だいぶ前の東南アジアの旅行で、クアラルンプールから台北に飛んだ。
イミグレーションに向かって歩いていた時、ポンと肩を叩かれた。振り返ると女性である。
女性は審査官に提出する入国カードに必要事項を記入してほしいというゼスチャーだった。やむなくパスポートを出してもらって書いてやった。年齢を知ったはずだが覚えていない。30代ではなかったか。
宿泊先欄は私と同じガイドブックから選んだエコノミークラスのホテル名を書いた。その女性はそのホテルに一緒に行くという。
無害な日本人とみたか。なんだか国際を舞台とする盗っ人ではないかと疑った。
このマレーシア人女性とのコミュニケーションは片言の英語と漢字の筆談だった。
結論を急ぐ。女性は台北の医院の紹介状を持っていて、そこに行くのが目的のようだ。胡散臭いと思ったのは間違いだった。
私も興味からその医院に同行した。
どんな診察や治療かと思えば、なんとまつ毛を増やす「植毛」のための施術だった。自分の髪の毛をまつ毛に移植するとのことだ。東南アジアで名高い台湾の美容整形院ということだろう。
私は医院を出て観光にでかけ、女性がホテルに戻ったか知らない。施術後、何時間も医院で目をおおって横になっていたという。
朝に会うとサングラスをかけていて植毛まつ毛の様子はわからない。その日にそれぞれの国の帰途についた。
アルバムには医院の建物や彼女との写真を貼ってある。