第1回 / 第2回 / 第3回 / 第4回 / 第5回 / 第6回 / 第7回 / 第8回
第9回 / 第10回 / 第11回 / 第12回 / 第13回 / 第14回
---
隣の教室
「ふぅぁ、ふぅぁ」
(なんだ、すごい気持ち悪い)
かおりんは、右手で胸の臙脂リボンを掴み、大口で息を吸い込みながら、うつむいた。
「ねえ、かおりん、大丈夫」
山元が左手でかおりんの頭を撫で、右手でかおりんの背中をさすった。
「え、うん、たぶん、すぐ治ると思う」
(心臓がどうかしたのか)
元の教室
「よし、っと。まだか、守田」
中谷は銀色の上に白チョークを置き、両袖のチョーク粉を掃いながら、そう言った。
「ちっと待って、もうすぐ終わるから」
守田はアミダの線を、細かく、大まかに、引いていた。
「いや、終わんなくていいって。昼休み終わるまで、ずっと」
男は守田の方を向き、両手を使って意味のわからないジェスチャーをした。
「お、わかった。じゃ、もっと速く書こっ」
「おまっ、違げえだろ」
「よし、いいぞ、速くしろな」
「は~い~」
「おい、それ、俺のイクラちゃんだろ」
「ば~ぶ~」
「ほんと、ずりぃよ」
「いいじゃねえかよ、ギャグのひとつぐらい」
「だめだよ、俺のだもん、それ」
「ほんと、セコイって言うか、わけわかんねえとこ、細かいな」
「だっ、それ、俺のだもん」
「おまえ、そんなんだから、返事もこねえで、ふられんだよ」
「おい、守田、そこまで言ってやんなよ」
「ほんと。結構、痛いとこきたぜ、今の」
「わりぃわりぃ、悪気があったんだよ」
「やっぱ、あったのか」
「あったじゃねえだろ」
「おしっ、こんなもんでいいだろ」
守田が黒板から目線とチョークを外し、振り返った。
「お、いい、いい」
「いや、まだ、線が全然足りねえよ」
男が、守田のアミダを指差しながら、そう言った。
「これっ、じゅうぶんじゃねえかよ」
「いやぁ、ダメだな」
「守田、相手にしなくていいよ。どうせ、時間稼ぎなんだから」
「あ、そっか」
「時間稼ぎって、別に、そんな戦場じゃねえんだからよ」
「いや、絶対、時間稼ぎだ」
「まあいいじゃん、早く始めちゃおうぜ」
守田は黄チョークを銀色の上に置くと、短めのピンクチョークを持って、そう言った。
「おっ、そうだな」
中谷も、銀色の端にあった短めのピンクチョークを持った。
「お前ら、本気でやんのか」
「当たり前だろ」
「そのために、これ書いたんじゃん」
守田が、左手に持ったピンクチョークで、書き終えたアミダを指しながら、そう言った。
「ちっと、今日はやめとかない?」
「んでだよ」
「やっぱ、アミダはおかしいって」
「おかしかねえよ」
「じゃ、守田、これで決められっか?」
「俺は、別に関係ねえだろ」
「そうだよ、こいつは安部一本なんだから」
「まあ、そりゃそうだけどさ」
「おまえら、それのがもっと関係ねえだろ」
「いや、大アリだろ」
「守田、そんなん気にしないで、早いとこやっちまおうぜ」
「おう。で、どうやってやんの?」
「なあ、この4つの線の中で、どれがいい?」
中谷は1、2、3、4の番号が書かれたアミダを、右手に持ったピンクチョークで指しながら、男にそう尋ねた。
「え、俺?」
男は瞳を大きめに見開き、右手の人差し指で自身の顔を指しながら、半上がりの声でそう答えた。
「当たり前だろ、おまえの好きな奴決めんだから」
「ほんとにか」
「ま、とりあえずさ、どれにする?」
中谷は1、2、3、4の番号が書かれたアミダを、右手に持ったピンクチョークで指しながら、男にそう尋ねた。
「ああ。じゃ、一番右でいいや」
「一番右っと」
中谷はアミダの一番右の線上に、×を書いた。
「じゃ、次は?」
5、6、7、8アミダを指す。
「一番左」
「一番左ね」
アミダの一番左の線上に、×を書いた。
「で、次」
9、10、11、12アミダ。
「左から二番目」
「二番目さんサン」
アミダの左から二番目の線上に、×を書いた。
「お、じゃ、今度、俺んとこか。どれにする?」
守田は、中谷と同じように、13、14、15、16の番号が書かれたアミダを、右手に持ったピンクチョークで指しながら、男にそう尋ねた。
「え、右から二番目」
「おしっと」
守田はアミダの右から二番目の線上に、×を書いた。
「じゃ、最後は?」
17、18、19、20アミダを指す。
「真ん中」
「どっちの」
「真ん中は真ん中だろ」
「おまっ、これ、4人ずつなんだから、あるわけねえだろ」
「じゃ、左のでいいよ」
「左の方っと」
アミダの左から二番目の線上に、×を書いた。
「おし、これで後は、アミダるだけだな」
「もう、アミダっていいのか」
「おう、アミダれ」
中谷と守田が、×印から、アミダの流れに沿って、線を下に引く。
「えっと、まず、4番の加藤由貴里嬢」
「こっちは、14番高原」
隣に移り、線を下に引く。
「今度は、8番の染田涼子姫」
「えっと、18番は、あ、斎木」
中谷だけが、更に隣に移り、線を下に引く。
「で、最後は、9番吉川由佳里君」
「おっ」
〈残ったじゃん〉
隣の教室
「ふぅ」
(寝不足過ぎたかな)
元の教室
「どうですか、お気に入りはいましたか」
「知らねえよ」
「あ、その顔はいたな」
「いいじゃねえか、どうだって」
「あ、ヤベ、時間ねえから、早く決勝戦行くぞ」
「おいっす」
「決勝って、別に試合じゃねえんだから」
〈なんで俺、こんなにドキドキしてんだ。単なる遊びだろ、こんなの〉
隣の教室
「あっ」
(アツイ)
右手で瞳を押さえる、かおりん。
元の教室
「これ再利用でいいっしょ」
中谷が9、10、11、12アミダをチョークで指した。
「おお、そんで十分」
「ダメだよ~、ちゃんと書いてくれなきゃ~」
「また、時間稼ぎ作戦だよ」
「もぅ、相手にすんな」
中谷は、アミダ下の数字を消し、線を一本縦に引き、横に複数引いた。
「ほんっとにやる気か」
「もう、後には引けねえだろ」
「全然引けるって」
「いいから早く、どこにする?」
中谷が左から順に4、8、9、14、18と線下に番号を書きながら、男にそう尋ねた。
「あぁ、じゃ、今度こそ真ん中」
「真ん真ん中っすね」
中谷は、右手に持ったピンクチョークでアミダの真ん中に×印をつけた。
「よし、いこぞ」
「いこぞって」
「イ・ク・ゾ」
中谷がアミダの流れに沿って、線を下に引く。
「さあ、どうなるんでしょうか」
守田が簡単な実況を始める。
「別に、どうでもいいって」
〈いや、でも〉
---
『鼓動』
気 付 く に は
少 し 遅 す ぎ た と
嘆 く 前 に
自 分 の 鼓 動 を
感 じ 取 れ れ ば
そ れ が い い
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第16回
---
第15回あとがき
[当時]
今回は、おふざけが過ぎたかなって感じです。
あまりに、くだらない会話が多すぎて、
その割には、核となる台詞が少なくて、
正直、なにがなんだかわからなかったと思います。
だけど、わかりあった男同士の会話っていうのは、
本来こういうものだと思い込んでいるんで、
その辺は、勘弁していただきたいです。
[現在]
頭で思い浮かんだ映像を文章化するのが、
いつまで経っても上手くならないですね。
映像でカットインカットアウトしまくるのは、
私の頭ではわかってても。。。
けれど言葉の使い方は、とても好きです。
日常会話なんてみんな下手だったり言葉足らずなんですもん。
こんなもんです。
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隣の教室
「ふぅぁ、ふぅぁ」
(なんだ、すごい気持ち悪い)
かおりんは、右手で胸の臙脂リボンを掴み、大口で息を吸い込みながら、うつむいた。
「ねえ、かおりん、大丈夫」
山元が左手でかおりんの頭を撫で、右手でかおりんの背中をさすった。
「え、うん、たぶん、すぐ治ると思う」
(心臓がどうかしたのか)
元の教室
「よし、っと。まだか、守田」
中谷は銀色の上に白チョークを置き、両袖のチョーク粉を掃いながら、そう言った。
「ちっと待って、もうすぐ終わるから」
守田はアミダの線を、細かく、大まかに、引いていた。
「いや、終わんなくていいって。昼休み終わるまで、ずっと」
男は守田の方を向き、両手を使って意味のわからないジェスチャーをした。
「お、わかった。じゃ、もっと速く書こっ」
「おまっ、違げえだろ」
「よし、いいぞ、速くしろな」
「は~い~」
「おい、それ、俺のイクラちゃんだろ」
「ば~ぶ~」
「ほんと、ずりぃよ」
「いいじゃねえかよ、ギャグのひとつぐらい」
「だめだよ、俺のだもん、それ」
「ほんと、セコイって言うか、わけわかんねえとこ、細かいな」
「だっ、それ、俺のだもん」
「おまえ、そんなんだから、返事もこねえで、ふられんだよ」
「おい、守田、そこまで言ってやんなよ」
「ほんと。結構、痛いとこきたぜ、今の」
「わりぃわりぃ、悪気があったんだよ」
「やっぱ、あったのか」
「あったじゃねえだろ」
「おしっ、こんなもんでいいだろ」
守田が黒板から目線とチョークを外し、振り返った。
「お、いい、いい」
「いや、まだ、線が全然足りねえよ」
男が、守田のアミダを指差しながら、そう言った。
「これっ、じゅうぶんじゃねえかよ」
「いやぁ、ダメだな」
「守田、相手にしなくていいよ。どうせ、時間稼ぎなんだから」
「あ、そっか」
「時間稼ぎって、別に、そんな戦場じゃねえんだからよ」
「いや、絶対、時間稼ぎだ」
「まあいいじゃん、早く始めちゃおうぜ」
守田は黄チョークを銀色の上に置くと、短めのピンクチョークを持って、そう言った。
「おっ、そうだな」
中谷も、銀色の端にあった短めのピンクチョークを持った。
「お前ら、本気でやんのか」
「当たり前だろ」
「そのために、これ書いたんじゃん」
守田が、左手に持ったピンクチョークで、書き終えたアミダを指しながら、そう言った。
「ちっと、今日はやめとかない?」
「んでだよ」
「やっぱ、アミダはおかしいって」
「おかしかねえよ」
「じゃ、守田、これで決められっか?」
「俺は、別に関係ねえだろ」
「そうだよ、こいつは安部一本なんだから」
「まあ、そりゃそうだけどさ」
「おまえら、それのがもっと関係ねえだろ」
「いや、大アリだろ」
「守田、そんなん気にしないで、早いとこやっちまおうぜ」
「おう。で、どうやってやんの?」
「なあ、この4つの線の中で、どれがいい?」
中谷は1、2、3、4の番号が書かれたアミダを、右手に持ったピンクチョークで指しながら、男にそう尋ねた。
「え、俺?」
男は瞳を大きめに見開き、右手の人差し指で自身の顔を指しながら、半上がりの声でそう答えた。
「当たり前だろ、おまえの好きな奴決めんだから」
「ほんとにか」
「ま、とりあえずさ、どれにする?」
中谷は1、2、3、4の番号が書かれたアミダを、右手に持ったピンクチョークで指しながら、男にそう尋ねた。
「ああ。じゃ、一番右でいいや」
「一番右っと」
中谷はアミダの一番右の線上に、×を書いた。
「じゃ、次は?」
5、6、7、8アミダを指す。
「一番左」
「一番左ね」
アミダの一番左の線上に、×を書いた。
「で、次」
9、10、11、12アミダ。
「左から二番目」
「二番目さんサン」
アミダの左から二番目の線上に、×を書いた。
「お、じゃ、今度、俺んとこか。どれにする?」
守田は、中谷と同じように、13、14、15、16の番号が書かれたアミダを、右手に持ったピンクチョークで指しながら、男にそう尋ねた。
「え、右から二番目」
「おしっと」
守田はアミダの右から二番目の線上に、×を書いた。
「じゃ、最後は?」
17、18、19、20アミダを指す。
「真ん中」
「どっちの」
「真ん中は真ん中だろ」
「おまっ、これ、4人ずつなんだから、あるわけねえだろ」
「じゃ、左のでいいよ」
「左の方っと」
アミダの左から二番目の線上に、×を書いた。
「おし、これで後は、アミダるだけだな」
「もう、アミダっていいのか」
「おう、アミダれ」
中谷と守田が、×印から、アミダの流れに沿って、線を下に引く。
「えっと、まず、4番の加藤由貴里嬢」
「こっちは、14番高原」
隣に移り、線を下に引く。
「今度は、8番の染田涼子姫」
「えっと、18番は、あ、斎木」
中谷だけが、更に隣に移り、線を下に引く。
「で、最後は、9番吉川由佳里君」
「おっ」
〈残ったじゃん〉
隣の教室
「ふぅ」
(寝不足過ぎたかな)
元の教室
「どうですか、お気に入りはいましたか」
「知らねえよ」
「あ、その顔はいたな」
「いいじゃねえか、どうだって」
「あ、ヤベ、時間ねえから、早く決勝戦行くぞ」
「おいっす」
「決勝って、別に試合じゃねえんだから」
〈なんで俺、こんなにドキドキしてんだ。単なる遊びだろ、こんなの〉
隣の教室
「あっ」
(アツイ)
右手で瞳を押さえる、かおりん。
元の教室
「これ再利用でいいっしょ」
中谷が9、10、11、12アミダをチョークで指した。
「おお、そんで十分」
「ダメだよ~、ちゃんと書いてくれなきゃ~」
「また、時間稼ぎ作戦だよ」
「もぅ、相手にすんな」
中谷は、アミダ下の数字を消し、線を一本縦に引き、横に複数引いた。
「ほんっとにやる気か」
「もう、後には引けねえだろ」
「全然引けるって」
「いいから早く、どこにする?」
中谷が左から順に4、8、9、14、18と線下に番号を書きながら、男にそう尋ねた。
「あぁ、じゃ、今度こそ真ん中」
「真ん真ん中っすね」
中谷は、右手に持ったピンクチョークでアミダの真ん中に×印をつけた。
「よし、いこぞ」
「いこぞって」
「イ・ク・ゾ」
中谷がアミダの流れに沿って、線を下に引く。
「さあ、どうなるんでしょうか」
守田が簡単な実況を始める。
「別に、どうでもいいって」
〈いや、でも〉
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『鼓動』
気 付 く に は
少 し 遅 す ぎ た と
嘆 く 前 に
自 分 の 鼓 動 を
感 じ 取 れ れ ば
そ れ が い い
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第16回
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第15回あとがき
[当時]
今回は、おふざけが過ぎたかなって感じです。
あまりに、くだらない会話が多すぎて、
その割には、核となる台詞が少なくて、
正直、なにがなんだかわからなかったと思います。
だけど、わかりあった男同士の会話っていうのは、
本来こういうものだと思い込んでいるんで、
その辺は、勘弁していただきたいです。
[現在]
頭で思い浮かんだ映像を文章化するのが、
いつまで経っても上手くならないですね。
映像でカットインカットアウトしまくるのは、
私の頭ではわかってても。。。
けれど言葉の使い方は、とても好きです。
日常会話なんてみんな下手だったり言葉足らずなんですもん。
こんなもんです。
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