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西山太吉毎日新聞記者は何をしたか

2009-06-28 00:44:07 | 日本近現代史
 前回取り上げた西山記者の国家公務員法違反事件の判決文を読んでみた。

 西山は、1審では無罪とされた(外務省の女性事務官は懲役6月、執行猶予1年の有罪判決を受け、確定)が、2審では懲役4月、執行猶予1年の有罪判決を受け、上告するも棄却された。
 1審から上告審までの判決文に拠って、西山記者が何をしたかをまとめておく。

昭和39年
4月1日 女性事務官、任官。

昭和45年
7月27日 女性事務官、大臣官房(外務審議官室)に配置換え。以後、安川壮外務審議官付外務事務官となり、同審議官の一般的秘書的業務に従事する。

昭和46年
2月 西山太吉、毎日新聞の外務省担当記者となる。以後安川審議官のところにしばしば取材で訪れる。
5月18日 西山、従前それほど親交があったわけではなかった女性事務官と一夕の酒食を共にし、肉体関係を結ぶ。
5月22日 西山、女性事務官とホテルで再び肉体関係を結んだ上、「取材に困っている、助けると思って安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。君や外務省には絶対迷惑をかけない。自分の頭の中に入れておいて記事を書くときの参考にするだけだ。特に沖縄関係の秘密文書を頼む」という趣旨の依頼をして懇願し、一応女性事務官は承諾。承諾した理由として女性事務官は、困っている西山に同情したこと、また西山に好意を抱いていたこと、そして依頼を拒否した場合西山との関係を明るみに出されることを恐れたことを挙げている。当時女性事務官には夫があり、西山にも妻子がいた。
5月24日 西山、女性事務官に「たのむぞ。何とかしてくれ、××の玄関で待っている」との電話をかけて督促。女性事務官、秘密書類を持ち出してバーで西山に手渡す。西山は一読後返却し、今度は○○事務所に来てくれ、地図は後で届けると告げる。
5月25日 西山、女性事務官の執務室で、○○事務所の地図と毎日7時に来てほしいという趣旨のことを記した紙を封筒に入れて黙って彼女に手渡す。女性事務官は、何かに追いつめられたような気がしてもうのがれられない、もうだめだという気になり、同日以後毎日のように○○事務所に赴き、外務省から持ち出した書類を西山に渡すようになる。
5月26日ころ 西山、○○事務所で女性事務官に対し、「5月28日に愛知外相とマイヤー駐日米国大使が請求権問題で会談するので、その関係書類を持ち出してもらいたい」と指示。〔西山はこの件について有罪とされた〕
6月3日 女性事務官、西山の指示に従い、愛知・マイヤー会談の概要が記載された愛知外相から牛場駐米大使宛の電信文案のコピーを○○事務所で西山に手渡す。〔女性事務官の有罪事実その1〕
6月5日 西山と女性事務官、ホテルで肉体関係を結ぶ。
6月7日 西山、愛知外相とロジャーズ米国務長官との間で9日に沖縄返還協定についての最終的会談が行われることを知り、その関係文書の提供を女性事務官に指示。
6月12日 女性事務官、西山の指示に従い、愛知・ロジャーズ会談の概要が記載された電文のコピーと、やはり請求権関係の別件の電文のコピーを、ホテルで西山に手渡す。〔女性事務官の有罪事実その2〕
西山と女性事務官、ホテルで肉体関係を結ぶ。 
6月17日 沖縄返還協定締結。
6月28日 西山渡米。女性事務官は米国に文書を郵送することもあった。
8月上旬 西山帰国。以後西山は女性事務官に対する態度を急変させ他人行儀となり、関係も立ち消えとなる。

昭和47年
2月 西山、外務省担当を外れる。
3月27日 衆議院予算委員会で社会党の横路孝弘議員(現・衆議院副議長)らが上記電信文案のコピーを基に、沖縄返還に伴う米国との「密約」について追及。
4月4日 西山と女性事務官、国家公務員法違反(機密漏洩)で警視庁に逮捕される。
4月5日 女性事務官、免職。

 西山側の上告を棄却した最高裁判決(第一小法廷、昭和51年(あ)第1581号、昭和53年5月31日)は、次のように述べている。

被告人の一連の行為を通じてみるに、被告人は、当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で右△△〔引用者注・女性事務官〕と肉体関係をもち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥ったことに乗じて秘密文書を持ち出させたが、同女を利用する必要がなくなるや、同女との右関係を消滅させその後は同女を顧みなくなったものであって、取材対象者である△△の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙したものといわざるをえず、このような被告人の取材行為は、その手段・方法において法秩序全体の精神に照らし社会観念上、到底是認することのできない不相当なものであるから、正当な取材活動の範囲を逸脱しているものというべきである。


 この上告棄却判決は、5人の裁判官の全員一致によるものであり、反対意見は存在しない。その裁判官には、近年死刑廃止論で著名な、刑法学者の団藤重光も含まれている。

 この「密約」をどう見るべきかは、その入手方法の是非とは別に論じられなければならない。
 しかし、この「密約」がどういう手段で明るみに出たのかということも、「密約」自体の評価とはまた別に論じられなければならない。

 西山太吉をヒーローのように祭り上げることに、私には非常に違和感がある。
 
 



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6 コメント

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Unknown (DH)
2009-08-01 19:55:28
こんばんは。

>西山太吉をヒーローのように祭り上げることに、私には非常に違和感がある。

同感です。西山氏は「取材源(情報源)の秘匿」というジャーナリストにとって死守しなければならない理念を守れなかったのですから、その点については厳しく批判されるべきだと思います。元事務官の人生に多大な(悪)影響を与えたことに対して氏はどう考えているのでしょうか。

この問題を論ずる人々がそのことを余り重大視していないかのように思えることに、当初から強い疑問を抱いてきました。まるで「権力の犯罪に比すれば、そう大したことでもない」「大事の前の小事」と言わんばかりの(一部の)論調には今でも非常な違和感があります。

これは決して当時の政府の行為を弁護しているわけではありません。
ただ、西山氏はジャーナリストとしてのみならず、人間的にも疑問符が付くところがあるような気がします。


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Re:Unknown (深沢明人)
2009-08-27 00:00:06
ご無沙汰しています。

この事件はよく「記者と事務官の男女関係に世間の関心が向いてしまい、密約の問題性が十分に検証されなかった」と総括されます。しかし、西山がこうした手段を採った以上、それは当然のことではないかと思うのです。
マスコミや学者が西山に対してそれほど批判的ではないのは、結局のところ、自分たちも場合によってはそうした手段をとりかねない、同じ穴のムジナだからではないかと思います。
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Unknown ()
2010-04-11 02:43:48
>西山太吉をヒーローのように祭り上げることに、私には非常に違和感がある。

私も同感です。
結局、なんでもかんでも国が悪い!と反日主義者たちは、あるときは個人の人権を大義名分にして、国を突き上げ、またあるときは国を突き上げるためには個人の人権など屁にも思わず傍若無人に蹂躙する最低の偽善者なのでしょう。

>http://www.mitsuyaku.jp/review.html

の文章の中に「恋愛も不倫も、個人的な問題に過ぎません。国民を欺いた政治家の責任の大きさと重さとは比較のしようもない「情通問題」の目つぶしが効果的であった日本の社会。」という一文があるのですが、第三者の人生を狂わせるほど、西山というじじいの行いは酷いものにも関わらず、国の責任を問う為には西山の行いは取るに足らないものである、という澤地の考えには全く共感できません。
また、国と国の外交に密約があって何が悪いのかサッパリ私には分かりません。
密約がでいないから、北朝鮮に拉致された方々も取り返せないのではないですか?北方領土もいまだ返還されないのではないですか?

あまりに純粋まっすぐ君(小林よしのりみたいで嫌ですが)すぎて、小説化のばあさんともども西山じじいも老衰か何かでお隠れになって下さい、と思います。
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Re:Unknown (深沢明人)
2010-04-13 00:01:47
「小説化のばあさん」とはリンク先の澤地久枝のことでしょうか。
澤地の『密約』は最近読みました。今日の視点から見て、非常に興味深い資料となっていると思いました。それでも、澤地の西山擁護論に同調する気にはなれませんでしたが。

密約は、ないにこしたことはないと思います。
例えば、沖縄返還の代償に、米軍基地は永久にこれを保証するという密約が交わされていたとしたらどうでしょう? あるいは、日ソ国交回復(とそれに伴うシベリア抑留者の帰還)の代償に、北方領土におけるソ連の主権を認めるとの密約が交わされていたとしたらどうでしょう?
密約の持つマイナス面にも留意していただけたらと思います。
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不倫罪 (discoder)
2012-03-20 19:00:54
これ、何歳児の議論なんだ。
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Re:不倫罪 (深沢明人)
2012-03-31 09:29:12
何十歳児だか存じ上げませんが、もう少し意味のわかるコメントをいただけたら幸いです。

コメントタイトルに「不倫罪」とありますが、そんな議論などここではしていません。

西山の行為はいわゆる不倫ですらなかったが故に非難されているのではないでしょうか。
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