奈良で仕事を終えて帰りの近鉄。
乗換駅の大和西大寺は学校帰りの学生で混んでいる上に、今日は曇りで湿度が異様に高く、ホームに立っていると酸欠の心地で息苦しい。
京都行きの急行、やはり座れず。
私から見て右端のドア際の席には、ピンクのシャツに茶色いズボン、シルバーのメガネを掛けた色黒サラリーマン風男、その左隣にくたびれた服におろしたてのまっ白なナイキのスニーカー、CASIOの腕時計の日雇い労働者風おっさんが座っている前に立ち、左手で吊り革を掴み、読みかけの大塚英志氏と東浩紀氏の対談を開いた。
しばらくして、おっさんが服と同じような灰紺色のかばんからコンビニの袋を出した。
おっさんは袋を探り、パンを引っ張り出してパリと袋を開けて黒コロネという菓子パンを食べはじめる。パンからチョコクリームがはみ出している。
色黒の男は横目でちらと見て読んでいた文庫本に視線を戻す。私も読んでいたリアルのゆくえに視線を戻す。
1歳半くらいの子供を抱いた母親とその母親がその車両に乗ってきた。
色黒の男はすぐさま席を立ち笑顔で親子に席を譲る。
良いですか、ありがとうございますと言って母親はドア際のその席に子供を膝に乗せて座る。
母親の母親は私の右側に立ち、私はおっさんの正面に立つ。
おっさんは一連のやりとりを横目で見つつ、自分のどうしようもなさを黒コロネと共に咀嚼し飲み込んでいるように、若干遠慮がちにはなっている。おっさんは菓子パンの詰まった胃袋とそんな自らを抱えてそこに座っていることが落ち着かないのか、開き直ったのか、堪え難い空腹だったのか、さらにマヨネーズパンを取出し袋を破る。
子供がそれに注目する。
コンビニの総菜パンを開けたとき特有のパン臭とマヨネーズのクリーミーな甘酸っぱさが湿気の中に漂う。
温和でごく常識的そうな母親と母親の母親は露骨に嫌な顔はせず世間話を続けているが、なんとなくおっさんの無遠慮さに距離をとりたい空気を共有している。
そんな中、子供がアーアーと言いながらおっさんのマヨネーズパンに手を伸ばした。
母親は恥ずかしそうにコラと子供の手を引き戻す。
子供はおっさんのマヨネーズパンがどうやらおいしそうに見えているらしい。
おっさんは子供が自分のマヨネーズパンを欲しがっていることに気付いているが視界には入れず、反応しない。
席を立ってすぐ横のドアの前に立っていた色黒の男の携帯が鳴る。
男は3コールで電話に出た。
子供が注目する。
電話は仕事関係のようだった。
子供は左手を耳に当て電話の真似をしている。
子供は自分が電話の真似していることを母親たちにアピールする。
母親達は子供に笑いかける。
おっさんはマヨネーズパンを食べ終えた。
色黒の男は電話を切った。
子供はぐずりはじめる。
子供は母親が持っているフェンディのバッグの持ち手を齧っている。
おっさんがかばん中からコンビニの袋に包まれた黄色い缶のジュースを取出して飲む。
南国のにおいが湿気た車内に一瞬漂った。 パイナップル。
乗換駅の大和西大寺は学校帰りの学生で混んでいる上に、今日は曇りで湿度が異様に高く、ホームに立っていると酸欠の心地で息苦しい。
京都行きの急行、やはり座れず。
私から見て右端のドア際の席には、ピンクのシャツに茶色いズボン、シルバーのメガネを掛けた色黒サラリーマン風男、その左隣にくたびれた服におろしたてのまっ白なナイキのスニーカー、CASIOの腕時計の日雇い労働者風おっさんが座っている前に立ち、左手で吊り革を掴み、読みかけの大塚英志氏と東浩紀氏の対談を開いた。
しばらくして、おっさんが服と同じような灰紺色のかばんからコンビニの袋を出した。
おっさんは袋を探り、パンを引っ張り出してパリと袋を開けて黒コロネという菓子パンを食べはじめる。パンからチョコクリームがはみ出している。
色黒の男は横目でちらと見て読んでいた文庫本に視線を戻す。私も読んでいたリアルのゆくえに視線を戻す。
1歳半くらいの子供を抱いた母親とその母親がその車両に乗ってきた。
色黒の男はすぐさま席を立ち笑顔で親子に席を譲る。
良いですか、ありがとうございますと言って母親はドア際のその席に子供を膝に乗せて座る。
母親の母親は私の右側に立ち、私はおっさんの正面に立つ。
おっさんは一連のやりとりを横目で見つつ、自分のどうしようもなさを黒コロネと共に咀嚼し飲み込んでいるように、若干遠慮がちにはなっている。おっさんは菓子パンの詰まった胃袋とそんな自らを抱えてそこに座っていることが落ち着かないのか、開き直ったのか、堪え難い空腹だったのか、さらにマヨネーズパンを取出し袋を破る。
子供がそれに注目する。
コンビニの総菜パンを開けたとき特有のパン臭とマヨネーズのクリーミーな甘酸っぱさが湿気の中に漂う。
温和でごく常識的そうな母親と母親の母親は露骨に嫌な顔はせず世間話を続けているが、なんとなくおっさんの無遠慮さに距離をとりたい空気を共有している。
そんな中、子供がアーアーと言いながらおっさんのマヨネーズパンに手を伸ばした。
母親は恥ずかしそうにコラと子供の手を引き戻す。
子供はおっさんのマヨネーズパンがどうやらおいしそうに見えているらしい。
おっさんは子供が自分のマヨネーズパンを欲しがっていることに気付いているが視界には入れず、反応しない。
席を立ってすぐ横のドアの前に立っていた色黒の男の携帯が鳴る。
男は3コールで電話に出た。
子供が注目する。
電話は仕事関係のようだった。
子供は左手を耳に当て電話の真似をしている。
子供は自分が電話の真似していることを母親たちにアピールする。
母親達は子供に笑いかける。
おっさんはマヨネーズパンを食べ終えた。
色黒の男は電話を切った。
子供はぐずりはじめる。
子供は母親が持っているフェンディのバッグの持ち手を齧っている。
おっさんがかばん中からコンビニの袋に包まれた黄色い缶のジュースを取出して飲む。
南国のにおいが湿気た車内に一瞬漂った。 パイナップル。