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1995.9内蒙古でパオの解体・組立に挑戦

2023年02月26日 | 旅行
<中国を行く>  1995.9 内蒙古正藍旗でパオの解体・組立に挑戦


 周りが明るくなり、目が覚める。円形の壁も凸型に膨らんだ天井も白い。不思議な空間にいるのが夢のように感じたまましばらく横になっているうちに、真夜中の1時過ぎにブルタラのツーリスト・パオに着き、半分眠りながら歌舞晩餐の歓迎を受けたことが、カメラのピントが合うようにしだいにはっきりしてくる。
 つまり、ここはパオの中で、太陽が昇り、羊の皮を透かして明かるくなったのだと気づく。時計は8:00、たぶん6:00ごろには明るくなっていたのであろうが、熟睡していたようだ。
 眠けがまだ残るが起きだし、パオを出る。地面は凸凹した草むらがどこまでも続いている。
 モンゴル人民共和国を訪ねたときにもゴビのツーリスト・ゲルに泊まった。ゴビの地面は砂利混じりの土で茶褐色が優勢であり、草は砂利のあいだに弱々しく伸びているだけだった。
正藍旗のパオの周りは緑色が優勢で、草がしっかり根付いている。草は均質に伸びているのではなく、ボコ、ボコと塊になって伸びている。ぼんやりしていると草に足を取られるので、つまずかないようにツーリスト・パオは木製デッキで結ばれている。
 前述したが、フホホトに初めてやって来たモンゴル人が、しっかり根付いた草原を見て感動し、思わず青い城=フホホトと感じたのではないだろうか。
 大型パオで羊の肉、温野菜、パン、牛乳の朝食をとったあと、私たちはパオの解体・組立に挑戦することにした。ブルタラのホストに伝えると、壊したら弁償してくれれば構わないとの返事だった。


 私が泊まったパオ(写真)は直径5.5mほど、高さは2.4mほどで、ブルタラのスタッフによれば大人2人で解体1時間、組立2時間だそうだ。
 パオの周りを歩き、手順を考える。骨組みは部材を紐で縛ってあり、その上にフェルトを掛け、綱で縛ってある。綱をほどきフェルトを外し、紐をほどき部材を外していけば良さそうだ。


1.屋根頂部の覆い布=ウルフを外す
 ウルフは天窓の開閉装置であり、暑いときはウルフを開けて風を通し、寒い時はウルフを閉じて熱気を外に出さないようにする。採光の役割もある。ウルフの四方に伸びた綱=ドゥブルが地面の杭に縛ってあるので、綱をほどくとウルフはすぐ外れる。


2.屋根、壁の白いフェルトを外す
 外周を固定している3本の綱=ブスルーラーをほどく。屋根のフェルト、次に壁のフェルトを外す。白いフェルトは羊毛を織った布で分厚く、脂があり、防水、断熱効果があるそうだ。


3.屋根、壁の黒いフェルトを外す (上段左写真)
 白いフェルトを外すと下地の黒いフェルトが現れる。黒のフェルトは山羊の毛を織ったそうだ。
 黒のフェルトを外すと骨組みが現れる。
4.パオの骨組みを分解する (上段右写真)
 骨組みは、屋根頂部の天窓枠=トーノ、屋根の構造材であるオニ、壁の構造材であるハナ、南側、風下側を向いている入口扉=ウードで構成されている。


5.天窓枠=トーノを外す (写真)
 トーノは木製で、直径1.2mぐらいの二重円になっていて、外円を2本の緩い円弧の部材がつなぎ、その中間に内円がつけられ、内円と外円を4本の部材でつなぐ形になっている。
 外円の縁には、8分円ごとに12、計96の穴が開けられている。


6.屋根材=オニを外す (前頁下段左写真)
 オニは柳の木である。オニの上先端はトーノの外円外周の穴に差し込まれ、下先端は壁材のハナの上端で紐で縛られているので、ハナとオニを結合している紐をほどき、トーノからオニを抜いていく。オニは長さ2mほどだった。
 オニを96本抜くことになるが、バランス良く抜いていかないとトーノが落ちてしまう。あるていどオニを外したら、パオ中央に台を置き、台に上って一人がトーノを支え、もう一人が最後のオニを抜き、トーノを降ろす。


7.壁材=ハナ、扉=ウードを解体する (前頁下段右真)
 ハナも柳の木で、手前に柳の木20本ほどを左斜めに、奥に20本ほどを右斜めにして重ね、伸び縮みできるように交点をピン留めしてある。
 ハナは6組が円形に並べられていて、ハナの接合部は右のハナと左のハナを重ね合わせ、紐で縛ってある。直径5.5mの周りに6組のハナを並べると、高さは1.6mほどになる。
 たぶん、1.6mほどのハナの高さがパオの高さの基準なのであろう。少し大きいパオにしたいときは、ハナを8組並べるそうだ。
 紐をほどき、ウードを外し、ハナを6組に分解する。ハナを蛇腹のように縮めると運搬しやすい形になる(写真)。

 解体すると、前々頁下段右写真のように部材ごとに小さく分けることができる。これなら、解体、移動、組立は容易である。手慣れたモンゴル人なら直径5.5mほどのパオを2人で解体1時間、組立2時間、計3時間と聞いたが、素人の私たち5人+見るに見かねて(壊されるのを心配し?)手を貸してくれたスタッフで、解体に1時間半ほど、組立に2時間半少し、計4時間もかかった。
 組み立てが終わったパオをブルタラのスタッフがチェックし、笑顔でOKという(壊されなかったという笑顔かも?)。素人でも解体・組立ができるし、慣れれば解体1時間、組立2時間でできるのだから、パオ=ゲルがいかに簡便か想像できよう。


 ツーリスト・パオの解体・組立で気づいたことがある。モンゴル人民共和国のゲルの中央にはバガナと呼ばれる柱が2本立ち、真ん中にストーブが置かれていて、神聖な場として位置づけられていた(写真、1993.8、モンゴル人民共和国ゴビのゲル)。
 ところが内蒙古自治区のパオには柱=バガナがない。ツーリスト用のためかも知れないと思ったが、このあと訪問したパオでも柱バガナはなかった。ストーブは真ん中に置かれていて、神聖な場として位置づけるのは共通するようだ。理由は分からなかったが、ゲルはバガナが立ち、パオはバガナを立てないのが一般のようだ。
  (2023.2加筆)

コメント
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