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1996 韓国慶尚大学で「アジアの風土とすまい」を講演、風土による異文化性を理解し、多様な存在の混成系に向かう

2016年11月05日 | studywork

1996 「アジアの風土と住まい」 韓国・慶尚大学での講演 /1996.9+2005.1

 1996年8月、韓国・慶尚大学校R教授の応援を得て、韓国南部・慶承南道九満面で民家調査を実施した。調査終了後、R教授の誘いで慶尚大学建築学科+大学院の学生およそ100人を前に表題の講演を行った。通訳は、韓国留学生だったS君である。
 当時はまだパワーポイントも液晶プロジェクタも普及していなかったのでスライドを多用し、ヴィジュアルな講演を目指した。
 画像がないと以下のレジメだけではわかりにくいかも知れないが、本旨は伝わると思う。読み直してみて、初心を思い出す。
 その後も異文化へ関心は少しも衰えず、南アジア、北アフリカ、南ヨーロッパなどへ展開し、文化の多様性に目を奪われている。なお研鑽を重ね、異文化の混成の重要性を説いていきたい。

1 風土の力
 風土とは、その土地の気象や地勢などの自然環境条件が人々の生活に及ぼす力である。自然環境条件は、暑いか寒いか、雨が多いか乾燥しているか、平坦地か山間地か、海が近いか草原か、地味が豊か乏しいかなど、それぞれの土地によって変化している。
 私たちは、まず、多様な風土形態の存在を認めなければならない。
 人々は、ある土地に定住し、その土地の風土の力を受ける。遊牧民も、ある広域な範囲の中でねぐらを定期的に変える形式の定住であり、その土地の風土の力を受ける。
 風土の力は、一面では暴力的であり、生活を脅かすことも少なくないが、むしろ基本は人々に恵みをもたらし生命力を養う力である。人々はその土地に固有の風土の力を受け続け、そして文明を発達させ、その土地に固有の文化を形作ってきた。
 土地によっては風土が豊かな生産を保証することがある。豊かさは魅力であり、次第にその土地が栄え、文明の先進地になる。
 一方、風土が生活に壊滅的な打撃を与えたり、もともと土地がやせて実りが少ないこともある。栄えた土地から見れば文明の後進地である。
 このことから、私たちは、人々の文明度や生活文化がその土地の風土よって規定された個性であることを認めなければならない。
 先進文明は、水が高いところから低いところに流れるように、後進文明に向かって影響を及ぼす。文明は人によって転移されるのであるから、文明の転移とともに先進文明の人々の考え方や生活の仕方が後進文明の人々に伝播されていく。
 先進文明に裏打ちされた異文化は人々に魅力と刺激を与え、その土地の文明を開花させ、文化の更新を促す。
 もし、人々が先進文明に溺れ努力を惜しむなら、やがて文明は退廃しよう。後進文明であったところは、進取の精神に富み、努力を惜しまず工夫を重ねるため、やがて富が蓄積され栄えることも少なくない。
 歴史は、私たちは風土が与えてくれた恵みに溺れることなく、異文化を取り入れその土地の文化を常に切磋琢磨することの必要を教えてくれる。
 つまり、それぞれの土地は、その土地の風土のもとで豊かに暮らすための智恵と技の宝庫なのである。暑いところで暮らす智恵、寒さを制御する技、水害に安全な住まい、傾斜地を活かす技術、草原での生活様式、・・・。それぞれが風土によってもたらされた智恵と技に他ならない。
 近代文明、現代文明は、その土地の風土にかかわらずどこでも同じ快適さを享受できる技術を私たちに与えてくれた。しかし同時に、技術や資本による新しい格差や地球環境の危機が生じていることも事実である。
 もし私たちが、それぞれの土地にある風土による智恵と技を再評価することができるならば、人々の多様なあり方が風土による個性であることを認めあうことができるはずである。
 そして、それぞれの土地にある智恵と技を現代の目で交換することができるならば、技術過信・資本至上に偏らずに生活を豊かにする技術を再構築できるはずである。
 それは進取の精神を養い、豊かな生活文化を醸成しよう。
 私はアジアを何度も訪ね、その土地の民家を見せて頂いた。伝統住居には確かに風土の力が宿っている。同時に文化交換による優れた所産も各地で見つけることもできた。
 今日はスライドを用いながらその幾つかを紹介したい。皆さんの学問や研究の刺激になれば幸いである。
・・・以下略・・・

5 多様な存在の混成系に向かって
 アジアの各地にはそれぞれの土地の風土を背景とした固有の文化があり、しかも、それらが時には対立し、時には融合しながら歴史を作りだしていて、極めて多様な住居様式を作り出していることが分かる。
 分析的な視点でそれらの様式を解読すれば、風土の力と人々の智恵の堆積を抽出することが可能である。そして同時に、伝統住居はその地域の風土を背景として堆積された智恵の宝庫であることも理解されるはずである。
 つまり、ある土地の伝統住居は、ある風土的条件を制御する智恵とある風土的条件を活用する技を現代人に伝えている文化発信装置といってもよい。
 さらに相対的な視点で各地の住居形態をとらえるならば、文化の衝突や文化の習合によってどのような文化様式が形成されるかを明快に示してくれる。
 歴史のなかで実に多くの文化の組み合わせが実践されてきた。さらに、歴史による自然淘汰は組み合わせの良否をも私たちに教えている。
 私たちがこれらの文化発信を正しく受け止めるならば、私たちは歴史が教える風土の力と人々の智恵の堆積を自分の技として活用することができる。しかしもし、気がつかず受信しなければ、私たちはこれまでの歴史をもう一度繰り返さなければならない。
 歴史を繰り返さないためには、風土を背景とした存在を個性として捉え、試行錯誤された組み合わせの存在の混成を了解しあうことが必要である。
 その上で、未来に向かって新たな組み合わせを構築すればよいのではないだろうか。

 

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