今年読んだもののなかで忘れられない喉に変な感じで引っ掛かる読後感を残す小島信夫の小説。抱擁家族のことごとく自然な振舞いを失って、カタカタ動いているような人々を思わせるのになおかつ異様に人間臭く、どうしようもなさが漂ってくる奇妙さに惹かれる。こんなふうに人を描く方法もあるのかと思った。
抱擁家族に至るまでの短編集を読んでいるけれどそれもおもしろい。すごく些細で物語になるほどでもないけれど実は根深く、おそらく誰でもこの種の微妙で嫌なやりとりをしたことがある、と感じること、などを題材として扱ったり、いちいち言いたくないような心のありようをきっちり手に取られるよう。ざくっと書いてあるようで異様な緻密さがある。あと台詞がおもしろい。
読んでいると、どんなにやっても破綻しないから大丈夫と言われているようで、書く勇気がわく。