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「顔に傷のある男」は独立後のポーランドの農村を舞台に巡査長が強盗殺人犯を証す推理小説

2019年06月22日 | 斜読

book493 顔に傷のある男 イェジィ・エディゲイ 早川書房 1977  (斜読・海外の作家一覧)
 ポーランドの予習にとポーランド人作家の本を探してこの本を見つけ、ポーランドツアーの飛行機で読み始めた。しかし、ツアー中は読む時間が無く、帰国後に読み終えた。
 著者イェジィ・エディゲイ(1912-1983)は、16世紀、ポーランド王国がもっとも勢力を拡大した時代の宮廷騎士団が祖先らしいが、この本は現代を舞台にした推理小説である。
 この本の原作は1970年出版である。第2次大戦下ではナチス・ドイツの支配下にあり、町は徹底的破壊され、300万人といわれるユダヤ人が犠牲になった。
 第2次大戦後、ポーランドは独立するものの共産党一党独裁の圧政を受けた。たぶん著者も20代に戦争を、30代で共産党独裁と民主化運動を体験したに違いない・・ポーランドの民主化は1989年、残念ながら著者没後になる・・。

 この本の主人公スタニスワフ・フシャノスキーは、P56・・義務教育を終えるまえの17才のときに・・たぶん第2次大戦の・・志願兵となり、銃撃戦で胸に銃弾を受け敢闘十字賞を授かる、20才で除隊し、・・たぶん独立後の共産党一党支配時代に・・警察学校で訓練を受けたのち警官となり、暴徒作戦を成功させて地方都市の署長になったが、P57・・偉大なる経験者の時代が終わりを告げ始めたのに気づき、義務教育修了資格を取ろうと猛勉強を始めた、45才の実戦的で冷静な判断力の前向きな人物として描かれている。著者の分身だろうか。

 物語は、義務教育修了資格を取ろうと猛勉強する「1 数学の復習 」から始まる。分署でフシャノフスキーがP9等脚台形に内接する円で四苦八苦しているところに、6km?を自転車で走り続けた村長が村の協同組合の店が襲われ、女店員のミハラコワが殺された、と告げる。
 フシャノフスキーは警察電話で県警に報告し、部下の運転する単車で現場に駆けつける。 一般家庭にはまだ電話がなく、車も普及していなかったようだ。

2 「犯行現場」   この村では収穫後に協同組合で一気に買い物をするため、事件当日、店には47800ズオーティという大金があった。その大金を狙った犯行のようだ。
 なぜ犯人が大金のあることを知っていたのか、強盗目的なのになぜ殺したのか、疑問がわく。これが伏線になる。
 なお、ポーランドの通貨はズオーティで、この当時1ズオーティ≒33円だったから、およそ160万円になる。1960~70年代の物価を現在に換算すると10倍ぐらい、1600万円ぐらいだろうか。なお、ポーランドは2004年にEUに加盟したが通貨はズオーティを用いて、2019年5月のツアー中は1ズオーティ≒32円とさほど変わっていなかった。

3 「あれは悪魔だったわ」  小さな姉妹の証言から、犯人はヘッドライトをつけずに単車で逃げたこと、一人は背が高く、額に傷があり、もう一人は背が低く、二人ともストッキングをかぶっていたことが分かった。
 顔に傷のある男は2年以上前から、隣接する県まで含め、20件以上の押し込み強盗を重ねながら、追跡を逃れていた。しかし、これまで強盗と傷害だけで殺人は犯していない。
 重ねて、なぜ今回は殺人を犯したか、なぜ大金がある情報に通じていたか、疑問がくり返される。・・この答えは終盤で明かされる。

4 「台形のヘアスタイル」   フシャノフスキーは警察本部に出かけるが、本部長が会談中だったので、カロルの理容院で調髪する。
 雑談中に、等脚台形のヘアスタイルをカロルに提案する。その後、等脚台形の髪型が大流行する。これも伏線になる。
 本部長に会ったフシャノフスキーは、この事件の捜査員加わりたいと申し出る。本部長は階級は上だが若いレワンドフスキー警部補にフシャノフスキーと共同で捜査をさせることにする。

 以下、5 巡査部長、捜査を開始  6 またもや事件発生  7 教区司祭を訪問  8 ヤゲロンカでの出会い  9 レワンドフスキー警部補の失策  10 追う者と追われる者  11 ふたつの傷痕  12 罠  13 一寸法師の供述  14 ジビルスキー警部、ゲームに加わる  15 顔に傷のない男  と展開する。

 フシャノフスキーは現場を丹念に調べ、捜査ファイルをじっくり読み、これまでの経験を踏まえ、P91演繹法で小柄な一人は女だと推論するなど、理論と実践を兼ね備えた捜査を重ねる。
 フシャノフスキーの捜査を恐れたのか、フシャノフスキーが銃撃される。しかし、あと一歩の攻め手が見つからない。
 ワルシャワに出張を命じられたフシャノフスキーは、日曜日に国民劇場で演じられているコメディー「ふたつの傷痕」を観る。フシャノフスキーは俳優から傷痕のメーキャップを教えてもらい、犯人の目星をつけ始める。
 犯人は顔の傷をわざわざ見せているから犯人の狙いは想像できたが、犯人割り出しに予想外の展開が盛り込まれていた。推理小説としても楽しめるし、第2次大戦後の独立したポーランドの社会もうかがえ、参考になった。(
2016.6)

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