ケイの読書日記

個人が書く書評

林真理子 「本を読む女」

2016-07-09 18:10:09 | 林真理子
 林真理子の御母堂をモデルとして、一人の文学少女の半生を書いた作品。

 万亀(まき)は山梨の片田舎の和菓子屋の娘として、大正4年に生まれた。上は姉が3人、兄が一人。裕福な家で、当時としては珍しく、娘をみな東京の女専にやっている。
 成績はすごく良いが、器量はぱっとしない万亀は、日本女子大に入学する所を、左翼思想にかぶれるかもしれないという心配から、親が勝手に女専に入学手続きを取ってしまう。その学校はお金持ちや良家の子女ばかりで、あまりにも華やか。最初の頃は気おくれしていた万亀にも友人ができ、東京ライフを楽しむようになる。
 この頃が、万亀ちゃんの人生のピークだったような…。

 銀座、有楽町、トーキー、松屋百貨店、円タク、宝塚の小夜福子、SKDのターキー、資生堂パーラー etc おびただしい華やかな出来事。
 時代は昭和ヒトケタだから、大恐慌の真っただ中で、本当に不景気。東北では娘を売ってなんとか糊口をしのいでいるのに、なんという富の偏在、超格差社会。

 当時は、一旗揚げようと、日本人が大挙して大陸(満洲)に押し寄せ、現地で成功し贅沢な生活を送っていたようだ。(この辺の所は、佐野洋子のエッセイにもよく出てくる。彼女もお父さんが満鉄に勤めていて、満洲で生まれている)
 給料もよく、物資も豊富で、現地人を何人も使用人としてつかい、王侯貴族のような生活をしていた。
 
 そういう所の娘が、東京の女子大や女専に入学してくるわけ。万亀にも、親が満洲で手広く弁護士事務所を経営している同級生と仲良くなり、こっち(満洲)に来ないか?と何度も誘われている。
 ああ、でもこういう人たち、敗戦後どうなったんだろうか? 日本に帰国するのは本当に大変だったみたい。先見の明がある人は、日本の敗戦をみこして、さっさと財産をまとめ、早めに帰国したんだろうか?

 とにかく万亀は国内で教師として働いたり、実家へ戻って祖母を看取ったりしている。昔の知り合いのつてをたどって、東京の出版社で働いていた時、見合いし、夫について満洲に渡ることになる。 
 戦局はどんどん悪くなる。ギャンブル好きなので疎ましく思っていた夫にも赤紙が来て…。本当に大変。子供の頃はあんなに幸せだったのに、どこをどう間違えて不幸になってしまったんだろうと万亀は嘆くが、彼女だけが大変なのではない。日本人みんなが大変だったのだ。

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