『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その1』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その2』の続きです。
解説の木村八段が、塚田九段の指っぷりに「大盤ブルドーザー駒さらい」という大技(『巨人の星』の星一徹の「ちゃぶ台返し」に匹敵する技)を披露したのが上図。
そして、そこから9手進んだのが第9図。
第9図の2手前にプエラαは▲4四桂と銀取りに打ち、塚田九段はこれを放置して2五のと金で3六の歩を取った。▲3二桂成△同金と銀桂交換になっても、入玉将棋では銀も桂も同じ1点という判断であろう。
そこで、プエラαは▲5四角と更なる駒の確保を目指したのだ。次に▲3二桂成△同金▲同角成と進めば先手は金銀を得るのに対し、後手は桂しか得られず、通常では先手の大きな駒得で、入玉将棋でも2対1で1点の得となる。
実戦は、第9図より△2五桂▲3二桂成△2六玉▲4一成桂(第10図)と進んだ。
最初、この手順には非常に疑問を感じた。
△2五桂は桂を逃がす手で理解できるが、▲3二桂成に何故△同金とせず△2六玉としたのか?不可解に思えた。実際、▲4一成桂と金を取られ、塚田九段はみすみす1点を失ってしまった。
今、改めて考えると、、▲3二桂成△同金とすると▲同角成とされた時、2三の歩取りになっている。この歩取りが受けにくい。助けるには1三か3三に金を打つぐらいしかないが、後々打った金(2三の歩も)が負担になりそうだ。
それなら、まず入玉態勢を固めておこうというのだろう。ただ、あまりにもなりふり構わない後手玉の味方を置き去りにする遁走振りに、棋士のプライドも置き去りにしたように感じてしまう。
第9図(再掲載)では、△6二桂と打つ手はなかったか?
角を逃げる手に△7四金と打てば大駒を1枚、手に入れることができる。と言っても、金と桂を投資するのでプラス3点にしかならない。
先手の5九の飛車を取れるとしてもプラス4点(小駒1枚と飛車の交換)なので、自陣に残っている駒の6枚のうち5枚を逃がせたとして20点。さらに、先手陣の駒を4枚さらえることができれば、持将棋に持ち込める。まあ、これはすべてがうまくいけばと仮定しての話ではある。
120手目、塚田九段が飛車を召し捕った局面。この直前のプエラαの▲1四銀を木村八段は「駒を取りに来ている」と問題視していたが、着実に駒を確保しに来た手で、しかも、▲2三銀成と歩を取った手も2四の銀取りになっており、可能性は低いが後手玉に迫る手にもなっており、当然の一手のように思える。
さて、「飛車を召し捕った」と言うと聞こえは良いが、後手としては他に有効な手がないので、飛車を取りに行ったという感がある。
この飛車を取っても後手の駒数は15点で持将棋に持ち込むには9点足りない。後から入玉するほうが難しく、3、4枚駒を取られるとしても、先手の駒数は安全圏。また、先手の入玉を阻む足がかりとなる駒も皆無なので、先手玉の入玉もほぼ間違いない。ひたすら入玉を目指した塚田九段だが、その犠牲が大き過ぎた。
しかし、塚田九段とてただ玉を詰められるのが嫌で、入玉を狙ったわけではない。一般にコンピュータ将棋は入玉将棋が苦手だと言われており、塚田九段も事前に提供されていたソフトとの対局経験でそれを実感していた。
「こちらから先手玉を追わなければ、自ら上部脱出することはない」と踏んでいた。だから、なるべく遠巻きに後手の勢力を増していき、ゆっくり先手玉の右側から押していけば先手玉を捉えられるかもしれないと考えていた。先手の飛車を取りに行くのを急がなかったのも、こういう戦略だったのだろう。
ところが、
▲7七玉!
直接先手玉に迫られていないのにもかかわらず、自発的に上部を目指したのである。この手を見た塚田九段は絶望という深淵に沈んでいったのだろう。
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その2』の続きです。
解説の木村八段が、塚田九段の指っぷりに「大盤ブルドーザー駒さらい」という大技(『巨人の星』の星一徹の「ちゃぶ台返し」に匹敵する技)を披露したのが上図。
そして、そこから9手進んだのが第9図。
第9図の2手前にプエラαは▲4四桂と銀取りに打ち、塚田九段はこれを放置して2五のと金で3六の歩を取った。▲3二桂成△同金と銀桂交換になっても、入玉将棋では銀も桂も同じ1点という判断であろう。
そこで、プエラαは▲5四角と更なる駒の確保を目指したのだ。次に▲3二桂成△同金▲同角成と進めば先手は金銀を得るのに対し、後手は桂しか得られず、通常では先手の大きな駒得で、入玉将棋でも2対1で1点の得となる。
実戦は、第9図より△2五桂▲3二桂成△2六玉▲4一成桂(第10図)と進んだ。
最初、この手順には非常に疑問を感じた。
△2五桂は桂を逃がす手で理解できるが、▲3二桂成に何故△同金とせず△2六玉としたのか?不可解に思えた。実際、▲4一成桂と金を取られ、塚田九段はみすみす1点を失ってしまった。
今、改めて考えると、、▲3二桂成△同金とすると▲同角成とされた時、2三の歩取りになっている。この歩取りが受けにくい。助けるには1三か3三に金を打つぐらいしかないが、後々打った金(2三の歩も)が負担になりそうだ。
それなら、まず入玉態勢を固めておこうというのだろう。ただ、あまりにもなりふり構わない後手玉の味方を置き去りにする遁走振りに、棋士のプライドも置き去りにしたように感じてしまう。
第9図(再掲載)では、△6二桂と打つ手はなかったか?
角を逃げる手に△7四金と打てば大駒を1枚、手に入れることができる。と言っても、金と桂を投資するのでプラス3点にしかならない。
先手の5九の飛車を取れるとしてもプラス4点(小駒1枚と飛車の交換)なので、自陣に残っている駒の6枚のうち5枚を逃がせたとして20点。さらに、先手陣の駒を4枚さらえることができれば、持将棋に持ち込める。まあ、これはすべてがうまくいけばと仮定しての話ではある。
120手目、塚田九段が飛車を召し捕った局面。この直前のプエラαの▲1四銀を木村八段は「駒を取りに来ている」と問題視していたが、着実に駒を確保しに来た手で、しかも、▲2三銀成と歩を取った手も2四の銀取りになっており、可能性は低いが後手玉に迫る手にもなっており、当然の一手のように思える。
さて、「飛車を召し捕った」と言うと聞こえは良いが、後手としては他に有効な手がないので、飛車を取りに行ったという感がある。
この飛車を取っても後手の駒数は15点で持将棋に持ち込むには9点足りない。後から入玉するほうが難しく、3、4枚駒を取られるとしても、先手の駒数は安全圏。また、先手の入玉を阻む足がかりとなる駒も皆無なので、先手玉の入玉もほぼ間違いない。ひたすら入玉を目指した塚田九段だが、その犠牲が大き過ぎた。
しかし、塚田九段とてただ玉を詰められるのが嫌で、入玉を狙ったわけではない。一般にコンピュータ将棋は入玉将棋が苦手だと言われており、塚田九段も事前に提供されていたソフトとの対局経験でそれを実感していた。
「こちらから先手玉を追わなければ、自ら上部脱出することはない」と踏んでいた。だから、なるべく遠巻きに後手の勢力を増していき、ゆっくり先手玉の右側から押していけば先手玉を捉えられるかもしれないと考えていた。先手の飛車を取りに行くのを急がなかったのも、こういう戦略だったのだろう。
ところが、
▲7七玉!
直接先手玉に迫られていないのにもかかわらず、自発的に上部を目指したのである。この手を見た塚田九段は絶望という深淵に沈んでいったのだろう。