トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

「差別的魚名」について思ったこと

2007-02-08 00:37:41 | 生物・生態系・自然・環境
 デリケートな話題なので緊張しますが、以前から気になっていたことなので書きます。

 2月1日の『朝日新聞』夕刊に、以下のような記事が載っていた。
差別的魚名「変えます」 バカジャコ、メクラウナギ…(朝日新聞) - goo ニュース 

 「差別的な言葉」ねえ・・・。
 ひと昔前は「差別用語」と言われたものだが、言い方を改めたのかな。しかし意味合いは変わっていないな。
 「メクラ」「オシ」といった言葉は、「差別的」なのだろうか。
 これらは、古来からのれっきとした「日本語」ではないのだろうか。
 それらが差別的に使われることはあるだろう(罵倒などで)。しかし、その言葉自体は、中立的な意味合いしか持っていないのではないか。
 現代の言語感覚で、法律や公用文やビジネス文書で「メクラ」「オシ」といった言葉が使われるのが適当だとは思わない。そういったものが修正されるのは当然だろう。
 しかし、生物の名前にまでそれを及ぼすのはどうだろうか。
 それは結局、「メクラ」「オシ」という言葉を、この世からなくそうということにつながるのではないだろうか。
 それ自体は中立的な言葉を、差別的に使われることもあるというだけの理由で、この世から抹消しようとするのはいかがなものだろうか。

 と思っていたのだが、日本魚類学会のホームページのこの件に関する記事を読んで、少し考えを改めた。

(以下、「会員以外の方から寄せられたご意見等への考え方」から引用)

Q. 改名によって混乱するのではないか?
A. 一部ではすでに言い換えや言い控えによる混乱が生じており、改名することにより名称の安定化をはかる必要があると判断しました。(後略)

Q. 標準和名に含まれる、例えばメクラやイザリという語は、その名称がつけられた生物の形態的な特徴や行動的な特徴を単に記述しただけであり、人間の差別にはあたらないのではないか?
A. それらの語は、命名の意図や経緯とは関係なく現代の価値観では差別的であると判断されます。現実に精神的苦痛を受ける方がおり、そして博物館や水族館等では言い換えや言い控えによる混乱が生じています。また、標準和名とは異なりますが、魚類の学名を規定している「国際動物命名規約第4版」では、「いかなる著者も、その知識としかるべき信念に照らし、なんらかの観点において無礼な感覚を与えそうな学名を提唱するべきではない」という倫理規定が勧告として設けられています。

Q. 標準和名の意味を説明すればよいのではないか?
A. 標準和名は様々な場面で使われますので、一人歩きする名称に対して説明を付けるのは困難です。

Q. 名前には歴史的意義があるので改名は文化の破壊行為(言葉狩り)ではないのか?
A. 魚類の標準和名は自然科学、教育、法律、行政等、分類学的単位を特定し、共通の理解を得ることが必要な分野で推奨されると規定されています。差別的語を含む標準和名は、そのような場では相応しくないのは明らかです。ただし、改名によって旧名が消え去るわけではなく、分類学的には使用を制限された別名(異名;シノニム)という形で存続します。このような別名を上記のような場以外で使用することに対して学会が制限をかけることはありませんし、その権限も持っていません。歴史性や文化的意義を記述する文脈などにおいて別名を使用する必要性があるなら、いつでもそれらを使用することができます。また、当学会は辞書・辞典類などからの別名の削除を推奨しません。

(引用終わり)

 なるほどなあ。
 まあ、素人が考えるようなことは既に十分検討した上での結論なのだろう。
 そして、既に混乱が生じているので、その解消も目的だという。
 それにしても、動物の命名に倫理規定があったとは。

 しかし、それでも釈然としない思いは残るのだが。

 メクラウオという魚がいたはずだが、それは今回の発表には含まれていない。既に改名されているのか、それとも今回は見送ったのか。
 「テナシ」「アシナシ」が不適切なら、アシナシトカゲやアシナシイモリも改名されるのかな。

 各紙の記事を見比べていたら、産経の記事
差別魚名やめます バカジャコ→リュウキュウキビナゴ 32種改称(産経新聞) - goo ニュース
がなんかヘン。

《日本魚類学会は1日、「バカジャコ」「イザリウオ」など不快語や差別的な言葉を含む日本産の魚32種の標準和名を改称すると発表した。》 

とあるけど、

《改称するのは同学会が差別的と判断した「バカ」など9つの言葉を含む魚類の標準和名。「バカジャコ」は「リュウキュウキビナゴ」、「クロメクラウナギ」は「クロヌタウナギ」、「セッパリサギ」は「セダカクロサギ」、「クマドリイザリウオ」は「クマドリカエルアンコウ」となる。》

 「クマドリイザリウオ」はわかったが、冒頭の「イザリウオ」がどう改名されたのかわからない。
 「クロメクラウナギ」「クマドリイザリウオ」を挙げて、「メクラウナギ」「イザリウオ」を挙げないのもヘン。
 これこれがこう変わったというニュースなのだから、代表的な例を挙げるのが普通ではないのかな。
 何やら腰が引けているような。