Scarving 1979 : Always Look on the Bright Side of Life

1979年生な視点でちょっと明るく世の中を見てみようかと思います。

「犬(dog)」第16回

2004年07月26日 21時30分00秒 | 物語
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 中谷のチョークが8の上で止まり、大きく○を書いた。

「はっちばんで~す」

「8番ってことは」

「おっ、染田じゃん」

「染田涼子嬢に決定です」

「決定って」

〈なんだ、この気持ち。すごく、いやだ。悔しい〉



 隣の教室

「うぅっ」

(こんなの…)

胸のリボンをギュッと掴み、苦しむかおりん。

 元の教室

「あ~、染田か~。俺も、一時期気になってたからな」

「今日から、染田のこと好きになれよ」

「んでだよ」

「いいから、そうしとけ」

「やだよ」

〈俺、吉川さんのこと、好きなのか〉



 隣の教室

「う、う」

(もう、ダメなのか)

 かおりんが胸を押さえたまま、動かない。

「ねえ、保健室行った方がいいんじゃない?」

 山元が心配顔で覗き込む。

「たぶん、すぐ、大丈夫だから」

(なんか、どっか、浮いてきそう)



 元の教室

「もう、決まったことなんだから」

「勝手に決めたことだろ」

「いや、意外と運命ってやつかもよ」

「運命なんて、あるわけねえよ」

「いや、あるんだって」

「そうそう、あるある」

「んなん、お前らにだけだって。俺にはないもん」

「ま~た~、照れんなよ」

「別っ、照れてねえって」

「もう好きになっちゃったか、染田のこと」

「んなわけねえだろ」

「もう、この、お似合いさん」

「勝手に決め付けんなよ」

 キィンコォンカァンコォン、キィンコォンカァンコォン

「お、やば、授業始まるじゃん」

「あ、次、実験じゃん」

 中谷と守田が、各々の席の元へと、小走り、散らばっていった。

「おい、待っ、消してけよ」

 男が、銀色の隅にあった黒板消しを持ちながら、そう言った。

「自分のことだろ」

「そうそう」

「んだよ」

 男は、右手に持った黒板消しで、黒い制服の袖に降りしきるチョークの粉を気にしながら、アミダを消し続けた。

 そして、9を消そうとしたとき、カミキリムシのため息声で呟いた。

「吉川さん、」

〈でも、工藤さん。より、好き…、好きだ〉



 隣の教室

「くぁ」

 僕は見た

 夢を見た

 浮いていた

 タータンチェックのパジャマを着て浮いていた

 一瞬間、かおりんが青白く輝いた。

「かおりん」

 山元が、かおりんの体を揺さ振った。

「あ、山元、どうしたの」

 顔を上げたかおりんは、『かおりん』のままであった。

「え、どうしたって、体、大丈夫なの?」

 山元が、かおりんの左肩に右手を軽く置き、そう言った。

「全然、なんともないけど」

 かおりんは少し口を尖らせ、不思議の瞳で山元を見つめた。

「ならいいんだけど…、ほんと、大丈夫?」

 山元は少し左に頭を傾け、見開きの瞳でかおりんを見つめた。

「うん」

 かおりんは、口元の笑みを浮かべた。



 もう、一人。

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「神(god)」

全てを創れる力が欲しい
全てを壊せる力が欲しい

そのふたつを持ってる奴がいるらしい
“神”って呼ばれてる奴なんだ

俺達も奴に創られたんだって
俺達も奴に壊されるんだって

ふざけるんじゃねえつ~の

俺達が奴を創ったんだ
俺達が奴を壊せるんだ

ってことは

俺達は全てを創れる奴を創ったんだぜ
俺達は全てを壊せる奴を壊せるんだぜ

だからさ

全てを創れなくても
全てを壊せなくても

それで十分じゃん

な、そうだろ

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第16回あとがき

[当時]
今回は、ようやく“かおりん”編が、
途中、ノリで付け足された部分もありましたけど、
ほぼ当初の予定通りの展開で終わり、
少しホッとした回でもあります。
あまりに最後があっけな過ぎると思う方が多いと思いますが、
本当の、中学生の恋愛事なんて、あんなものです。
これから読む方が減るとは思いますが、
もうしばらく、お付き合いください。
きっと、もっと読みたくなくなると思います。

[現在]
当時のあとがき通り、今回で第1部完という感じです。
よくこれで終わりにしましたね、この人は。
では、第2部はどうなるのか、
と次回を期待する方もいるかもしれませんが、
実は、この回までしか書いていません。
正しくは第17回は書いたんですけど、
方向性が定まらず、2つの話が出来てしまったんです。
で、そのままお蔵入り、と。
この先は8年経った私が受け継いで書かなくてはいけません。
いつになるのかわかりませんが、
ご希望があれば早まるかもしれません。
とりあえず今は、どうぞおやすみなさい。

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