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マコーレイ著「キャッスル」はエドワード1世のころウェールズに新たに建設された城郭モデルの大型図解本

2020年12月04日 | 斜読

book513 キャッスル デビッド・マコーレイ 岩波書店 1980  <斜読 海外の作家一覧>   

 新型コロナウイルス感染予防で図書館が休館になっていた4月ごろ、本棚を整理していて1980年代に日本語版が評判になったデビッド・マコーレイ著の大型図解本を見つけ、改めて読んだ。
 イギリス生まれの著者は少年時代にウエールズの城を見て回り、古城に興味をそそられたそうだ。副題の「古城の秘められた歴史を探る」からマコーレイの思いを感じる。
 アメリカに移住したあと建築を学んだマコーレイは、中学上級~レベルの大型図解本、1973年にcathedral、1974年にcity、1975年にpyramid、1977年にcastleを出版した。専門的な内容を、大判の図を描き分かりやすく解説していて大人も楽しめる。
 
 キャッスルは、1277~1305年にウエールズ征服のためイングランドが築いた城郭と、城郭とともに建設された町を仮想して描かれている。
 p6、1283年3月27日、イングランド王エドワード1世(実在、1239-1307)は、ケビン郷をウエールズのアバワイバーン領主に任命する・・日時まで記されていて現実味を感じるが、ケビン郷もアバワイバーンも架空である・・。
 p8~9、ケビン郷と主任技術者は候補地を検討し、ワイバーン川の河口の石灰岩の高台を選ぶ。敵地だから停泊した船を本拠に、材木や道具などを船から運び、敷地の周りに幅の広い堀を掘り、仮設の防護柵をつくる。
 p8~9と同じ俯瞰で工事着手から城郭と町の完成、さらに町の発展を描いている・・まずp20~21で井戸を掘り、p26~27で外城壁の工事中、p32~33で外城壁の完成と城郭の前面に計画された町の市城壁の工事中、p46~47で内城壁の工事中、市城壁の完成と商人、職人の家並み、市外の畑地、p64~65で完成した城と町並み、農地、p76~77で市城壁を越えて市街が発展する様子を描いている。
 イングランドでは城郭と町が一体として計画されたことが理解できる。イングランドの計画手法なのであろう。

 城郭の構造や防御の仕組みも大判の図解で理解しやすい。
 p10に建設予定の城郭平面図が描かれている。ワイバーン川と海に面した高台の突端に、内郭と呼ばれる四角い中庭を囲んで居室、兵舎、広間、台所を四方に並べ、四隅に丸い塔を備えた厚い内城壁で囲んでいる。内城壁の外側に方形の外城壁をつくって二重の壁で敵に備えている。
 p12~に内城壁、外城壁の断面図、立面図が描かれている。内城壁は外城壁より高く、塔は城壁より高くして味方の兵を援護する工夫がなされている。
 p19に市城壁の基礎づくり、p23に城壁の構造詳細、p24~25に鋸壁、狭間壁、矢狭間を設けた外城壁の工事、p28~29に市城壁の歩廊、U字型塔、p30に内城壁の矢狭間、p31に腰掛けをつけた窓のデザイン、 p34~35に塔の詳細と敵への備えの工夫、p36~37に塔の断面と塔の使われ方、p40~41に地下牢、礼拝堂、p42~43に城郭の便所、p44~45に城門の仕組みと落し格子、p51に外城門の跳ね橋、p56~58に大広間のつくり方、p59に貯水槽と台所流しなどがていねいな図と解説で紹介されている。
 図が大判のため、イングランドの城郭づくりの特徴がよく分かる。

 p16~17に城づくりにかかわる職人たち、p18に道具類、話が飛んでp54に武器、p49、p66、p67に町の暮らしが描かれ、当時の人々の暮らしぶりを想像することができる。

 城郭の工事の初期は冬になると多くの職人はイングランドに帰り、春に戻って工事を再開し、完成とともにこの町に暮らす人が増えていく。イングランドからの移住が奨励されたのであろう。
 一方で、ウェールズの貴族のなかには反乱を企てる者もいた。p70~75には反乱軍との戦いが描かれている。しかし、防御に優れた城壁を崩すことができず、反乱軍は退却する。
 p76~にウェールズとの融和の大切さが述べられている。融和には長い時間がかかったようだ。
 p78~79にはこの城郭を歴史を伝える遺物として描いている。いまや城郭を必要としない社会になったことを描き、共存共栄、平和な世界を訴えている。

 p80~に訳者である桐島真次郎氏の訳注と専門的な解説を加えたあとがきが書かれている。イングランドの歴史に詳しくない中学上級~生のために、大人が補足するのに好都合である。あるいは中学上級~生への刺激となり、英国への関心が高くなるかもしれない。 (2020.3)

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