ケイの読書日記

個人が書く書評

芥川龍之介 「藪の中」 青空文庫

2024-01-10 10:12:23 | 芥川龍之介
 これは黒澤明監督が「羅生門」というタイトルで映画化した有名な短編で、前から読んでみたかった。

 盗人、その盗人に殺された男、その男の妻の3人の口から事件が語られる。しかし、三人が三様、まったく違う話をしており、何が真実なのか分からない。検非違使が出てくるから平安後期の話なんだろうか? 現代だったら、科学的な現場検証で、当事者たちが何を言おうと大体のことがわかるのだが、平安後期ではねぇ…。

 まず盗人の話。男とその妻を、宝が埋まっていると騙して、山の影の藪の中に連れ込んだ盗人は、不意打ちで男を襲い縛り上げ、妻を手籠めにする。立ち去ろうとした盗人に妻はすがりつき「夫か盗人か、どちらか死んでくれ。生き残った男に連れ添いたい」というので、盗人は卑怯な殺し方をせず、夫の縄を解き、堂々と戦い太刀で相手の胸を貫き勝利する。女の方を見ると、女はどこに逃げたか姿が見えず、誰か来たら大変だと、盗人もあわててその場を離れる。

 女の話。手籠めにされた女は、夫の目の中に蔑みの色を見る。自分は死ぬ覚悟だが自分の恥を見た夫も死んでほしいと言うと、夫が「殺せ」といったような気がして、小刀を夫の胸に突き立て殺してしまう。自分も死に場所をもとめ、あちこちさ迷ったが死にきれなかった。

 殺された男の話(巫女の口を借りた死霊の話)。妻の罪は、手籠めにされた盗人に「どこへでも連れて行ってください」と言い、夫である自分を指さして「あの人を殺してください。あの人が生きていては、あなたと一緒にはいられません」と叫びたてたことだ。盗人は、そんな妻を見て嫌悪したのか蹴り倒した。妻が逃げ、盗人も逃げ、取り残された自分は、小刀で自分の胸を刺した。

 最初に死体を見つけた木こりの話から、盗人の話が一番真実に近いと思われる。死体は胸もとにひと刀で大変な出血があり、凶器になったと思われる太刀は現場にはなく、現場は一面に踏み荒らされていたので、犯人と男は相当な大立ち回りをしたと推測される。

 生き残ってしまった女は、自分の名誉を守ろうと必死なのだろう。殺された男は、もののふの身でありながら盗賊に負けてしまったことを恥ずかしく思っているのでは?ただ、妻への怒りは大きく、自分を殺した盗人よりも憎んでいる。
 話がややこしくなるのは、それぞれが自分の話は事実だと信じ込んでいる事だよね。トランプ元大統領が「選挙は盗まれた」と信じ込んでいるみたいに。

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