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間違いだらけの国籍法改正反対論(上)(過去記事転載)

2019-06-12 22:30:32 | ブログ見聞録
(この記事は、2009年9月20日に私のYahoo!ブログに掲載したものです。
Yahoo!ブログが本年12月にサービスを終了するため、こちらに転載しておくものです。
 なお、引用部分の表示の仕方がYahoo!ブログは独特であり、そのままgooブログで表示すると本文とのつながりがわかりにくい箇所があるので、本文を若干修正し、ついでに言葉足らずの点に補足を加えました。)


 以前から交流のある無宗ださんのブログで、次のような記事を見つけた。

「速記止めて!音声止めて!」参議院での国籍法改悪の瞬間

 これは転載記事で、オリジナルはこちら。パピヨンさんという方の「木漏れ日の中で 」というブログの記事である。

 この国籍法改正は昨年12月に成立し、本年1月1日から施行されているのだが、民主党叩きのために未だにこの問題をむしかえしたい人々がいるらしい。

 私はこの国籍法改正にそれほど詳しくないのだが、それでも、この記事が間違いだらけであることはわかる。

 記事にはこうある。

民主党、公明党が推進していた、国籍法改正。

例によって民主党と公明党が推進していました。


 違います。
 この改正案は内閣提出法案です。議員立法ではありません。

 では、何故内閣が提出したのか。
 法務省のホームページに、この国籍法改正案の要綱や本文、理由、新旧対照条文が載っています。
http://www.moj.go.jp/HOUAN/houan40.html
 その「理由」の全文を次に掲げます(太字は引用者による。以下同)。

出生後日本国民である父に認知された子の日本の国籍の取得に関する国籍法の規定は一部違憲であるとの最高裁判所判決があったことにかんがみ、父母が婚姻をしていない場合における認知された子にも届出による日本の国籍の取得を可能とする等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


 この最高裁判決とは、2008年6月4日に言い渡された以下の2件

平成19(行ツ)164 国籍確認請求事件  
平成20年06月04日 最高裁判所大法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=36416&hanreiKbn=01

平成18(行ツ)135 退去強制令書発付処分取消等請求事件  
平成20年06月04日 最高裁判所大法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=36415&hanreiKbn=01

を指します。

 裁判所には、違憲立法審査権があります。最高裁で違憲判決が確定したら、その違憲状態を解消するために所管官庁が法律を改正しようとするのは当然のことです。
 別に民主党と公明党が推進していたのではありません。

 いわゆる外国人参政権の問題で両党が導入に積極的なのは事実です。しかしこの国籍法改正はそれと全く別の話です。

 パピヨンさんの記事はこう続きます。

日本国籍を得るために嘘をついた場合の罰則は、懲役一年以内。20万円以内の罰金。日本国籍のパスポートは世界でも信頼性が高く、日本国籍を得られることのメリットと比べれば、ほとんど罰則の意味をなさず、抑止力にもなりません


 それだけではすみません。
 法務省民事局のホームページにある「改正国籍法Q&A」には次のようにあります。

Q3 なぜ罰則が設けられたのですか。

A3 今回の改正により,日本人男性と子の間に実際には親子関係がないのに,親子関係があると偽って認知届をし(偽装認知),その認知事項が記載された戸籍謄本を添付書類として国籍法第3条の国籍取得の届出書を法務大臣に提出して不正に日本国籍を取得しようとする事案が発生する懸念があります。

そこで,改正法では,虚偽の国籍取得の届出書を提出した者(本人が15歳未満のときは父母などの法定代理人)に対する制裁として,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する刑罰が設けられました(国籍法第20条)。

なお,虚偽の認知届を提出する行為及び虚偽の国籍法第3条の国籍取得届によって不正に取得した国籍証明書を添付して戸籍法第102条の国籍取得届をする行為についても,公正証書原本不実記載罪(刑法第157条第1項)等により,それぞれ5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。


 パピヨンさんはこうも述べています。

DNA検査などは特に必要なく、「自分の子だ」と認めればいいだけですから。


 では、DNA鑑定を要件にすべきなのでしょうか。
 この点については、後述します。

 さらに、パピヨンさんはこう続けます。

さて、ろくに審議もされずに衆議院を通過してしまいましたが、そのあと、その危険性を感じた多くの国民が抗議して、考えなしに法案を通してしまった衆議院でも、慌てて対応を取りました。付帯決議を付けたのです。

1.本当に二人の間の子であることを科学的に証明する必要性があるのではないか

2.罰則を現実的な効力を持ったものにした方が良いのではないか

この2点について参議院で議論して欲しい、ということでした。


 附帯決議というのは、法案の可決に伴って決議するものです。「そのあと」「付けた」のではありません。

 そして、「参議院で議論して欲しい」というものではありません。法律の施行に伴い政府に対して要望する事項などを明記したものです。

 この記事を書いた人が、何もわかっていないことがわかります。

 ちなみに、衆議院での附帯決議の全文は次のとおりです。

  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 日本国民から認知された外国人の子が届出により我が国の国籍を取得することができることとなることにかんがみ、国外に居住している者に対しても、本法の趣旨について十分な周知徹底に努めること。

 二 我が国の国籍を取得することを目的とする虚偽の認知が行われるおそれがあることを踏まえ、国籍取得の届出に疑義がある場合に調査を行うに当たっては、その認知が真正なものであることを十分に確認するため、調査の方法を通達で定めること等により出入国記録の調査を行う等万全な措置を講ずるよう努めるとともに、本法の施行後の状況を踏まえ、父子関係の科学的な確認方法を導入することの要否及び当否について検討すること。

 三 ブローカー等が介在し組織的に虚偽の認知の届出を行うことによって日本国籍を取得する事案が発生するおそれがあることを踏まえ、入国管理局、警察等関係当局が緊密に連携し、情報収集体制の構築に努めるとともに、適切な捜査を行い、虚偽の届出を行った者に対する制裁が実効的なものとなるよう努めること。

 四 本改正により重国籍者が増加することにかんがみ、重国籍に関する諸外国の動向を注視するとともに、我が国における在り方について検討を行うこと。


 パピヨンさんが述べる付帯決議の内容とはだいぶ違うようですね。

 なお、この法案は11月18日に衆議院法務委員会を全会一致で可決し(この際に附帯決議も可決されました)、その日のうちに本会議も全会一致で可決しています。
 言うまでもなく、当時の衆議院は自民党が圧倒的に多数です。
 議員全員が出席する本会議はともかく、分野別に設けられている委員会では、出席者が審議すべき法案の内容を理解しているのは当然です。でなければ職務怠慢でしょう。
 衆議院の会議録によると、この日の法務委員会のメンバーは次のとおりです。

   委員長 山本 幸三(自民)
   理事 大前 繁雄 理事 桜井 郁三
   理事 塩崎 恭久 理事 棚橋 泰文
   理事 谷畑  孝 理事 加藤 公一
   理事 細川 律夫 理事 大口 善徳
      赤池 誠章    伊藤 忠彦
      稲田 朋美    近江屋信広
      木村 隆秀    笹川  堯
      清水鴻一郎    杉浦 正健
      平  将明    丹羽 秀樹
      萩山 教嚴    早川 忠孝
      町村 信孝    武藤 容治
      村田 吉隆    森山 眞弓
      矢野 隆司    柳本 卓治
      若宮 健嗣    石関 貴史
      枝野 幸男    河村たかし
      中井  洽    古本伸一郎
      神崎 武法    保坂 展人
      滝   実

 自民党では法相経験者や派閥の領袖、党3役、保守派の「青年将校」と呼ばれた人物などの名が目につきますが、彼らの目が皆節穴だったと、この記事を書いた人は考えているのでしょうか。

(続く)

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