少し古い話題になってしまいますが、作家の藤原伊織さんが亡くなられました。確か2年ぐらい前に自分が食道ガンだと発表なさって、放射線治療などを受けながら執筆活動を続けられていたと聞いていました。50歳代といえば、「ガンの世界」では若いですからね、進行も早かったんでしょうね。訃報を見たとき、「あぁ、やっぱり、早かったなあ。」と思ってしまいました。
イオリンというのは、同じ推理作家の黒川博行さんがこう呼んでいらっしゃるようです(イオリンの文庫の解説に書いていらっしゃいました)。私もそれに倣ってこう呼んでいます。イオリンは、私にとって「間違いのない作家」の一人でした。最初に読んだのは「テロリストのパラソル」です。乱歩賞と直木賞をダブル受賞した史上唯一の作品です。私が読書の師匠と仰いでいる人に、「賞を取っているのは、それだけの理由があるから、ナントカ賞受賞の作品は間違いないから」と以前言われことがあります。最近は、それもちょっと怪しそう・・・と思うことがありますが。その教えに従って、ハードボイルドは苦手だったんですが、買ってみました。結構分厚い本でしたが、面白くて夢中になって、あっという間に読むことができました。
それ以来、イオリンのファンになり、文庫になった小説はほぼ全部読んでいると思います。「全部」と言っても、イオリンは電通の社員と二足のわらじの作家活動だったので、非常に寡作でした。たぶん、2、3年に1冊ぐらいのペースだったんではないでしょうか。
文章がとても良いですよね。無駄な言葉が一切なく、推敲に推敲を重ねられたんだろうなと思ってしまう文章です。ストーリーもうまく収束していって、ジグソーパズルの最後の1ピースがピタッとはまるよな感じです。それと、登場人物が非常にチャーミングです。ちょっと、ワンパターン気味な感じもなきにしもあらずですが、ちょっとくずれた、ストイックな生き方をしていて、優しい、しかも仕事が出来るって、憧れてしまいます。何となく、私は俳優の佐藤浩一のイメージで勝手に読んでいるんですが。
昨年、文庫「シリウスの道」が出て久しぶりにイオリンを読みましたが、その中に「テロリストのパラソル」の登場人物が一人出ていて、これから、この人物をキーパーソンにしてシリーズ物ができたらいいなぁと思ったんですが、それも叶いませんでした。今年初めに出たハードカバーの「ダナエ」という小説が最後の作品になったようです。
もっともっと書いて欲しかったです。まだまだいろいろな「引き出し」をお持ちだったように思います。残念です。謹んでご冥福をお祈りいたします。