Scarving 1979 : Always Look on the Bright Side of Life

1979年生な視点でちょっと明るく世の中を見てみようかと思います。

「犬(dog)」第13回

2004年07月01日 20時00分00秒 | 物語
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 二ヶ月後

「虹のような優しさで、君を包んでいたい」

 廊下側から三列目、前から三番目の席の男が、隣の席の由佳里の方に体を向け、瞳を向け、映画スターのような表情で、そう呟いた。

「わけわかんないよ~」

 由佳里は、ホンのチョットだけ口を尖らせた笑顔で、男の瞳を見つめた。

「え~、これ、かなりいけてると思うんだけどな~」

 男は、自分の机上に置かれた藁半紙に瞳を向けた。

「全然似合ってないし」

「んなことねえだろ~よ、もうね、世界中の女の子が駆け寄ってくるよ」

「そんなのあるわけないじゃん」

「じゃ、自分の言ってみろよ」

「言わない」

「なんでだよ、俺、言ったじゃん」

「勝手に言ってきただけでしょ」

「でも、聞いたんだから、言わなきゃ駄目だろ」

「関係ないもん」

「ほんとな~。・・・あ、窓の外、コンドルが飛んで行く」

 男は、右手で自分の瞳の先の空を指差し、左手で由佳里の机上に置かれた藁半紙を掴もうとした。

「そんな古い手に、ひっかかんないよ~だ」

 由佳里は、男の左手が藁半紙に着地する前に、笑顔と右手でそれを持ち上げた。

「っきしょ~、絶対引っかかると思ったんだけどな~」

「甘い、甘い」

「おい、ハンナマ。おまえ、どんなの書いた?」

 そう言いながら男は、右手でハンナマの左肩を軽く叩いた。

「え、まだ書いてねえよ」

 ハンナマは、男の方へと振り向きながら答えた。

「早く書かねえと、時間なくなんぞ」

「いいよ、そんでも別に」

「よかないだろ、一応、課題だぜ、これ」

「課題っつってもな~」

「なんか、適当に書いときゃいいじゃん。どっかの歌詞のフレーズ、パクるとかして」

「あ~、それいいかもな」

「でも、やんならマイナーな曲の方がいいんじゃねえか。メジャーなのだとすぐバレっから」

「おお、そうするわ」

 ハンナマは、体を机に向かい直した。

「ねえ、半川君のどんなだった?」

 由佳里は、少し開き気味の瞳で男を見つめた。

「まだ書いてないって」

「なんだ~」

「それより、早く見せてよ」

「なにを?」

「自分の書いたやつ」

「だから、嫌だって」

「いいから、いいから、ホンのチョットだけ、ね」

「い~や」

 由佳里は、全ての男がとろけてしまいそうな、はっきりとした口元と、純粋な瞳で、藁半紙を覆い隠した。

「そう言わないでさ~」

 男は、由佳里の右の二の腕を両手で軽くつかみ、前後に揺らした。

 二人は、朱色の振り子のように揺れている。

「おい、できたぞ」

 ハンナマが、右手に藁半紙を持ち、左回りに振り向き、男の右肩を小突いた。

「お、もうか」

 男は両手を離し、ハンナマから藁半紙を受け取ると、由佳里には見えないように、体を斜め右にくねらせ、そこに書かれていた一行文を読んだ。

【愛してる とても遠くまで】

「こんなんでいいだろ」

「うん、なかなかいいじゃん」

「あ、見して見して」

 由佳里が藁半紙に向かい、細白い右手を伸ばした。

「だめ~」

 男は、由佳里の手が届かないくらい高く、藁半紙を宙に上げた。

「いいよね?半川君」

「え?、ん~」

「駄目でしょ」

「うん、駄目だな」

「え~、別に、減るもんじゃないんだからさ~、ね」

「いや、減る減る」

「ヘルクラッシャー?」

 ハンナマは両腕をそろえ、それを前に突き出しながら、そう呟いた。

「そう、ヘル、クラッシャー」

 男はその声と共に、ハンナマと同じように両腕を突き出し、由佳里の右の二の腕に軽く当てた。

「も~」

 由佳里は、左手で右の二の腕をさすりながら、男を見つめた。

「じゃ、わかった。そっちの見したら、こっちのも見してやるよ」

「ならいい、見せない」

「なんで、そんなに見せたがらないかな~?」

「なんで、そんなに見たがるのかな~?」

「ふふっ、そうきましたか」

「はい、そうきました」

「由佳里、ちょっと見せてね」

 突然振り向いた舞子が、由佳里の藁半紙を、右手で軽く取り上げた。

「あ」

【いつもはお笑いな貴方、真剣に授業を受ける横顔が素敵】

「ふ~ん、やっぱり~」

「なにが~?」

「ん、別に~」

「も、舞子のも見せてよ」

「や~だ~」

 舞子の机上にあった藁半紙を取ろうと、絡み、縺れ合う二人。

「また、イチャついてるよ」

 男は二人を指差して、そう言った。

「ほんと、仲いいよな」

「俺達も見習って、やってみるか」

「バ~カ」



 放課後

 かおりんと裕子は、絵葉書のように、音楽室の隅でお喋りをしていた。

「あ、ねえ、私って、普通じゃないのかな?」

「なにが?」

(氷オニの話、もう終わり?)

「・・・ううん、別に。忘れて」

「え~、でも、そう言われたら、余計気になるよ~」

(ま、ほんとは、あんまり気になってないんだけどね)

「気にしないで、ほんとに、ね」

「だって、外見は問題ないっていうか、普通の人より全然かわいいし」

(いまだに見とれちゃう時あるもん)

「そんなことないよ、普通だよ~」

「じゃ、内面のこと?」

(こう、心から謙遜しちゃうとこが、またかわいいんだよね)

「・・・実はね、」

「ん?」

(ほんとに、なにかある、はずないと思うけど)

「それより、ねえ、あの、今度の日曜日、2人で遊びにいかない?」

「え。・・・あ、そうか、今度の日曜、部活休みだったんだっけ」

(あ~、なんか、久しぶりの休みだな~)

「そう、だからね」

「うん、いいよ、別に」

(すっごく楽しそうだし)

「よかった。じゃ、どこ行く?」

「別に、どこでもいいよ」

(あ、でも、映画とかがいいかな)

「どこでもいいじゃ、困る」

「じゃ、裕子はどっか行きたいとこないの?」

(そんな、僕じゃ決められないよ)

「かおりんと一緒なら何処でもいいよ」

「え?」

(それって・・・)

「だから、かおりんが決めていいってば」

「決めてって言われても」

(あ~、なんか、すごいドキドキしちゃってるよ)

「ねえ、ほんと、何処でもいいから」

 金糸埃が、キラヒラと日に焼けたオルガンの上に舞い下りた。

「・・・あ、じゃあ、ディズニーランドってとこにでも行く?」

(かおりんが前に天川と行ったことあるみたいだし)

「うん、それいい」

「でも、お金とか大丈夫かな?」

(なんか、名前からして高そうだもんな~)

「大丈夫だよ、いざとなったら私がおごってあげるから」

「それはいいよ。たぶん、なんとかなるから」

(女の子におごってもらうってのも、嫌だからね)

「じゃ、何時ごろ出発する?」

「早目の方がいいんじゃない?」

(どのくらいかかるのか、全然わからないけど)

「そうだね、そうしよ。向こうで長く遊べるだろうし」

「行くからには、長く遊びたいもんね」

(電車代も、チケット代ももったいないし)

「7時くらいの電車がいいかな?」

「うん、そのくらいでいいんじゃない。起きるのチョット辛そうだけど」

(休みの日まで、早起きか)

「絶対、寝坊とかしないでよ~」

「その辺は、大丈夫」

(決められた時間はキッチリ守るからね)

「そうだ。洋服とかって、なに着てく?」

「う~ん、天候にもよるけど、基本的にはボーイッシュな感じかな」

(スカートって、いまだに苦手だし)

「ふ~ん。・・・じゃ、私は、思いきって、お姫様スタイルにしちゃおっかな」

「あ、すごい似合うと思うよ」

(っていうか、なに着てもかわいいからな)

「ほんとに?」

「うん、ほんとほんと」

(もっと、自信持ってもいいのに)

「かおりんがそう言うなら、着てっちゃおっかな」

「じゃ、私、王子様の格好しようか?演劇部に衣装借りて」

(あの、宝塚ってやつみたいに)

「ははっ。それいいかも」

「今度、恵子に頼んでみよっかな」

(借りられないだろうけど)

「うん、そうしなよ」

「冗談だって、冗談」

(そんな格好、絶対やだしね)

「・・・楽しみだね」

「うん」

(どうなるんだろう。でも、ほんと、楽しそう)

「2人っきり、だもんね」

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『約束』

も う 一 度

や り 直 す

 

そ ん な こ と

 

二 度 と

で き ま せ ん

 

も ち ろ ん

 

一 度 と も で す

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第14回

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第13回あとがき

[当時]
普段ならば、基本的に上から下へと順に書いていくんですけど、
今回は、上へ下への大騒ぎって感じで書いてみました。
ちょっと繋がりがおかしいかもしれませんけど、
本来、これがこの作品の特徴の1つでもあるんです。

[現在]
やっぱりお話が飛び過ぎな気がします。
繋がりつつも1回1回が独立した連載用の作品になってます。
それもそのはず、書き方が変わってたんですね。
前はwordさんでダーッと書いてたのが、
途中からHTMLさんでチョコッと書いて、
それをwordさんに加えてる方式に変わりました。懐かしい。

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