「北風が吹いて骨の髄まで凍えそうな晩はおでんが恋しくなる。白い湯気とともに立ちのぼる美味しそうな匂いをかぎながら、チクワやコンニャクの煮えるのを待つ気分は格別のものだ」とは「ことばの歳時記」の「おでん」の項の書き出しだ。
母親の味だったおでんがコンビニの味となって久しい。しかも冬場だけでなく春秋もいれた長期間、ベストセラーの位置を守ってきたのだ。最近は夕方になるとおでんの具が売り切れになるそうで「おでん好きが多いのかしら」というのが家人の言だった。
単純だが自ら美味く作るとなると難しい料理だから、比較安価におかず一品がゲットできるとあって、独りものが買い求めていく姿を目撃することも多かったから、おでん需要は相変わらずあるのだろうと思っていた。
ところが、どうやら「売り切れ」の理由は違っていたらしい。今日の中日夕刊一面には「コンビニおでん潮時かも」「売れ残りで廃棄/人手不足」「店舗が販売中止・縮小」という5段記事が載っていたのだ。
コンビニ大手のセブン・イレブンでは定番のおでん販売を中止・縮小する動きになっている。つゆに浸す時間の長いおでんは販売できる時間が短くなるうえに、清掃や補充にも手間がかかる。売れ残り分を廃棄する費用はほとんど店舗負担になるから利益が出にくく、従業員の人手不足もあってジーの店主側からは敬遠されるという実情があったのだとある。
セブンのマニュアルによると、おでんつゆは煮込んでから9時間が販売の目安。種はつみれが3時間、薩摩揚げやコンニャク、ロールキャベツが5時間、大根や卵が8時間と決められており、温度や衛生管理のほかに数量の補充と廃棄時刻をログするなど極めて細かい。店主はもとよりアルバイトも内心では面倒くさがっていたという訳だ。
貧乏な利用者にはありがたいのだが、1個80円から130円の売値でしかないとすれば、たしかに時間や人件費のコストロスが出てきそうだ。年間6カ月以上をおでん提供期間にしてきたらしいから、利用客の減る夏前や秋口などには廃棄費用が販売額を上回るということもあるらしい。コンビニ店舗数はいまも増加傾向だが、おでんを取り扱う店舗は全国的に減っているのだという。
ファミリーマートが採った対策は、おでん販売期間を3か月に短縮し、来年からは個別注文で電子レンジを使って温める方式を取り入れるのだそうだ。冬場3か月はこれからも販売してくれるというのなら結構だろう。
ただ、電子レンジを使って温めるというのはいただけない。湯気のたったたっぷりのつゆの中でことこと煮えている好みのおでんネタをひとつづつ自分で選びたいではないか。プレパッケージされたレト容器をチンするのは興ざめである。
覚えていますか寒い夜
赤ちょうちんに誘われて
おでんをたくさん買いました
月に一度の贅沢だけど
お酒もちょっぴり飲んだわね
やはり、今のコンビニおでんでは、かぐや姫のこの歌のちょっとしょっぱくて哀しい感じは得られないのかもしれない。
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