固体量子磁力計 ― 量子の世界から水の世界を探る
水を追え! --- 太陽系には、太陽の水蒸気から冥王星の氷まで、さまざまな状態の水があふれている。水は生命を維持する可能性と関連しているばかりでなく、それ自体の地質学的特性と潜在的な用途でも興味深いものがある。例えば、月や火星の氷は人類の宇宙探査を後押しするかもしれないし、地球に衝突した彗星が地球に水を堆積させたのかもしれない。また、氷の彗星と土星のリングは、太陽系が時間とともにどのように変化するかを明らかにしている。
一方、液体の水は生命を可能にする上で特別な役割を担っている。科学者達は、太陽系の巨大なガス惑星や氷の惑星の周りを回る多くの衛星に液体の水が存在する可能性があるという兆候を発見した。宇宙生命科学コミュニティのモットーは、生命を見つけるために「水をたどる」ことであり、木星のエウロパ、土星のエンケラドゥス、その他の衛星の地下の海は、将来のミッションの有力なターゲットである。
しかし、これらの惑星の厚さ何キロメートルにも及ぶ氷の地殻の下を、カメラやレーダーなどの従来のリモートセンシング機器で調べることは困難である。氷を掘削したり溶かしたりする着陸船やローバーを送り込むまでは、他の技術を使って、これらの巨大だがとらえどころのない水域を追跡するしかない。磁力測定法は、磁場が固体物質を貫通するために、惑星サイズの天体の内部に関する情報を提供するには際立っている。
塩水は電気を通す。したがって、塩水の海は惑星サイズの電気回路として機能することができる。海洋の世界の母惑星の強い回転する磁場は、この「回路」に電流を誘導し、それが調査する中で海洋の世界の近くの磁場を乱し、変化させる可能性がある。これらの磁場の乱れは、探査機から観測することができ、液体の水の存在を示す可能性がある。例えば、エウロパ付近の木星の磁場の歪みは、NASAのガリレオ計画の磁力計によって測定され、その月の氷の地殻の下に水の海があるという当初の疑惑のさらなる証拠となった。
固体量子磁力計は、サイズ、重量、消費電力を抑えながら、競争力のある感度で磁場を測定することが期待される。さらに、これらの機器は、スピンと核の量子の相互作用の自己較正などの量子上の利点を提供し、磁力計が時間の経過に伴うドリフトを補正できることを意味している。この能力は、外側の巨大な氷の惑星への数十年にわたるミッションにとって特に重要である。固体量子のその他の利点には、放射線耐性と、非常に高温/低温に耐える固有の能力が含まれる。
固体量子磁力計は、ダイヤモンドや炭化ケイ素などの半導体にある量子カラーセンター(quantum color centers)を利用する。カラーセンターは、結晶格子の欠陥であり、たとえば、原子が欠落していたり、別の原子が結晶原子に置き換わったりする。日常生活では、カラーセンターが結晶に色を与えるが、変調光を使用して量子レベルで調べることもできる。これらのカラーセンターは、その量子スピン特性により、環境磁場に敏感である。これらのカラーセンターは様々な磁場にさらされるため、変化する量子スピンの性質を電気的および/または光学的に読み取ることができ、磁場の特性に関する洞察が得られ、水の存在を検出することができる。
NASAのジェット推進研究所の研究チームは、宇宙からのスピン特性を測定するための二つの磁力計を開発している。信じられないほどシンプルでありながらエレガントな SiCMAG (炭化ケイ素磁力計)はスピン特性を電気的に読み取り、 OPuS-MAGNM (光学的に励起された固体量子磁力計)は光学系を追加することでより高い感度へのアクセスを約束する。ここでの光学的励起は、量子系に緑色(ダイヤモンド)または深赤色(炭化ケイ素)のレーザー光を励起し、系の応答を光検出器で読み取ることを意味している。
研究者によれば、「新しい量子センサーは、新しい科学を可能にするだけでなく、キューブサットクラスのプラットフォーム上でフラッグシップクラスの科学を可能にするサイズとコストに、計測器を縮小する機会をも提供する。
<注>--- 斜体文字の部分の記述は訳者の知識を超えていますので、訳文には誤りがあるかも知れません。なお、カラーセンターは こちら を参照してみてください。
NASAは、2016年から PICASSO (Planetary Instrument Concepts for the Advancement of Solar System Observations)プログラムを通じて、固体量子磁力計センサーの研究に資金を提供している。この研究には、NASAのグレン研究センター、アイオワ大学などの、国内外のさまざまなパートナーや、日本の量子科学技術研究開発機構(QST Japan)、スイス公立の研究大学である ETH チューリッヒなどの国際的なパートナーが協力している。
<ひとこと>: 大判はイメージのリンクから。
<出典>: NASA Science Editorial Team
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