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出入国管理法の「上陸の拒否の特例」について

2010-08-09 23:49:15 | 現代日本政治
 以前の記事で述べたように、先月訪日した金賢姫は、出入国管理及び難民認定法上は上陸拒否の対象であるが、同法に規定された「上陸拒否の特例」を千葉景子法相が適用したことにより、上陸が認められた。
 この特例は昨年の同法改正で設けられた条項で、千葉法相の就任後では初の適用だという。


(上陸の拒否)
第五条  次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
〔中略〕
四  日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。

(上陸の拒否の特例)
第五条の二  法務大臣は、外国人について、前条第一項第四号、第五号、第七号、第九号又は第九号の二に該当する特定の事由がある場合であつても、当該外国人に第二十六条第一項の規定により再入国の許可を与えた場合その他の法務省令で定める場合において、相当と認めるときは、法務省令で定めるところにより、当該事由のみによつては上陸を拒否しないこととすることができる。


 この第5条の2は、どうして新設されたのだろうか。
 1年以上の懲役に処された刑事犯を敢えてわが国に上陸させなければならない事態とはどういうものなのだろうか。

 検索していたら、拉致被害者とその家族を支援するという掲示板「蒼き星々」で、こんな記述を見た。


第五条の二「上陸拒否の特例」と第12条「裁決の特例」 投稿者:のんき 投稿日:2010年 7月20日(火)20時34分54秒

 今回キムの入国には、入管法(出入国管理及び難民認定法)の第五条の二の「上陸拒否の特例」が使われています。この条文は昨年の法改正で挿入されたものです。

「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律(平成二十一年法律第七十九号)」
 2009/3/6閣法として衆院に提出4/23法務委員会付託6/19可決。6/19本会議可決。(自民公明民主賛成、社民反対)参院法務委員会7/7可決本会議7/8可決7/15公布となっています。

 附則第1条第3号で公布後1年を越えないで施行となっていて、2010年7/1に施行されました。ほやほやです。

 衆院法務委員会の議事録を調べてみましたがこの条文を挿入した理由の説明も質問もありませんでした。当時は麻生内閣で森法相です。元入管所長が「国際テロ犯の入国は認められない」と反発しているようにたぶん抵抗は強かったんだろうと思います。この条文はキムヒョンヒに初適用されています。すでに入国準備は1年以上前から始まっていたと思われます。

 なお、ミックジャガーやシュワちゃんの場合は次の様な手続きを踏みました。
(1)上陸申請(第6条)を行ない
(2)入国審査管が審査(第7条)を行なって第5条の上陸拒否理由に該当する場合は特別審査官に引き渡し
(3)口頭審査(第9条)が行われ上陸条件条件に適合していないときは適合していない事と異議申し立てが出来る旨を告げられる。
(4)入国者が異議申し立てをすると法務大臣が裁決をする(第11条)
(5)異議申し立てに理由がなくても「法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき。」は「上陸を許可することができる」(第12条)

 従来は12条「裁決の特例」での入国です。キムの場合はこの手続きの前、「上陸拒否の特例」で入国しています。


 私も衆院法務委員会の議事録を調べてみたが、たしかに触れられていない。
 触れると目的を明らかにせざるを得なくなるから、敢えて伏せられたのだろうか。
 そして金賢姫の訪日は民主党政権ではなく、麻生内閣から準備されていた話なのだろうか。

 しかし、もう少し調べてみると、そうではないことがわかった。

 行政書士の方による「入管と日本のビザに関するブログ」というブログに、次のような解説があった。

◆今回の改正は,在留カードによる外国人管理制度という管理の厳格化(=ムチ?)と外国人の入国在留手続の利便性の向上(=アメ?)の抱き合わせだと,よく評されま
す。そのアメの部分の一つといわれるのが第5条の2の新設です◆

〔中略〕

☆解説☆
 この条文の新設は,これまで「上陸特別許可」という手続でしか上陸・入国を認められていなかった外国人につき一定の事由(法務省令で定める場合・・・婚姻ケースなど人道的理由)がある場合,上陸審判手続き(退去強制手続と同様の認定~判定という段階的な手続)を経ず,通常の上陸審査手続で上陸できるとしたものです。
 法務省令で定める場合=人道ケースが何かという基準についてはいまだ公表されていませんが,これまでの実務上の取扱に従ったものとなりそうです。すなわち,例えば子供無し夫婦の場合上陸特別許可を得るための在留資格認定証明書の申請は,退去強制から二年を経過かつ婚姻から二年を経過という線引きがされており,それをクリアしていないと交付の方向での審査は行われない(入国管理局内部の通達による取扱)というのが実情でした。
 おそらく,改正法による「上陸を拒否しない」という基準もその辺に落ち着くのではと識者の間では言われています。

 では,退去強制歴のある外国人配偶者を日本に呼寄せるのが簡単になるのか?
 答えはほぼNo!でしょう。上陸審査を受ける前提としての査証,その査証発給の前提としての在留資格認定証明書交付申請についての審査は,やはり退去強制歴の無い人より厳しく行われるでしょうし,昨今,箱物興行ビザの事実上の廃止に近い取扱から一部の国の人たちの偽装結婚が増加傾向にあるともいわれていますので,婚姻の信憑性立証には十分説得的な資料を提出する必要が高まっているという傾向があります。したがって,申請手続きそのものは決して楽になるとはいい難いと思います。

 もっとも,基準が明示されることにより,これまで何かと一般人には不透明であった配偶者案件の上陸特別許可(新法では特別許可でなく,ただの上陸許可となりますが)がわかりやすくなったというメリットはあります。また,在留資格認定証明書に上特が付記された場合は形式的なものであるといっても上陸口頭審理を受けるという,そのこと自体,当の外国人には心理的な負担になっている面もあったでしょうが,改正法施行後は一般人と一緒にパスポートコントロールを通って上陸できるのでその辺のプレッシャーは解消されます。

★参照条文=上陸特別許可★
(法務大臣の裁決の特例)
第十二条
 法務大臣は、前条第三項の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該外国人が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の上陸を特別に許可することができる。
一 再入国の許可を受けているとき。
二 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に入つたものであるとき。
三 その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき。
2 前項の許可は、前条第四項の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなす。

≪この裁決の前提として,上陸審査,上陸口頭審理のプロセスがあります≫



 つまり、上陸拒否の対象者に対し、法務大臣の裁量により上陸を許可する制度はこれまでにもあったが、そのプロセスが簡略化されたということか。

 別の行政書士の方のサイトには、昨年の法改正の解説が載っていたが、そこではこのように。


8.上陸拒否の特例に係る措置【施行日:公布日から1年以内】
 上陸拒否事由に該当する特定の事由がある場合であっても、法務大臣が相当と認めるときは、上陸を拒否しないことができる規定を設けます。例えば、不法残留によって退去強制された外国人が日本人と婚姻し、かつその日本人が当該外国人の本国を何度も訪問したなど婚姻の実体がある場合、上陸拒否期間中(5年又は10年)であっても上陸特別許可が認められ、在留資格「日本人の配偶者等」が与えられることがあります。このような外国人は、その後の再入国の際、上陸を拒否されません。


 別に金賢姫の上陸を想定して設けられた条文ではなさそうである。
 ただ、施行のタイミングから、たまたま金賢姫が最初のケースとなったということなのだろう。


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