をしめ殺しているのが一瞬だが見えた。びっくりした老婦人は駅員にそのことを伝えたが本当にしてもらえない。友人のミス・マープルに打ち明け、そのうち死体が発見されるだろうと、話し合ったが、死体は発見されない。そこでミス・マープルは線路沿いの地図を広げ、ある一つの仮定を立てる。これも、本当に惹きつけられる導入部だ。

 ひとつ訂正があります。私が以前『五匹の子豚』の読書感想の中で、クリスティは青い目があまり好きでないかも、と書いたが訂正します。ミス・マープルはやせて背が高くばら色のほほと青い目を持っているようです。そこでクリスティは青い目にとても高い評価をしていることがわかります。それから金髪。(マープルの若い頃は髪は何色だったんでしょう)アングロサクソンの国でも天然の金髪は少ないようで、クリスティの作品中、金髪美人は多く出てきますが、「染めているに違いない」というやっかみを、たびたび言われているようです。


コメント
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