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橋下徹市長の「慰安婦制度は必要」発言に思ったこと

2013-05-16 00:45:13 | 現代日本政治
 私は石原慎太郎の諸発言には何かと不審の念を持つことが多いが、今回は極めて同意する。

■石原氏「軍と売春はつきもの」「間違ったこと言ってない」

 日本維新の会の石原慎太郎共同代表は14日、橋下徹共同代表が戦時中の旧日本軍慰安婦を「必要だ」と発言したことに対し、「軍と売春はつきもので、歴史の原理みたいなもの。決して好ましいものではないが、彼は基本的にそんなに間違ったことは言っていない」と述べ、橋下氏を擁護する考えを示した。

〔中略〕

 石原氏は「(戦時中は)売春婦を取り持つみたいな施設をつくる商売があった。そういうものは歴史の中の一つの公理みたいなものだ」と指摘。そのうえで「ものの言い回しやタイミングの問題もあるが、あなた方(報道機関)の捉え方も問題がある。あまり被虐的に考えない方がいい」と語った。


 朝日新聞13日夕刊の第一報を読んでも、SYNODOSによる全文書き起こしを読んでも、全体としてはそれほどおかしなことを言っているとは思わなかった。

 朝日の第一報には、村山談話について、

「日本は敗戦国。敗戦の結果として、侵略だと受け止めないといけない。実際に多大な苦痛と損害を周辺諸国に与えたことも間違いない。反省とおわびはしなければいけない」と強調


したともあり、実際、朝日の見出しは、

橋下氏「慰安婦必要だった」
「侵略、反省・おわびを」


と、一応バランスのとれたものとなっている(ちなみに毎日新聞は「反省とおわび」は報じていない)。

 SYNODOSによると、この箇所の全文はこうなっている。

侵略とはなにかという定義がないことは確かなのですが、日本は敗戦国ですから。戦争をやって負けたんですね。そのときに戦勝国サイド、連合国サイドからすればね、その事実というものは曲げることはできないでしょうね。その評価についてはね。ですから学術上さだまっていなくてもそれは敗戦の結果として侵略だということはしっかりと受け止めなくてはいけないと思いますね。

実際に多大な苦痛と損害を周辺諸国に与えたことは間違いないですからその事実はしっかりと受け止めなくてはならなないと思います。その点についても反省とお詫びというものはしなくてはいけない。

またこの立場はずっと週刊朝日や朝日新聞にたいして言い続けていますけども、自らの一方当事者が「もう終わりだ、終わりだ」といって時間を区切って終わりにすることができないんですね。

それは時間が解決する、ようは相手方がある程度納得するまでの期間、時間的な経過が必要であることはまちがいないです。だから、戦後60年経ったんだから、70年経ったんだから、全部ちゃらにしてくれよってことを当事者サイドがいうことではないです。

これは第三国がね、まあアメリカや連合国の方が、また、まあアメリカもそりゃ損害はあったんでしょうけど、それでも第三者的な立場の国がね、「もういいんじゃないの」っていうのは、まあそれはいいんでしょうけど。当事者である日本サイドの方が「もう60年経ったんだから、70年経ったんだから、もうちゃらだよ」っていうのは、これは違うと思いますね。


 これには朝日新聞的な見方をされる方も、同意するのではないだろうか。

 にもかかわらず、結局「必要」だけが一人歩きして叩かれるんだろうなと思っていたが、やはりそうなった。

 朝日の第一報には、こんな発言もある。

「意に反して慰安婦になったのは戦争の悲劇の結果。戦争の責任は日本国にもある。慰安婦の方には優しい言葉をしっかりかけなければいけないし、優しい気持ちで接しなければいけない」

 
 私はこれはとても大事なことだと思う。
 ネット上で、大東亜戦争肯定論者が、朝鮮人慰安婦をひどく口汚い言葉で罵るのをしばしば見かけるが、どういう頭の構造をしているのか理解しがたい。
 強制性の有無は別として、彼女らが大変な目に遭ってきた方々であることは事実だろう。そして、そうした彼女らに数多くの日本兵がお世話になったことも事実だろう。
 ならば、お世話になったことを感謝こそすれ、彼女らをむやみに貶めるべきではないのではないか。
 しかし、そうした視点による慰安婦肯定論が政治家の口から語られることはまずない。橋下のこの発言は画期的なものではないかと思う。

「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度は必要なのは誰だってわかる」(朝日第一報)


 「必要」という言葉には確かに違和感がある。
 「必要悪」ならまだしも。
 しかし、「必要」とされたのは事実なのではないか。

 14日付毎日新聞は、こんな研究者のコメントを載せている。

木村幹・神戸大大学院国際協力研究科教授は「政権を狙う国政政党の代表とは思えない不用意な発言。慰安所の設置は中国大陸での暴行頻発が背景にあり、その必要性を認めることは『当時の日本軍は戦地で暴行をするような軍隊だった』と認めるも同然。首相として自衛隊の最高司令官になるかもしれない人物が、戦争状態では慰安婦制度もやむを得ないとも解釈される発言をするのは軽率だ」と語った。


 しかし、「中国大陸での暴行頻発」が慰安所設置の背景にあったことが事実なら、『当時の日本軍は戦地で暴行をするような軍隊だった』のもまた事実なのだから、それを認めるのは何もおかしくないのではないか。
 まさか木村は、「中国大陸での暴行頻発」が事実あったにもかかわらず、わが国の政治家としては政治的理由により『当時の日本軍は戦地で暴行をするような軍隊だった』とは認めるべきでないというのだろうか。それこそ強弁というものではないか。

 橋下が沖縄の米軍に風俗の利用を説いたというのもおかしい。

慰安婦制度じゃなくても風俗業ってものは必要だと思いますよ。それは。だから、僕は沖縄の海兵隊、普天間に行った時に司令官の方に、もっと風俗業活用して欲しいって言ったんですよ。そしたら司令官はもう凍り付いたように苦笑いになってしまって、「米軍ではオフリミッツだ」と「禁止」っていう風に言っているっていうんですけどね、そんな建前みたいなこというからおかしくなるんですよと。

法律の範囲内で認められている中でね、いわゆるそういう性的なエネルギーを、ある意味合法的に解消できる場所ってのが日本にはあるわけですから。もっと真正面からそういうところ活用してもらわないと、海兵隊のあんな猛者のね、性的なエネルギーをきちんとコントロールできないじゃないですかと。建前論じゃなくてもっとそういうとこ活用してくださいよと言ったんですけどね。それは行くなという風に通達を出しているし、もうこれ以上この話はやめようっていうんで打ち切られましたけどね。だけど風俗業ありじゃないですか。これ認めているんですから、法律の範囲でね。(SYNODOS)


 風俗が利用できないから、一般女性に対する性犯罪が起きるというものではないだろう。
 建前は建前として、現実に風俗は利用されているのだろうし、性犯罪は全く別の次元の欲望によるものではないだろうか。

 しかしこれについても橋下は、

―― 活用していないから事件が起こると?

いやいや、それは因果関係は別です。でももっと、だから、そういうのは堂々と……。それは活用したから事件がおさまるという風な因果関係にあるようなものではないでしょうけど、でも、そういうのを真正面から認めないと、建前論ばかりでやってたらダメですよ。そりゃあ兵士なんてのは、日本の国民は一切そういうこと考えずに成長するもんですから、あんま日本国民考えたことないでしょうが、自分の命を落とすかもわかんないような、そんな極限の状況まで追い込まれるような、仕事というか任務なわけで。それをやっぱり、そういう面ではエネルギーはありあまっているわけですから、どっかで発散するとか、そういうことはしっかり考えないといけないんじゃないですか。それは建前論で、そういうものも全部ダメですよ、ダメですよって言っていたら、そんな建前論ばっかりでは、人間社会はまわりませんよ。(SYNODOS)


と、当初から因果関係を否定しており、そもそも大真面目に犯罪防止策として風俗の利用を説いたわけではないのではないだろうか。

 そして、橋下が最も言いたかったのは、この点ではないのか。

「当時の歴史を調べたら、日本国軍だけでなく、いろんな軍で(慰安婦を)活用していた」と指摘。そのうえで「なぜ日本の慰安婦だけが世界的に取り上げられるのか。日本は国をあげて強制的に慰安婦を拉致し、職業に就かせたと世界は非難している。だが、2007年の(第1次安倍内閣の)閣議決定では、そういう証拠がないとなっている」と述べ、「事実と違うことで日本国が不当に侮辱を受けていることにはしっかり主張しなければいけない」と語った。(朝日の第一報)


 こうした趣旨のことをかねてから述べていた産経新聞や自民党の一部政治家が、このたびの橋下発言を批判するのはどうしたことだろうか。
 15日付産経新聞「主張」(社説に相当)より。

【主張】橋下市長発言 女性の尊厳損ね許されぬ

 日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)が「慰安婦制度は当時は必要だった」などと語った。米軍幹部に「海兵隊員に風俗業を活用してほしい」と述べたことも自ら明らかにした。

 今の時代に政治家がこうしたことを公言するのは女性の尊厳を損なうものと言わざるを得ない。許されない発言である。

 慰安婦問題をめぐっては、宮沢喜一内閣当時に根拠もないまま強制連行を認める河野洋平官房長官談話が発表され、公権力による強制があったとの偽りが国内外で独り歩きする原因となった。

 安倍晋三首相は有識者ヒアリングを通じて談話を再検討する考えを示してきた。橋下氏が「必要な制度」などと唱えるのは事実に基づく再検討とは無関係だ。国際社会にも誤解を与えかねない。

 橋下氏は「慰安婦制度は世界各国の軍が活用したのに、なぜ日本だけ取り上げられるのか」「軍の規律を維持するためには必要だった」などと、当時の慰安婦の必要性を肯定した。

 これに対し、稲田朋美行政改革担当相は「慰安婦制度は女性の人権に対する大変な侵害だ」と批判し、下村博文文部科学相も「あえて発言する意味があるのか」と指摘した。稲田、下村両氏は自民党内の保守派として河野談話の問題点を厳しく指摘したこともあるが、橋下氏の考えとは相いれないことを示すものといえる。

 安倍首相も「筆舌に尽くしがたいつらい思いをされた方々のことを思い、非常に心が痛む」との認識を表明している。

 河野談話の発表にあたっては、二百数十点に及ぶ公式文書には旧日本軍や官憲が慰安婦を強制連行したことを裏付ける資料は一点もなかった。だが、発表直前に韓国のソウルで行った韓国人元慰安婦からの聞き取り調査だけで、強制連行があったと決めつけた。

 裏付けなく発表された談話が、韓国などの反日宣伝を許す要因となっている状況を安倍政権は見直そうとしている。いわれなき批判を払拭すべきだという点は妥当としても、橋下氏の発言が見直しの努力を否定しかねない。

 橋下氏が米軍幹部に述べた「風俗業活用」発言など、もってのほかだ。人権を含む普遍的価値を拡大する「価値観外交」を進める日本で、およそ有力政治家が口にする言葉ではなかろう。


 稲田が「慰安婦制度は女性の人権に対する大変な侵害だ」と批判したというが、橋下は別に、大変な侵害ではないと述べたわけではないので、話が噛み合わない。
 安倍が「非常に心が痛む」と述べているというが、橋下も、上記のように「慰安婦の方には優しい言葉をしっかりかけなければいけないし、優しい気持ちで接しなければいけない」と述べている。心が痛まないなどとは述べていない。
 何の反論にもなっていない。

 「風俗業活用」が「価値観外交」に反するとは思い至らなかった。では産経は、風俗業の即時全面禁止を社論にしてはいかがだろうか。どうせ「必要」のないものなのだろうし。

 河野談話を批判しつつ橋下発言も批判するという産経の論理は不可解である。

 SYNODOSによると、橋下はこうも述べている。

その当時ね、世界の状況を見てみれば、アメリカだって欧米各国だって、植民地政策をやっていたんです。

だからといって日本国の行為を正当化しませんけれども、世界もそういう状況だったと。そういう中で日本は戦争に踏み切って負けてしまった。そこは戦勝国としてはぜったい日本のね、負けの事実、悪の事実ということは、戦勝国としては絶対に譲れないところだろうし、負けた以上はそこは受け入れなきゃいけないところもあるでしょうけど。

ただ、違うところは違う。世界の状況は植民地政策をやっていて、日本の行動だけが原因ではないかもしれないけれど、第二次世界大戦がひとつの契機としてアジアのいろんな諸国が独立していったというのも事実なんです。そういうこともしっかり言うべきところは言わなきゃいけないけれども、ただ、負けたという事実だったり、世界全体で見て、侵略と植民政策というものが非難されて、アジアの諸国のみなさんに多大な苦痛と損害を与えて、お詫びと反省をしなければいけない。その事実はしっかりと受け止めなけれないけないと思いますね。

日本の政治家のメッセージの出し方の悪いところは、歴史問題について、謝るとこは謝って、言うべきところは言う。こういうところができないところですね。一方のスタンスでは、言うべきとこも言わない。全部言われっぱなしで、すべて言われっぱなしっていうひとつの立場。もう一つは事実全部を認めないという立場。あまりにも両極端すぎますね。(太字は引用者による)


 私はこれは聞くべき主張だと思う。
 そして、産経や稲田のように、同調できる部分を含んでいるのに(おそらくは政治的な理由で)それを無視して全否定するより、はるかに誠実な態度ではないかとも思う。