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流出雑記 

2010/5/10

2010年05月10日 | Weblog
冷蔵庫から出した卵は必ず常温にもどすこと。
鍋に卵が浸かるくらいの湯を沸かし、沸騰したら塩をひとつまみ入れる。
卵の殻のお尻を画鋲などで突いて穴をあけておく。
卵はM寸なら6分、L寸なら7分、夏場はそこからマイナス1分、時々鍋の中で転がしながら茹でる。
別の鍋に水500cc、醤油100cc(ヤマギク醤油推薦)、だしの素小さじ半、昆布5㎝角沸騰手前で火を止めて冷ましておく。
ボウルに冷水を用意し、茹でた卵を水につけて冷まし、水の中で剥く。
剥けた卵をタッパーに入れ出汁を注ぎ、冷蔵庫で2~3日味を染み込ませる。

半熟煮卵の作り方

その他に、和えても炒めてもおいしい中華ダレの作りかた、そのタレによく合うワンタンの作り方、これらは福井に住む叔父から教わったもの。父の弟にあたるひと。
叔父はおいしいものを人に薦めるのが好きで、今年の正月も挨拶に伺ったとき、自家製スモークチーズを振る舞ってくださり、それがおいしいので遠慮なくいただいていたらお土産に塊でふたつも持たせてくださった。このスモークチーズは正月の恒例だそうで、毎年楽しみにしている人が結構いるらしく、元日もなお台所には桜チップと薫製機が置かれ、チーズが燻されているところだった。
スモークチーズなんて言うと相当な凝り性の料理好きなのかと思うがそうではなく、テレビで見てふと気になったレシピをメモしておいて試しに作っておいしければまた作る、というような凝りすぎる嫌みのない料理好きである。
正月があけて数日後、叔父から醤油や蕎麦、鯖のへしこ、小鯛の笹漬け、五月ヶ瀬、水羊羹など福井のおいしいもの詰め合わせが届いた。それぞれの品物に直筆の付箋がついていて、おいしい食べ方などが解説されている。醤油は1ℓボトルが6本も入っていて驚いたが、私の実家への分もと書かれていた。

その叔父が先月ホスピスに入られたと聞いてから、ずっと気がかりだった。昨年11月の結婚式や正月の印象を思い返しても、その頃既に体の中ではガンがかなり進行していたとは思えず、叔父が付箋に書いてくれたレシピが我が家の台所に貼ってあるので、それが目に入る度に頭を過っていた。

ゴールデンウィークの前に煮卵を作った。
叔父からこの方法を教わるまでは、私の茹で卵は思ったより茹で過ぎでボコボコなのが常だった。なのでどうしても必要でなければ作らなかったが、ほとんどミス無く殻を剥けるようになってから茹で卵を作る作業が好きになった。

傷ひとつない完璧な煮卵を作って写真を撮り、それを手紙に添えて送ろうと考えた。
教わった手順で卵を4つ茹でる。きっちりタイマーで6分。水に浸けて粗熱が取れたら慎重に殻を剥く。ひとつめ。ふたつめ、みっつめ。最後のひとつは先の3つと比べると若干大きい卵だった。殻にヒビを入れた瞬間、感触が他よりかなりやわらかい。微妙な大きさや温度の違いで茹で上がりに結構差がでる。
3分の2まで剥けた、あとは帽子のように残っている卵の尖っている方の殻を剥がせばというところ、それをそのままつるんと剥がしたいと思って、薄皮と卵の間に爪を入れ、殻を浮かそうとした。殻を上に、卵を下に引っ張るようにして少し力をかけたときに、いちばん柔らかい真ん中の白身の部分がぱっくり口を開けた。中の黄色い半熟が見える。慌てて割れた部分を閉じた。
そのまま手で押さえていると割れているようには見えないが、手を離すとどうしても口が開く。
しばらく押さえたり離したりしながら、冷やしておいたら収縮して口が閉じることがあるかもと思うことにして急いで出汁につけ込み冷蔵庫のドアを閉める。
しかしどうも気持ちは沈む。卵の殻剥きが一種の祈りのようになってしまっていたので、失敗したことに妙な罪悪感があったのだ。
翌朝、冷蔵庫を覗いてみたが、卵は昨夜と変わらず口を開けたままだった。
その日の夕飯、中華風肉みそを作りごはんに乗せ、その上に煮卵を添えた。本当は2日くらい経った方がおいしいのだが、なんだかもうはやく食べてしまいたかった。
きれいに仕上がった煮卵は丸のまま出したくなるが、今回はひとつの失敗をなかったことにするため最初からふたつに切って出すことにする。口が開いている卵を割れ目に沿って切り私の器に盛る。
いただきますを言ってすぐ、子供がカレーを食べるときのように器の中で渾然一体にして卵の型をなくした。それを見て夫が何気なく、あーなるほど卵も全部混ぜて食べるんかと言ったのに、こうするとまろやかになるよと答えつつ水面化でぎくっとした。

結局煮卵を写真に撮ることも手紙を書くこともしないまま先週日曜の朝、叔父が亡くなったという知らせを聞く。
教わった料理を作っていますと伝えたかったのだ。卵が割れたことなんか関係なく、妙に思い込まずただ伝えればよかった。