風のたよりのブログ

日々にスポットを当て綴ります

茨木のり子  【汲む】

2011年10月03日 | Weblog
すっかり深まる秋の気分を満喫です。



秋と言えば一番に食欲の秋ですが、食欲は一年中衰えることなく旺盛ですが、こんな秋の一日そろそろ本を出して読み返しましょう。



敬愛する現代詩人の 茨城 のり子 の好きな詩の一つ【汲む】ですが繰り返し読んでも新しい感動が生れます。



>1950年(24歳)に結婚。この頃から詩も書き始め、1953年(27歳)に詩人仲間と同人誌『櫂』(かい)を創刊。同誌は谷川俊太郎、大岡信など多くの新鋭詩人を輩出していく。<




汲む  Y・Yに  茨木のり子


  大人になるというのは
  すれっからしになることだと
  思い込んでた少女の頃


  立居振舞の美しい
  発音の正確な
  素敵な女のひとと会いました

  そのひとは私の背のびを見すかしたように
  なにげない話に言いました


  初々しさが大切なの
  人に対しても世の中に対しても


  人を人とも思わなくなったとき
  堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
  隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

  私はどきんとし
  そして深く悟りました


  大人になってもどぎまぎしたっていいんだな

  ぎごちない挨拶 醜く赤くなる
  失語症 なめらかでないしぐさ
  子供の悪態についてさえ傷ついてしまう
  頼りない生牡蠣(なまがき)のような感受性


  それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
  年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
  外にむかってひらかれるのこそ難しいあらゆる仕事
  すべてのいい仕事の核には
  震える弱いアンテナが隠されている きっと・・・

  わたしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
  たちかえり
  今もときどきその意味を
  ひっそり汲むことがあるのです






こんな茨木のり子さんの詩は「この荒廃した時代の流れの中で、それと向き合い、流されることを自分にも許さなかった、毅然とした姿勢にある」と評されます。



2006年、79歳で亡くなった茨木のり子さんの自宅から、40編の遺稿が見つかりました。

「歳月」と題した詩集にまとめられ、翌年2月の命日に出版される。
「倚(よ)りかからず」などで見せた気骨ある詩人の姿からはうかがい知れない、夫と二人だけの世界。周囲には「死んだ後に出したいものがある」とだけ話し、原稿は書斎にひっそりと置かれていたそうです。





         「新婚の夜のけだるさのなか

          わたしは思わず呟(つぶや)いた

          どちらが先に逝くのかしら

          わたしとあなたと」(「その時」より)









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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
結婚の時 (そよ風君)
2011-10-03 16:08:37
いずれの結婚式でも、永久の愛を誓い合いますが、考えてみれば空々しいこと、この上もありません。そういう気持ちが3年も続くことは、現実問題として難しいからです。本当の愛情はそれらを乗り越えていく中から産まれてくるように思います。
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Unknown (tourien)
2011-10-03 23:49:06
こんばんは!

この前の土曜日、「 神様の女房」と言うドラマが、ありました。
“経営の神様”と呼ばれた経営者、松下幸之助さんと、その妻、むめのさんのお話ですが、
今日のブログを読んで、フト思い出しました。
↑の詩と通じるところがあると思いました。

boumamaさんは、読書の秋ですね?


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お返事 (boumama)
2011-10-04 12:59:28
そよ風君コメントありがとうございます。

>いずれの結婚式でも、永久の愛を誓い合いますが、考えてみれば空々しいこと、この上もありません<と、全く同感なのですが、こういった結婚式に出るのも苦手なの プッ^m^

浮いた自分がいるのに気が付くと照れてしまいます。

茨城 のり子さんの詩は鋭くて胸の奥に突き刺さります。
秀才でこの写真でもわかるようにとても美しい女性で医師の父をもち結婚された相手も医師でした。


tourienさんコメントありがとうございます。

この【汲む】の詩は何歳になっても繰り返し読みたいし、一行一句忘れたくない詩でもあります。

>大人になってもどぎまぎしたっていいんだな< 

失語症 ・赤面症・ なめらかでないしぐさ
これらは私のことなんだなと思えるの。

最後の詩はご本人が生きてる間だと恥ずかしいから死んだあとに出してほしい!と親戚の人に託していたそうです。
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きりっとした人 (小紋)
2011-10-05 19:33:04
 そんな印象を写真から受けます。
 雑誌の特集で 少し前に読みました。
 きりっとして はにかみがあって
 なんども読み返します。
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Unknown (ひげ)
2011-10-05 19:52:47
恥ずかしさの欠片も無くなった・・・。

客商売・・・難しい・・・。笑)

だめだ・・・こりゃ・・・・。
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お返事 (boumama)
2011-10-06 10:43:36
小紋さんコメントありがとうございます。

今日からやっと秋らしい好天が続きそうですね。
昔の手持ちの本を滅多に読み返さないのですが、時には読み返してみたくなる茨城 のり子の詩です。

何年か前、教科書にも掲載されたようで一気に認知度が高まったようです。


ひげさんコメントありがとうございます。

ご本人は秀才でしたが詩の中にもドキッとする言葉に驚いたり・・・。

某有名新聞の天声人語でも掲載されたようです。
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