ちょうど1週間前になりますが、住大夫師匠のトークショー「人間国宝 竹本住大夫 わが芸と人生を語る」に行ってまいりました。会場に行くまで、朝日カルチャーセンター主催だと思っていたのですが(住師匠のお教室があったので)、NHK文化センターの主催でした。そういえば、住師匠の引退のドキュメンタリーを撮ったはりましたからね。そのつながりなんでしょうか。
NHKということで、司会進行は元NHKの葛西さんでした。古典芸能関係の番組をずっと担当されていた方です。もちろん住師匠ともお顔馴染みです。
住師匠、意外に小柄な方でちょっとびっくりしました。いつも座ったはる姿しか見ていないっていうのもあるかもしれませんが。
お話の内容は住師匠のご本「人間、やっぱり情でんなぁ」や「文楽のこころを語る」に書かれてあったことや引退時のドキュメンタリー番組で見たことで、「その話、知ってるわ」と思いつつも、やはりご本人の口から、それもあの“正しい”大阪弁で聞かせていただくとずずーっと引き込まれます。語り口の上手さなんでしょうか。
特に体系だててお話されたわけではなく、本当にアトランダムでした。なので、私もメモをそのまま書いていきます。
①引退のこと
脳梗塞で82日間入院し、その後リハビリを経て半年で復帰されました。そのときの拍手はすごかったそうです。でも、1月の文楽劇場、2月の国立とご自分では非常に不本意な出来で、「もう無理」と思われ急遽引退を決意されました。言語のリハビリでは、芥川とか太宰の小説を声に出して読むというプログラムがあったそうですが、それは全然出来なかったそうですが、浄瑠璃の本を持ってきてもらってそれを読むとスラスラ読めて、病院の先生もびっくりされたそうです。身体に染み付いている、身体の一部になってしまっているのでしょうね。
②天皇陛下と皇后陛下
心安うしたはるそうです。5月の国立での引退公演には両陛下がいらっしゃいました。皇后陛下は住師匠の「人間、やっぱり情でんなぁ」の本をお読みになったそうで、住師匠が恐縮したはりました。文化勲章受賞は本当に嬉しくて、その前にフランスのコマンドールも受けていらっしゃいますが、それよりもずっと嬉しかったとおっしゃっていました。
③お稽古
舞台にはお立ちになりませんが、若い人にお稽古はつけていらっしゃいます。あのテレビのとおり「アホ、バカ、目ぇ噛んで死んでまえ」と言いながらお稽古したはるみたいです。「わしが代わりに出たろか」と思われることもあるそうで、若い人にはもっと文楽を好きになってほしいと。100点満点はない、基本に忠実に、あとは人間性の問題。最近のお客さんは何でも拍手してくれるけれど、「良かった」という拍手か、「やっと終った。せいせいした」という拍手か、聞き分けるようにならないといけない。
④国立文楽劇場
出来たときは「我が家」が出来たみたいで嬉しかった。でも、最初は音の反響?が悪く、やり直ししてもらったそうです。語りやすいのは東京の国立小劇場。
⑤引退公演
急に引退することになったので、演目のほうが先に決まっていた。「桜丸」は兄弟子の越路大夫さんの引退公演、「沓掛村」がお父様の六世住大夫さんの引退公演だったそうで、偶然とはいえ、すごい因縁です。「沓掛村」という演目は陰気くさい、貧乏くさいお話なんだそうですが、語るほうは登場人物が多くていろいろ語り分けられるので面白いとおっしゃっていました。
⑥薬師寺
薬師寺の高田好胤管長と親しくされていた関係で、住師匠は「奘宝」、奥様は「浄光」というお名前を頂かれています。
⑦「音(オン)」
住師匠がよくおっしゃっている「音(オン)」、葛西さんが質問してくださいました。例えてみれば、大阪駅のアナウンスで、昔は駅員さんが「おおさかぁ、おおさかぁ」って言ってたけれど、今は人工音声の「オオサカ、オオサカ」、この小さい「ぁ」が大体それに当たるそうです(厳密にはピッタリの例ではないようですが、素人さんにわかりやすくおっしゃったのだと思います)。ここで住師匠が「それは聞こえぬ伝兵衛さん~」とオンを使った場合、使わない場合で語ってくださいました。ラッキーでした。
声色を使ってはいけない、語り分けないといけない。のどの奥から鼻に抜けさせ、眉間から声を出す。
⑧大阪弁
浄瑠璃は大阪弁。三味線の節付けも大阪弁。楽屋で東京弁を聞くと腹が立つ。
⑨玉女さん襲名
先代の玉男さんの「熊谷」は動かないけれど品のあった。そういうのを目指してほしい。
⑩「人間、やっぱり情でんなぁ」

表紙は「喜怒哀楽」の顔。ご本人はあまりお気に召していないようです。会場ではサイン入りの本の販売もありました。私は既に読んでいたのでパスでしたが。聞き書きで、インタビューされた方が文字に起こされていますが、住師匠の実際の語り口よりはちょっとあっさりめのような気がしました。これより前の「文楽のこころを語る」のほうがもっと“大阪弁”だったように思います。
⑪最後に
「文楽をおたのもうします」
今年は観客動員数が目標を上回り、来年の補助金は確保しましたが、その次の年からは補助金ではなく、事業ごとの助成になるそうで、ってことは事業ごとに申請をしないといけなくなり、それって技芸員さんの仕事ではないし、もうちょっと何とかならないものでしょうか。